摩天楼で敏腕社長と頼まれ婚

水城ひさぎ

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デートとキスと、隠し子と……?

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 神崎総合病院の2階にあるカフェは、コーヒーがうまいと評判だ。サイフォンで淹れたコーヒーには、クリアな味わいがある。俺も気に入っている。

 香りを楽しみながら、ひと息ついていると、カフェの入り口に白衣の青年が現れた。内科医の、羽生修也だ。

 修也は、同い年の33歳。幼少期からの腐れ縁で、今でも懇意にしている。

 彼は俺を探していたんだろう。俺を見つけるなり、笑顔でやってくる。

「陸斗、木宮沙月さんと婚約するって、本当かい?」
「耳が早いな」

 いすを引いて座るなり、無遠慮に尋ねてくる修也には、苦笑いしてしまう。

「善田さんが言って回ってるよ。大丈夫なのかい?」
「じいさんの気に入った女性だからね。こうなることはわかってたよ」
「木宮さんって、まだ異動してきたばっかりの看護師だろう? そのために異動してきたんだって、ナースステーションは大騒ぎだ」
「って、修也のお気に入りの看護師が言ってたのか?」

 茶化すが、修也は少々あきれ顔だ。

「気に入りって……、愛莉は俺のフィアンセだよ」
「婚約者だからって、あっちこっちでいちゃつくのはどうかと思うよ」
「愛莉がかわいいからどうしようもないんだよ。いずれ、陸斗もそうなるさ」
「どうかな」

 肩をすくめる。

 俺が沙月と? 想像もつかない。

「好きで婚約したのかい? どう見ても、陸斗の好きなタイプには見えなかったけどね」
「面白そうではあるな」
「面白そうってなぁ。真面目な子らしいよ。あんまりからかうと、破談になるぜ」

 俺と沙月と、どっちの心配してるんだか知らないが、修也は意外と真剣に心配してるようだ。

「破談も何も、フリだからね」
「フリ?」
「婚約ごっこだ。じいさんの目くらまし。彼女も同意の上だよ」
「それ、本当かい?」

 切れ長の瞳を珍しく大きく見開き、修也は身を乗り出す。

「本当さ」
「俺はてっきり、園村くんへのあてつけかと思ってたよ」
「園村は関係ないよ」

 しれっと答えるが、修也は納得してないみたいに眉をひそめる。

「園村くん、毎日来るだろ? 木宮さんと楽しそうに話してるよ。陸斗との婚約がなかったら、意外とお似合いかもしれないよ」
「似合いのふたりを邪魔するために、婚約したって思ってるのか?」

 心外だ、と鼻を鳴らすが、修也は少しも意に介さない。それどころか、挑発してくる。

「陸斗ならやりかねないね。園村くんには、いつも上を行かれるからね」
「嫉妬する相手じゃない」
「そうは見えないから疑ってるんだけどね。木宮さんはRIKUZENの大ファンらしいじゃないか。あんまり傷つけるようなこと、するなよ」
「忠告は無駄だよ。俺が結婚する気になるまで、せいぜい婚約ごっこを楽しむさ」
「木宮さんと結婚する気になるよう、祈っておくよ」

 遊び人の修也に祈ってもらわなくて結構。内心、そう悪態をつきながら、問う。

「俺のことより、修也はどうなんだよ?」
「俺たちはもう少し、独身を楽しんでから。愛莉はまだ26歳だしね。あっ、木宮さんも同い年だね。愛莉の大学の同期らしい」

 せっかく話をそらしたのに、すぐに沙月の話に戻ってしまう。そうは思うが、沙月について何も知らない俺は、目新しいものを見たように反応してしまう。

「へえ、26か。若いな」
「愛莉は、おしゃれしたら化ける。陸斗は見る目があるって騒いでたよ」
「おしゃれね。確かに、飾り気のない女性だ」

 いつも髪を丸く束ねているだけの、薄化粧の女性だ。その印象しかない。

「いろいろと施してあげたらいいんじゃないか? 真面目一辺倒で、仕事とジム通いができたら幸せな女性のようだからね」

 ああー、とちょっと笑ってしまう。

「身体鍛えるのは好きそうだ」
「筋肉好きなら、陸斗の身体見たら大興奮だな」
「神々しすぎるって、近づいてもくれないよ」
「なんだ、それ。神格化してるのか? おかしい子だね。ま、せいぜい大事にしてあげなよ」
「言われなくても、そうするよ。じいさんのお気に入りだからね」

 沙月を泣かせたら、じいさんは黙ってないだろう。うまいこと、沙月にふられるようにしないとな、なんて考えてもいる。

「ほんとに、善田家は惣一さん中心だね」
「変に魅力のある人なんだ」
「それは、わかるよ。好き勝手生きても、みんなに好かれてるなんて羨ましい。俺も惣一さんみたいになりたいよ」
「やめておけ」
「冗談だよ」

 冗談でもやめておけって言ったんだ。
 眉をひそめて忠告すると、修也はくすくす笑いながら立ち上がる。

「行くのか?」
「ひまじゃないからね」
「いつもひまそうに見えるけどね。俺も行くよ。じいさんの顔見て、仕事だ」

 ジャケットとバッグを持ち上げて、俺も立ち上がる。

「そこは、木宮さんの顔見てからと言ってあげなよ。善田さんにとっ捕まって、ずっと病室に入り浸りだ」
「ああ、そうだな。連絡先ぐらいは交換しよう」
「まだ聞いてないのか。奥手みたいな恋愛するね」
「忘れてただけだ」

 あきれる修也とともに、カフェを出る。

 エスカレーターに乗って1階へ降りていく彼を見送る。身の軽い医師だ。あれでも腕が良くて、人気があるっていうんだから不思議だ。

 俺はちょうど着いたエレベーターに乗り込み、5階へと向かった。
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