8 / 25
デートとキスと、隠し子と……?
2
しおりを挟む
*
「園村さんと陸斗さんって、同い年なんですかぁ。小さい頃から知ってるって、幼なじみなんですね」
「同級生ってだけなんです」
幼なじみだなんて恐れ多いと、園村さんは肩をすぼめて恐縮する。豪華な善田一族に関わってるのに、素朴で欲のない人みたい。
親近感の湧く彼だけど、善田工業の秘書というのは、本物を見極める力のある、選び抜かれたエリート集団らしい。
いったい、園村さんの目に、私はどんな女に映ってるんだろう。
陸斗さんと婚約したフリしてることも、見抜かれてるかもしれない。
婚約者のフリって、実際どうすればいいかわからないけど、円満なフリはしてないといけないだろう。
「陸斗さん、お忙しそうで、なかなかお話する機会がなくて。また、陸斗さんのお話、聞かせてくださいね。彼のこと、少しでも知ってたくて」
心にもないことを口にしたら歯が浮く。
いや、少しぐらいは本心だ。陸斗さんは憧れの社長で、ワクワクするような知識をたくさん持ってるはず。RIKUZENの最新マシンの発売日なんて、待ち遠しくてたまらない。
「はい。私からで良ければ」
純粋な園村さんは、なんにも疑ってない様子で、ほがらかにほほえむ。本当に、まっすぐで良い人だ。
「園村さんとは仲良くなれそう」
そう言ったとき、「こほん」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
5017号室の前で立ち話していた私と園村さんは、咳払いの主に気づき、ハッと身を正す。
うわさをすれば……じゃないが、陸斗さんが苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。
仕事中に園村さんとおしゃべりしてたから、サボってると思われたみたいだ。ちょっと落ち込む。
「これからお仕事ですか?」
すぐに気を取り直して、陸斗さんに駆け寄る。
「じいさんの顔見てから行くよ」
「今日もお元気にされてますよ。お食事もしっかり摂れてますし」
「なんで入院してるかわからないぐらい元気なのは知ってるよ」
5017号室のドアを開くと、陸斗さんはくすっと笑って中へ進む。
あとに続く私について、園村さんも入室するが、さすが秘書というのか、気配を消してしまえる潔さに、感服する。
「退院は、いつされるんですか? オヤジが気にしてるよ」
窓辺のいすに座って、外を眺める惣一に、陸斗さんが尋ねる。
窓の外には、大企業のオフィスの入る超高層ビルや、おしゃれなテナントが見える。テナントの屋上には、本格な日本庭園があり、素晴らしい景観が広がる。5017号室はとても眺望のいい病室のひとつだ。
「そろそろ自宅が恋しくなってきましたね」
振り返りつつ、惣一は言う。
「週末なら、オヤジも来れるって言ってましたよ」
「では、週末に退院しましょうか。木宮さんに毎日会えなくなるのは残念ですが、いつでも遊びに来てくださいね」
退院日を自ら決めてしまうのか、と驚きつつも、神崎総合病院へ異動になってからは、見るもの聞くものすべてが驚きの連続で、そういうのもありなのかな? なんて、自然に受け入れつつある。
「ご自宅って、どちらにあるんですか?」
毛頭行く気はないが、話の種に尋ねてみた。
「泰山町にありますよ。近くですから、いつでも」
泰山町と言えば、高級住宅街として開発された町だ。名前は聞くが、足を踏み入れる日が来るなんて考えたこともないエリアである。
「ああ、そう。陸斗くんはここに住んでますから、いつでも会えますね」
「ここ?」
「ええ、そこです」
惣一は、窓越しに見えるレジデンスを指差す。低層レジデンスではあるが、周囲は緑に囲まれていて、プライバシーも守られている住環境。一戸数億円越えの超高級物件で、セレブ中のセレブが集うレジデンスだ。
そこに、陸斗さんが住んでる。想像の域を超えてて、驚きの声も出ない。
「仕事に行くのに便利だしね」
陸斗さんはそう言って、オフィスビルの方へ視線を向ける。
当然というべきか、RIKUZENの本社は、目と鼻の先にあるオフィスビルに入ってるようだ。
「週末は、木宮さん、お仕事ですか?」
ポケットからメモ用紙を取り出して、そこに書き込んだ休日を確認する。
「日曜日は、お休みになってます」
「では、日曜日に退院しましょう。そのまま、ショッピングに行きましょうか。ずいぶんお世話になりましたので、ドレスなどプレゼントしたいですから」
「ドレスですか?」
ドレスなんて、親戚や友人の結婚式ぐらいでしか着たことない。
「陸斗くんは、日曜日空いてますか?」
「休みですよ。特に予定はありません」
陸斗さんはあっさりと答える。
忙しい人なのに、予定がないなんてことあるんだろうか。予定があっても、惣一のためなら時間を作るんじゃないか、なんて思える。
「では、3人で行きましょうか。それとも、2人の方がいいですか?」
惣一はやや楽しげに目を細める。すると、陸斗さんもゆっくりうなずく。
「2人で行きますよ。オヤジ、おじいさんを迎えに来たら、すぐに戻りたいだろうし」
「わかりました。2人で楽しんできてください」
ぽかん、とするうちに話はまとまってしまったらしい。
「これ、俺の連絡先。あとで、電話入れておいて。折り返し連絡するよ」
胸ポケットから名刺を取り出すと、陸斗さんはスマートに私に差し出す。
名刺に、RIKUZEN 代表取締役社長なんて肩書きを目にしたら、歓喜してしまう。ほんとに、すごい人とご縁ができたんだって。
「あ……ありがとうございます」
「目を潤ませるほどのことじゃないと思うけどね」
名刺をぎゅっと抱きしめる私を見て、陸斗さんは困り顔で後ろ頭をかいた。
「園村さんと陸斗さんって、同い年なんですかぁ。小さい頃から知ってるって、幼なじみなんですね」
「同級生ってだけなんです」
幼なじみだなんて恐れ多いと、園村さんは肩をすぼめて恐縮する。豪華な善田一族に関わってるのに、素朴で欲のない人みたい。
親近感の湧く彼だけど、善田工業の秘書というのは、本物を見極める力のある、選び抜かれたエリート集団らしい。
いったい、園村さんの目に、私はどんな女に映ってるんだろう。
陸斗さんと婚約したフリしてることも、見抜かれてるかもしれない。
婚約者のフリって、実際どうすればいいかわからないけど、円満なフリはしてないといけないだろう。
「陸斗さん、お忙しそうで、なかなかお話する機会がなくて。また、陸斗さんのお話、聞かせてくださいね。彼のこと、少しでも知ってたくて」
心にもないことを口にしたら歯が浮く。
いや、少しぐらいは本心だ。陸斗さんは憧れの社長で、ワクワクするような知識をたくさん持ってるはず。RIKUZENの最新マシンの発売日なんて、待ち遠しくてたまらない。
「はい。私からで良ければ」
純粋な園村さんは、なんにも疑ってない様子で、ほがらかにほほえむ。本当に、まっすぐで良い人だ。
「園村さんとは仲良くなれそう」
そう言ったとき、「こほん」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
5017号室の前で立ち話していた私と園村さんは、咳払いの主に気づき、ハッと身を正す。
うわさをすれば……じゃないが、陸斗さんが苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。
仕事中に園村さんとおしゃべりしてたから、サボってると思われたみたいだ。ちょっと落ち込む。
「これからお仕事ですか?」
すぐに気を取り直して、陸斗さんに駆け寄る。
「じいさんの顔見てから行くよ」
「今日もお元気にされてますよ。お食事もしっかり摂れてますし」
「なんで入院してるかわからないぐらい元気なのは知ってるよ」
5017号室のドアを開くと、陸斗さんはくすっと笑って中へ進む。
あとに続く私について、園村さんも入室するが、さすが秘書というのか、気配を消してしまえる潔さに、感服する。
「退院は、いつされるんですか? オヤジが気にしてるよ」
窓辺のいすに座って、外を眺める惣一に、陸斗さんが尋ねる。
窓の外には、大企業のオフィスの入る超高層ビルや、おしゃれなテナントが見える。テナントの屋上には、本格な日本庭園があり、素晴らしい景観が広がる。5017号室はとても眺望のいい病室のひとつだ。
「そろそろ自宅が恋しくなってきましたね」
振り返りつつ、惣一は言う。
「週末なら、オヤジも来れるって言ってましたよ」
「では、週末に退院しましょうか。木宮さんに毎日会えなくなるのは残念ですが、いつでも遊びに来てくださいね」
退院日を自ら決めてしまうのか、と驚きつつも、神崎総合病院へ異動になってからは、見るもの聞くものすべてが驚きの連続で、そういうのもありなのかな? なんて、自然に受け入れつつある。
「ご自宅って、どちらにあるんですか?」
毛頭行く気はないが、話の種に尋ねてみた。
「泰山町にありますよ。近くですから、いつでも」
泰山町と言えば、高級住宅街として開発された町だ。名前は聞くが、足を踏み入れる日が来るなんて考えたこともないエリアである。
「ああ、そう。陸斗くんはここに住んでますから、いつでも会えますね」
「ここ?」
「ええ、そこです」
惣一は、窓越しに見えるレジデンスを指差す。低層レジデンスではあるが、周囲は緑に囲まれていて、プライバシーも守られている住環境。一戸数億円越えの超高級物件で、セレブ中のセレブが集うレジデンスだ。
そこに、陸斗さんが住んでる。想像の域を超えてて、驚きの声も出ない。
「仕事に行くのに便利だしね」
陸斗さんはそう言って、オフィスビルの方へ視線を向ける。
当然というべきか、RIKUZENの本社は、目と鼻の先にあるオフィスビルに入ってるようだ。
「週末は、木宮さん、お仕事ですか?」
ポケットからメモ用紙を取り出して、そこに書き込んだ休日を確認する。
「日曜日は、お休みになってます」
「では、日曜日に退院しましょう。そのまま、ショッピングに行きましょうか。ずいぶんお世話になりましたので、ドレスなどプレゼントしたいですから」
「ドレスですか?」
ドレスなんて、親戚や友人の結婚式ぐらいでしか着たことない。
「陸斗くんは、日曜日空いてますか?」
「休みですよ。特に予定はありません」
陸斗さんはあっさりと答える。
忙しい人なのに、予定がないなんてことあるんだろうか。予定があっても、惣一のためなら時間を作るんじゃないか、なんて思える。
「では、3人で行きましょうか。それとも、2人の方がいいですか?」
惣一はやや楽しげに目を細める。すると、陸斗さんもゆっくりうなずく。
「2人で行きますよ。オヤジ、おじいさんを迎えに来たら、すぐに戻りたいだろうし」
「わかりました。2人で楽しんできてください」
ぽかん、とするうちに話はまとまってしまったらしい。
「これ、俺の連絡先。あとで、電話入れておいて。折り返し連絡するよ」
胸ポケットから名刺を取り出すと、陸斗さんはスマートに私に差し出す。
名刺に、RIKUZEN 代表取締役社長なんて肩書きを目にしたら、歓喜してしまう。ほんとに、すごい人とご縁ができたんだって。
「あ……ありがとうございます」
「目を潤ませるほどのことじゃないと思うけどね」
名刺をぎゅっと抱きしめる私を見て、陸斗さんは困り顔で後ろ頭をかいた。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる