記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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君を守りたくて

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 拓海が落胆するのを横目に、前山はこちらに視線を向けてくる。

「本田さんがロサンゼルスへ渡った理由を聞きました。大変でしたね」
「……そうですね。海外での新しい生活をどうにかしなきゃって必死で、あんまり覚えてないんですけど」

 理乃が怖いという感情が、当時の光莉を追い立てていただろう。理乃から逃げた先に待ち受ける苦難を乗り越えさせたのは、恐怖心だったかもしれないと思うほど。

「親の都合で、子どもは振り回されてしまいますね。他人同士が兄弟になったり、またその逆も。仕事柄、そういうご家庭の方によく会いますので、考えさせられます」
「そうなんですか」
「大変な思いをしながらも、立派に生きているとわかると、つい見守りたくなるんですよね」
「見守るって?」
「さっき、なんで電信柱に隠れてたんだろう? って、不思議そうにされていたので。違いましたか?」
「いえ、そんな……」

 前山は聡い人だろう。光莉が考えていることなんてお見通しだ。

 拓海の件以外にも気になってることがあるのだ。仕事帰りにこの道を通るのは、いくつかの理由があるのかもしれない。そう気づいて、光莉は尋ねる。

「さっきも、どなたかを見守って?」
「ええ。佐伯さえきさんもご苦労が多いですから。今は引退しましたが、私の父も警察官でして、父が彼らを気にかけていたので、つい、私も気になって見守ってしまうんです」
「佐伯さん?」

 初めて聞く名前に首をかしげると、拓海が「あっ」と声をあげる。

「佐伯さんって、シオンの」
「そう。シオンの兄妹です。あのような場所にバーを開いて心配していましたが、それなりに繁盛してるようで安心しています」

 それじゃあ、電信柱に隠れていたのは、シオンの佐伯兄妹を見守っていたというのだろうか。

「シオンのおふたりも、ご両親の都合で何かあるってことですか?」
「ええ。佐伯さんのご両親は子連れ同士の再婚なんです。基哉さんが大学生、千華さんが高校生のときにご両親は交通事故で亡くなられましてね。基哉さんは大学を中退して、必死に働いて血のつながらない妹を守りながら生きてきたんです」
「そんなことがあったんですか。すごく穏やかな方だから、そんな苦労があったなんて、全然……」

 穏やかな笑顔の基哉を思い浮かべながら言うと、前山はわずかに表情をやわらげる。

「本田さんは素直な方のようですね。月島さんにお似合いです」
「えっ!」
「遠距離では何かと大変ですね」
「あ、まあ、はい。……なんていうか」

 言葉につまると、前山はうっすら笑む。からかわれたのだろうかと戸惑っていると、彼女は急に立ち止まる。目の前には、東西にかかる小さな橋があった。

「もしかして、ここって?」
「うん。俺の事故現場」

 拓海は恥じ入るように言うと、橋のたもとへと進んだ。
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