19 / 75
理乃の行方
8
しおりを挟む
すると、入れ違うようにして姿を見せた拓海が、あわてた様子で駆け寄ってくる。
「今の大家さんだよな? そんな荷物持って、何かあった?」
話し声が聞こえたから外を見てみたら、光莉と大家が立ち話をしているから気になってやってきたのだと、拓海は言う。まだ、光莉が理乃の部屋に住んでいると誤解する彼の視線は、キャリーバッグに注がれている。
「あ、ううん。ちょっと出かけるだけ」
「もしかして、仕事? プロカメラマンなんだもんな」
「世界中飛び回ってるイメージ?」
感心する拓海に、光莉はからかうように言うが、彼はいたって大真面目だ。
「海外にはよく行く?」
「そうだね。今からロスに行くの。日本よりロスでの仕事の方が多いから、もう拓海には会えないかな」
「……アパート、引き払う?」
その相談で大家と話し込んでいたと思っているようだ。しかし、拓海の誤解をとく必要なんてない。光莉が拓海に近づかなければ、理乃だって嫌がらせなんてしないだろう。
「アパートはしばらくこのまま。友だちが出入りするかもしれないけど、気にしないで」
「留守の間は友だちが住んでるんだ?」
だから、部屋数の多いアパートを借りてるんだと勝手に納得してくれたみたいだ。
「彼女、ちょっと気難しいから、話しかけたりしなくて大丈夫だからね」
「気難しいって……、友だちもアーティストなのかな? わかった。話しかけないようにするよ」
拓海は思ったより、素直だ。記憶喪失になったことが影響してるのか、もともと、お人よしすぎるぐらいのお人よしなのか。どちらにせよ、理乃が出入りしていても自然なこととして受け入れてくれるだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね。昨日は泊めてくれてありがとう」
「また何かあったら、頼ってくれていいから。それとさ、迷惑じゃなきゃ、連絡先、交換したいんだけど」
拓海がシャツの胸ポケットから顔を出すスマートフォンに手を伸ばしたとき、光莉のバッグから着信音が流れた。
光莉はバッグからスマートフォンを取り出すと、「ごめん、父から電話」と断りを入れて、通話ボタンを押す。拓海は遠慮してか、数歩後ろへ下がった。
「お父さん、メール見てくれた?」
「メールしてくれたのか? 悪い。まだ見てないんだが、光莉、今どこにいる?」
開口一番尋ねると、父は意外な返事をした。どうやら、メールを見て電話をくれたわけじゃないらしい。
「理乃のアパートにいるけど、何かあった?」
どことなく、いつもの父じゃないような、焦った様子が気になって聞いてみる。
拓海がふしぎそうにこちらを見た。理乃のアパート、と言ってしまったことに気づき、ごまかさなきゃいけないと思ったが、耳もとで聞こえた父の言葉に驚いて、それどころではなくなる。
「お父さん、何? 今、なんて?」
動揺が隠しきれず、スマートフォンを持ち直す。
「理乃が、なんて?」
「理乃が死んだんだ」
「……何言ってるの?」
理乃が死んだ?
ぼう然とする光莉を心配そうに見つめる拓海と目を合わせるが、どこか焦点が合わない。
混乱する光莉を落ち着かせようとしたのか、背中に拓海が触れてきたとき、父は言う。
「東京湾で遺体が見つかったそうだ。詳しいことはわからない。父さんもこれから日本へ行く。着いたら連絡する」
「今の大家さんだよな? そんな荷物持って、何かあった?」
話し声が聞こえたから外を見てみたら、光莉と大家が立ち話をしているから気になってやってきたのだと、拓海は言う。まだ、光莉が理乃の部屋に住んでいると誤解する彼の視線は、キャリーバッグに注がれている。
「あ、ううん。ちょっと出かけるだけ」
「もしかして、仕事? プロカメラマンなんだもんな」
「世界中飛び回ってるイメージ?」
感心する拓海に、光莉はからかうように言うが、彼はいたって大真面目だ。
「海外にはよく行く?」
「そうだね。今からロスに行くの。日本よりロスでの仕事の方が多いから、もう拓海には会えないかな」
「……アパート、引き払う?」
その相談で大家と話し込んでいたと思っているようだ。しかし、拓海の誤解をとく必要なんてない。光莉が拓海に近づかなければ、理乃だって嫌がらせなんてしないだろう。
「アパートはしばらくこのまま。友だちが出入りするかもしれないけど、気にしないで」
「留守の間は友だちが住んでるんだ?」
だから、部屋数の多いアパートを借りてるんだと勝手に納得してくれたみたいだ。
「彼女、ちょっと気難しいから、話しかけたりしなくて大丈夫だからね」
「気難しいって……、友だちもアーティストなのかな? わかった。話しかけないようにするよ」
拓海は思ったより、素直だ。記憶喪失になったことが影響してるのか、もともと、お人よしすぎるぐらいのお人よしなのか。どちらにせよ、理乃が出入りしていても自然なこととして受け入れてくれるだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね。昨日は泊めてくれてありがとう」
「また何かあったら、頼ってくれていいから。それとさ、迷惑じゃなきゃ、連絡先、交換したいんだけど」
拓海がシャツの胸ポケットから顔を出すスマートフォンに手を伸ばしたとき、光莉のバッグから着信音が流れた。
光莉はバッグからスマートフォンを取り出すと、「ごめん、父から電話」と断りを入れて、通話ボタンを押す。拓海は遠慮してか、数歩後ろへ下がった。
「お父さん、メール見てくれた?」
「メールしてくれたのか? 悪い。まだ見てないんだが、光莉、今どこにいる?」
開口一番尋ねると、父は意外な返事をした。どうやら、メールを見て電話をくれたわけじゃないらしい。
「理乃のアパートにいるけど、何かあった?」
どことなく、いつもの父じゃないような、焦った様子が気になって聞いてみる。
拓海がふしぎそうにこちらを見た。理乃のアパート、と言ってしまったことに気づき、ごまかさなきゃいけないと思ったが、耳もとで聞こえた父の言葉に驚いて、それどころではなくなる。
「お父さん、何? 今、なんて?」
動揺が隠しきれず、スマートフォンを持ち直す。
「理乃が、なんて?」
「理乃が死んだんだ」
「……何言ってるの?」
理乃が死んだ?
ぼう然とする光莉を心配そうに見つめる拓海と目を合わせるが、どこか焦点が合わない。
混乱する光莉を落ち着かせようとしたのか、背中に拓海が触れてきたとき、父は言う。
「東京湾で遺体が見つかったそうだ。詳しいことはわからない。父さんもこれから日本へ行く。着いたら連絡する」
0
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる