摩天楼で敏腕社長と頼まれ婚

水城ひさぎ

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デートとキスと、隠し子と……?

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「園村さんと陸斗さんって、同い年なんですかぁ。小さい頃から知ってるって、幼なじみなんですね」
「同級生ってだけなんです」

 幼なじみだなんて恐れ多いと、園村さんは肩をすぼめて恐縮する。豪華な善田一族に関わってるのに、素朴で欲のない人みたい。

 親近感の湧く彼だけど、善田工業の秘書というのは、本物を見極める力のある、選び抜かれたエリート集団らしい。

 いったい、園村さんの目に、私はどんな女に映ってるんだろう。
 陸斗さんと婚約したフリしてることも、見抜かれてるかもしれない。

 婚約者のフリって、実際どうすればいいかわからないけど、円満なフリはしてないといけないだろう。

「陸斗さん、お忙しそうで、なかなかお話する機会がなくて。また、陸斗さんのお話、聞かせてくださいね。彼のこと、少しでも知ってたくて」

 心にもないことを口にしたら歯が浮く。

 いや、少しぐらいは本心だ。陸斗さんは憧れの社長で、ワクワクするような知識をたくさん持ってるはず。RIKUZENの最新マシンの発売日なんて、待ち遠しくてたまらない。

「はい。私からで良ければ」

 純粋な園村さんは、なんにも疑ってない様子で、ほがらかにほほえむ。本当に、まっすぐで良い人だ。

「園村さんとは仲良くなれそう」

 そう言ったとき、「こほん」とわざとらしい咳払いが聞こえた。

 5017号室の前で立ち話していた私と園村さんは、咳払いの主に気づき、ハッと身を正す。

 うわさをすれば……じゃないが、陸斗さんが苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。

 仕事中に園村さんとおしゃべりしてたから、サボってると思われたみたいだ。ちょっと落ち込む。

「これからお仕事ですか?」

 すぐに気を取り直して、陸斗さんに駆け寄る。

「じいさんの顔見てから行くよ」
「今日もお元気にされてますよ。お食事もしっかり摂れてますし」
「なんで入院してるかわからないぐらい元気なのは知ってるよ」

 5017号室のドアを開くと、陸斗さんはくすっと笑って中へ進む。

 あとに続く私について、園村さんも入室するが、さすが秘書というのか、気配を消してしまえる潔さに、感服する。

「退院は、いつされるんですか? オヤジが気にしてるよ」

 窓辺のいすに座って、外を眺める惣一に、陸斗さんが尋ねる。

 窓の外には、大企業のオフィスの入る超高層ビルや、おしゃれなテナントが見える。テナントの屋上には、本格な日本庭園があり、素晴らしい景観が広がる。5017号室はとても眺望のいい病室のひとつだ。

「そろそろ自宅が恋しくなってきましたね」

 振り返りつつ、惣一は言う。

「週末なら、オヤジも来れるって言ってましたよ」
「では、週末に退院しましょうか。木宮さんに毎日会えなくなるのは残念ですが、いつでも遊びに来てくださいね」

 退院日を自ら決めてしまうのか、と驚きつつも、神崎総合病院へ異動になってからは、見るもの聞くものすべてが驚きの連続で、そういうのもありなのかな? なんて、自然に受け入れつつある。

「ご自宅って、どちらにあるんですか?」

 毛頭行く気はないが、話の種に尋ねてみた。

泰山たいざん町にありますよ。近くですから、いつでも」

 泰山町と言えば、高級住宅街として開発された町だ。名前は聞くが、足を踏み入れる日が来るなんて考えたこともないエリアである。

「ああ、そう。陸斗くんはここに住んでますから、いつでも会えますね」
「ここ?」
「ええ、そこです」

 惣一は、窓越しに見えるレジデンスを指差す。低層レジデンスではあるが、周囲は緑に囲まれていて、プライバシーも守られている住環境。一戸数億円越えの超高級物件で、セレブ中のセレブが集うレジデンスだ。

 そこに、陸斗さんが住んでる。想像の域を超えてて、驚きの声も出ない。

「仕事に行くのに便利だしね」

 陸斗さんはそう言って、オフィスビルの方へ視線を向ける。

 当然というべきか、RIKUZENの本社は、目と鼻の先にあるオフィスビルに入ってるようだ。

「週末は、木宮さん、お仕事ですか?」

 ポケットからメモ用紙を取り出して、そこに書き込んだ休日を確認する。

「日曜日は、お休みになってます」
「では、日曜日に退院しましょう。そのまま、ショッピングに行きましょうか。ずいぶんお世話になりましたので、ドレスなどプレゼントしたいですから」
「ドレスですか?」

 ドレスなんて、親戚や友人の結婚式ぐらいでしか着たことない。

「陸斗くんは、日曜日空いてますか?」
「休みですよ。特に予定はありません」

 陸斗さんはあっさりと答える。
 忙しい人なのに、予定がないなんてことあるんだろうか。予定があっても、惣一のためなら時間を作るんじゃないか、なんて思える。

「では、3人で行きましょうか。それとも、2人の方がいいですか?」

 惣一はやや楽しげに目を細める。すると、陸斗さんもゆっくりうなずく。

「2人で行きますよ。オヤジ、おじいさんを迎えに来たら、すぐに戻りたいだろうし」
「わかりました。2人で楽しんできてください」

 ぽかん、とするうちに話はまとまってしまったらしい。

「これ、俺の連絡先。あとで、電話入れておいて。折り返し連絡するよ」

 胸ポケットから名刺を取り出すと、陸斗さんはスマートに私に差し出す。

 名刺に、RIKUZEN 代表取締役社長なんて肩書きを目にしたら、歓喜してしまう。ほんとに、すごい人とご縁ができたんだって。

「あ……ありがとうございます」
「目を潤ませるほどのことじゃないと思うけどね」

 名刺をぎゅっと抱きしめる私を見て、陸斗さんは困り顔で後ろ頭をかいた。
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