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結婚を頼まれました
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「善田さんっ、どこに行ってたんですか。心配しますよ」
「散歩ですよ。検温の時間だろうと戻りました。あとでカフェに行ってきますね。神崎のカフェもなかなか美味しいコーヒーを出してくれます」
穏やかに、そして、ひょうひょうと楽しそうに話すから、ぽかんとしちゃう。入院生活を楽しめる御仁のようだ。
「ベッドに座りましょうか」
「ええ。手を貸してくれますか」
杖をつきながら、ゆっくり歩く惣一の手を取る。足元はしっかりしてる。
ぎゅっと手を握り返されるから、若い女の子の手を触りたいだけなんじゃないか、なんて思えてくる。品が良くて、かわいらしいおじいさんだから、つい気を許してしまうけど。
「では、検温しますね」
ベッドに腰かける惣一は、借りてきた猫みたいにおとなしい。
検温を済ませ、ベッド脇に設置された端末に、体温計をかざす。自動的にデータが送信され、電子カルテに記録されるシステムになってる。
「どこか、具合の良くないところはないですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「大事にならなくてよかったですね。またお会いできてうれしいです。あっ、ヨガマットもすごく良くて、大切に使わせてもらってます」
お礼を言うと、惣一はにこやかにほほえんだまま、私の後ろへ視線を移す。
「だそうですよ、陸斗くん」
陸斗……くん?
パッと振り返る。いつのまにか個室から出てきていた若い青年が、スマートに佇んでいる。
どうしてこうも、善田家に関わる人物は、ただ立っているだけなのに、神々しい品に包まれてるのだろう。身なり、立ち居振る舞い、すべてにそつがない。
「陸斗くん、彼女が木宮沙月さん。RIKUZENの大ファンのようですよ」
「ああ、彼女なんだ」
青年は、合点がいったようにうなずく。
惣一との出会いから、現在に至るまでの私の現状を知ってるんだろう。
彼は名乗らない。しがない看護師に下げる頭なんて持ってないんだろう。でも、そんなこと気にならない。
「善田陸斗さん……? ほんとに、RIKUZENの、社長さんっ?」
わぁ、って口を両手でふさぐ。
改めて、眺める。上質な生地で仕立てられたスーツでも隠しきれないほどの筋肉質な、からだ付き。目鼻立ちの整った、精悍な顔つき。彼のまとう凛々しいオーラには、自然と心が震える。
陸斗さんは、感極まる私を見て、ほんの少し苦笑いする。変な女だって思われただろう。
「き、木宮沙月です。RIKUZENのマシンには、いつもお世話になってます。やだ、ほんとに? わぁぁ……」
駆け寄って、握手を求めたいぐらいだけど、彼のオーラが近寄らせない。近づけない。
「陸斗くん、こんなにRIKUZENを愛してくれる子、なかなかいないですよね」
「おじいさんが知らないだけで、ファンはたくさんいてくれますよ」
「言葉が足りませんでしたね。RIKUZENを愛してくれる、堅実で聡明な方であり、私の気に入った女性がです」
「それは、限定的ですね」
陸斗さんはおかしそうに肩を揺らして笑う。なんて、優雅に笑う青年だろう。
「でしょう。どうですか? 結婚相手に申し分ないでしょう?」
「はっ……?」
思わず、デカい声が出た。さっきまで夢心地でいたのに、一気に現実に引き戻される。
さらっと、惣一はおかしなことを言った。眉をぴくりとあげた陸斗さんを、穏やかに見つめてるから本気なんだろうとわかる。
「なんて、言いました?」
陸斗さんが眉をひそめたまま、尋ね返す。
「結婚相手にどうですか? と言いました」
「俺に恋人がいないなんて思ってるみたいですね」
「いるんですか?」
「いないです」
平然とする惣一よりも、さらに平然と陸斗さんは言ってのける。
「じゃあ、いいでしょう。お嬢さんもいかがですか? 仕事仕事でなかなかプライベートが充実してない青年で、無骨なところはありますが、自宅にフィットネスジムもありますし、看護師という職業にも理解はあります。悪い話ではないはずですよ」
惣一と陸斗さんの視線が一気に私に集中する。
身体も心も震え上がる。
自宅にフィットネスジムがあるって、どういうこと? 理想的すぎる。
仕事にも理解があるって、結婚しても仕事を続けてもいいってこと。もちろん、働かなくても遊んで暮らせるぐらいの資産はあるんだろうけれど。
でも、無理だ。
憧れてたアイドルを目の前にして舞い上がってしまったような気分だけど、結婚相手となると、別物だ。
RIKUZENの若き敏腕社長の妻になる? ありえない。
「あっ、その……私は……」
「恋人、いるんじゃないですか?」
どう断ったら、相手の面目をつぶさないでいられるか、考え考え言葉を吐き出すが、陸斗さんがそれをさえぎった。
「いるんですか?」
惣一が穏やかに尋ねてくる。この老紳士が、それを調べてないはずはないのに。
「いたことないです……」
ぎゅっと、ナース服をつかんで、うつむく。恥ずかしい。
「今いるかどうか答えればいいんですよ。生まれてこの方、彼氏がいないなんて告白しなくても。まあ、そうなんでしょうという感じですが」
柔らかく言うけど、あきれたようにディスってくる。こういうところが、無骨なんだろう。
「すぐには返事ができないようですね。心が決まったら、陸斗くんに伝えてあげてください」
「俺の意思は尊重していただけないみたいだ」
「陸斗くんにふさわしい女性と思ってますよ」
陸斗さんが断る理由のない女性だと、惣一は太鼓判を押してくれてるんだろうけど、その自信はどこから湧いてくるのか……。
ちらっと、上目遣いで陸斗さんを見上げる。彼はあきれてものも言えないようで、腰に手を当てて、大きなため息をついていた。
「散歩ですよ。検温の時間だろうと戻りました。あとでカフェに行ってきますね。神崎のカフェもなかなか美味しいコーヒーを出してくれます」
穏やかに、そして、ひょうひょうと楽しそうに話すから、ぽかんとしちゃう。入院生活を楽しめる御仁のようだ。
「ベッドに座りましょうか」
「ええ。手を貸してくれますか」
杖をつきながら、ゆっくり歩く惣一の手を取る。足元はしっかりしてる。
ぎゅっと手を握り返されるから、若い女の子の手を触りたいだけなんじゃないか、なんて思えてくる。品が良くて、かわいらしいおじいさんだから、つい気を許してしまうけど。
「では、検温しますね」
ベッドに腰かける惣一は、借りてきた猫みたいにおとなしい。
検温を済ませ、ベッド脇に設置された端末に、体温計をかざす。自動的にデータが送信され、電子カルテに記録されるシステムになってる。
「どこか、具合の良くないところはないですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「大事にならなくてよかったですね。またお会いできてうれしいです。あっ、ヨガマットもすごく良くて、大切に使わせてもらってます」
お礼を言うと、惣一はにこやかにほほえんだまま、私の後ろへ視線を移す。
「だそうですよ、陸斗くん」
陸斗……くん?
パッと振り返る。いつのまにか個室から出てきていた若い青年が、スマートに佇んでいる。
どうしてこうも、善田家に関わる人物は、ただ立っているだけなのに、神々しい品に包まれてるのだろう。身なり、立ち居振る舞い、すべてにそつがない。
「陸斗くん、彼女が木宮沙月さん。RIKUZENの大ファンのようですよ」
「ああ、彼女なんだ」
青年は、合点がいったようにうなずく。
惣一との出会いから、現在に至るまでの私の現状を知ってるんだろう。
彼は名乗らない。しがない看護師に下げる頭なんて持ってないんだろう。でも、そんなこと気にならない。
「善田陸斗さん……? ほんとに、RIKUZENの、社長さんっ?」
わぁ、って口を両手でふさぐ。
改めて、眺める。上質な生地で仕立てられたスーツでも隠しきれないほどの筋肉質な、からだ付き。目鼻立ちの整った、精悍な顔つき。彼のまとう凛々しいオーラには、自然と心が震える。
陸斗さんは、感極まる私を見て、ほんの少し苦笑いする。変な女だって思われただろう。
「き、木宮沙月です。RIKUZENのマシンには、いつもお世話になってます。やだ、ほんとに? わぁぁ……」
駆け寄って、握手を求めたいぐらいだけど、彼のオーラが近寄らせない。近づけない。
「陸斗くん、こんなにRIKUZENを愛してくれる子、なかなかいないですよね」
「おじいさんが知らないだけで、ファンはたくさんいてくれますよ」
「言葉が足りませんでしたね。RIKUZENを愛してくれる、堅実で聡明な方であり、私の気に入った女性がです」
「それは、限定的ですね」
陸斗さんはおかしそうに肩を揺らして笑う。なんて、優雅に笑う青年だろう。
「でしょう。どうですか? 結婚相手に申し分ないでしょう?」
「はっ……?」
思わず、デカい声が出た。さっきまで夢心地でいたのに、一気に現実に引き戻される。
さらっと、惣一はおかしなことを言った。眉をぴくりとあげた陸斗さんを、穏やかに見つめてるから本気なんだろうとわかる。
「なんて、言いました?」
陸斗さんが眉をひそめたまま、尋ね返す。
「結婚相手にどうですか? と言いました」
「俺に恋人がいないなんて思ってるみたいですね」
「いるんですか?」
「いないです」
平然とする惣一よりも、さらに平然と陸斗さんは言ってのける。
「じゃあ、いいでしょう。お嬢さんもいかがですか? 仕事仕事でなかなかプライベートが充実してない青年で、無骨なところはありますが、自宅にフィットネスジムもありますし、看護師という職業にも理解はあります。悪い話ではないはずですよ」
惣一と陸斗さんの視線が一気に私に集中する。
身体も心も震え上がる。
自宅にフィットネスジムがあるって、どういうこと? 理想的すぎる。
仕事にも理解があるって、結婚しても仕事を続けてもいいってこと。もちろん、働かなくても遊んで暮らせるぐらいの資産はあるんだろうけれど。
でも、無理だ。
憧れてたアイドルを目の前にして舞い上がってしまったような気分だけど、結婚相手となると、別物だ。
RIKUZENの若き敏腕社長の妻になる? ありえない。
「あっ、その……私は……」
「恋人、いるんじゃないですか?」
どう断ったら、相手の面目をつぶさないでいられるか、考え考え言葉を吐き出すが、陸斗さんがそれをさえぎった。
「いるんですか?」
惣一が穏やかに尋ねてくる。この老紳士が、それを調べてないはずはないのに。
「いたことないです……」
ぎゅっと、ナース服をつかんで、うつむく。恥ずかしい。
「今いるかどうか答えればいいんですよ。生まれてこの方、彼氏がいないなんて告白しなくても。まあ、そうなんでしょうという感じですが」
柔らかく言うけど、あきれたようにディスってくる。こういうところが、無骨なんだろう。
「すぐには返事ができないようですね。心が決まったら、陸斗くんに伝えてあげてください」
「俺の意思は尊重していただけないみたいだ」
「陸斗くんにふさわしい女性と思ってますよ」
陸斗さんが断る理由のない女性だと、惣一は太鼓判を押してくれてるんだろうけど、その自信はどこから湧いてくるのか……。
ちらっと、上目遣いで陸斗さんを見上げる。彼はあきれてものも言えないようで、腰に手を当てて、大きなため息をついていた。
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