記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

文字の大きさ
26 / 75
君を守りたくて

7

しおりを挟む
***


「親父さんから何か連絡あった?」

 カメラレンズにホコリを取るためのブロアーをかけながら、もはや日課となっている質問を、拓海は光莉に投げかけた。

 ここ何日か拓海と一緒に暮らしているが、彼は時折、カメラをぶら下げて、ふらっと出かける。撮影した写真には興味がないのか、はたまた、プロのカメラマンである光莉に見せられる写真はないと謙遜しているのか、何を撮ってきたのかは教えてくれない。

 ほかに出かけると言えば、バーのシオンぐらいだろうか。店長の基哉とは親しくしていたが、それでも、光莉を初めてシオンに連れていった時ほどの盛り上がりはなく、たわいない酒の話をして帰宅するのが常だ。

 来月から仕事復帰すると言っていたが、光莉の知る範囲では、同僚と連絡を取り合っている様子はない。

 こうして光莉と過ごす時間が、案外、彼にとって一番の息抜きになっているのではないかと思うほどの単調な生活をしている。必然と、話題が理乃に集中するのは仕方ないだろう。

「理乃に間違いないって、連絡あったきりだよ」

 父の話によれば、DNA鑑定の結果、東京湾で見つかったキャリーバッグに入った遺体は、松村理乃に間違いないとのことだった。

 何も心配しなくていい。ロサンゼルスに戻って母と一緒にいるように、と父には言われたが、すぐに帰る気になれなくて、光莉は拓海の好意に甘えて日本にとどまっている。

「捜査、どうなってるんだろうな。俺たちが知ってるのは、赤村って恋人がいたことだけだからな。どうしても疑っちゃうよな」
「やっぱり、赤村さんが関わってるのかな……」

 拓海はまだ、赤村を疑っているようだ。状況を考えれば、一番に疑われるのは赤村だろうと、光莉も思う。理乃との別れや、彼女が行った妻への嫌がらせは動機になるだろう。そして何より、赤村は激昂しやすい人物に見えた。

「可能性は高いよな。赤村の奥さんも松村を恨んでるみたいだけどさ、光莉を松村と勘違いしたってことは、松村の顔すら知らないってことだろ?」
「そうだよね。赤村さんの奥さんは違うと思う」

 もし、彼女が理乃を殺した犯人なら、アパートには来ないだろうし、光莉に手をあげた理由がわからなくなる。

「メールの件は親父さんに話した?」
「うん。警察に伝えてくれるって。あと、退職の電話の件も」
「それにしても、松村さ、なんで退社するって言い出したんだろうな? 丸山商事って一流企業だろ? それを辞めるなんてもったいないよな」

 いくら、上司と不倫していたからって、日本を代表する大企業を退社するメリットがないと、拓海は考えているようだ。だから、はなから退職の意思を告げる電話なんてなくて、赤村が嘘をついてると思ってる。

 しかし、光莉はどうしても赤村が嘘をついてるとは思えない。その差異が生まれているのは、まだ拓海に話してないことがあるからだ。

 光莉は思い悩む。拓海に話そうか。あのことを。

「ん? 光莉、どうした?」

 光莉の浮かない表情に気づいて、拓海が首をかしげる。そんな罪のない表情を見たら、ひるんでしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...