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愛を確かめたくて
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しおりを挟む陸斗さんの部屋に来るのは、2回目だった。1回目は着替えを取りに来て、バスルームでササッと着替えて帰宅したから、中の様子までは知らなかった。
リビングへ通された私は、広すぎる空間を眺めまわして、ボストンバッグをぎゅっと抱きしめた。改めて、場違いなところへやってきた実感に襲われてる。
「トレーニングする気満々だね」
スポーツウェアに身を包む私を見て、キッチンでグラスを手にする彼が笑う。
「ブラックがいいよね?」
「トレーニング前のカフェインっていいんですよね」
「集中力あがるしね、脂肪燃焼効果も高くなる。パンプアップ効果もあるし。ホット? アイス?」
「アイスで大丈夫です」
彼は大きな冷蔵庫から、アイスコーヒーを取り出して、グラスに注ぐ。
いつまで立ってるの? って笑う彼に促されて、ソファーに腰を下ろす。
ブラックの革張りソファーは、重厚感があるのに、触ってみると、柔らかくてしっとりしてる。トレーニングにしに来たの忘れて、ずっと座ってたくなる。
「気に入った? トレーニングはまた今度でもいいよ」
うっとりしてただろうか。苦笑する陸斗さんからグラスを受け取る。彼はそのまま私の隣へ腰を下ろし、背中に腕を回してくる。
「いいえ。最新のランニングマシーン使うまでは帰りたくないです」
「帰りたくないなんて、沙月の口から聞けるとはね」
「悪意ある切り取りやめてください」
「悪意なんてないよ」
ふふって笑って、優しく唇を重ねてくる。キスのハードルが、最近はずいぶん下がってる。あいさつ代わりのキスみたい。
「足りないって顔してるね」
「足りっ……、違いますっ。手握るみたいにキスするから……」
「ああ、貴重な感じがしなくなった? いいんだよ。キスもいろいろだからね。まだ、ほんの少しも教えてない」
「……いろいろ、いろいろとか」
ずいぶん、いろんなキスしたと思ってたのに。
おかしそうに私を見つめる陸斗さんの眼差しが、今日はやけに優しい。出会ったときは、これっぽっちも興味もってくれてなかったのに、と落ち着かない。
グラスを傾けて、アイスコーヒーを口に含む。なんだろう。いつも飲んでるものと違って、別次元においしい。
「陸斗さんと一緒にいると、びっくりすることばっかりです」
「まだまだびっくりするかもね」
きっと、そうだろう。彼は知らない世界ばかりを見せてくれる人だ。まだこの先があるなら。
「……いつまで続けるんですか?」
「ん? 何を?」
「園村さんが心配してました。善田さんが、そろそろ婚約発表したがってるって」
陸斗さんは眉をひそめる。彼だって、惣一に言われてるだろう。いつ結婚するんだって。
「それで、園村はなんて?」
「心配してただけです」
「俺が結婚しないなら、沙月が欲しいって言わなかった?」
「言わないです。陸斗さんは、何か勘違いしてる……」
園村さんと私のこと、変に誤解してる。
「わかった。じいさんには俺から話しておくよ。園村も、俺に直接聞けばいいんだ」
不服そうに彼は言って、私からグラスを取り上げると、ふたたびキスをしてくる。触れるだけとは違って、私が欲しいって求めてるみたいな、キス。
別れる前ってこんな感じのキスをするのかなってぐらい、切ないキス。彼が教えてくれる最後のキスになんてしたくない。
陸斗さんのいない世界なんて、もう考えられなくなってる。
彼の髪に手を伸ばす。柔らかな髪に指をうずめて、あごをあげる。
しばらくキスは続いた。離したら、もう永遠の別れになる気がして、やめられなかった。
「沙月が離れてくれないと、俺はどうかしちゃいそうなんだが」
ようやく唇が離れたとき、陸斗さんの首にしがみつく私の耳もとで、彼はささやく。
「離れたくないけど、ランニングマシーンも気になってて、葛藤してます」
「ここで押し倒されたら、ランニングマシーンは使えないだろうな」
「それは、嫌です」
「はっきり言ってくれるね」
陸斗さんはクスッと笑うと、ソファーから降りて、私の手を引く。
「沙月が気に入るといいが」
「気に入らないわけないです」
「ああ、そうだね。じいさんの選んだ沙月が、俺を裏切るはずないよね」
陸斗さんの良き理解者になれるって、そう思って惣一は私を選んだ?
にわかには信じられなかったけど、そうでなくても、期待以上の愛を、私はもう陸斗さんに対して持ってるんだと思った。
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