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永遠の条件
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しらかわの家の門の前で佐那子と別れると、彼女の背中が見えなくなるまで見送った。
3時から商談がある。今日は顔合わせ程度だから、ワークショップが終わる頃には間に合うだろう。
「3時か……。まだ少し時間があるな」
腕時計を確認して車に戻ると、思い立ってギャラリー鈴の場所をスマートフォンで検索した。
「思ったより、近いな」
天野鈴矢が経営するギャラリー鈴は、しらかわの家から車で10分ほどの距離にある。寄ってみようかと思ったが、木曜日は定休日のようだ。
「仕方ない。どこかで時間つぶすか」
ひとりごとをつぶやきながら、車を発進させる。
しらかわの家から商談相手の屋敷までは、ゆるやかな一本の坂道でつながっている。
坂道の途中にはいくつかの商業施設があり、落ち着いた住宅街の中におしゃれなレストランやカフェが点在していた。
坂道を下りながら車を走らせていると、小学生の姿がちらほらと現れてきた。するとその先に、小学校の門が見えてくる。
しらかわの家で暮らす子どもたちも、この小学校に通っているのだろう。
門の前で、坂道を上る児童、下る児童が手を振って左右に分かれていく。
一人で歩く児童、数人ではしゃぐ児童を横目に、さらに道を下っていくと、一軒のカフェが目についた。
『クロシェット』と店名が書かれた看板の下に、各種ドリンクお持ち帰りもしていただけます、と張り紙がある。混み合っているようなら持って帰ることもできるか。
「ここにするか」
引き寄せられるようにカフェの駐車場へ入り、まばらに空いたスペースへ停車する。それなりに繁盛しているカフェのようだ。
コーヒーのうまい店だといいが、なんて考えながら、店内へ向かう。
ふと、入り口近くに停められた高級車が目にとまった。
後部座席に、小学生の女の子が座っている。うつむいているから黄色の安全帽子の下の顔はわからないが、大きなうさぎのキーホルダーがついた水色のランドセルを横に置いているから女の子とわかった。絵本を広げ、楽しそうに足を揺らしているように見える。
親が迎えに来た帰り道で、おやつの飲み物を買いにでも立ち寄ってるのだろう。
車にひとり、子どもを残しているのは感心しない。アメリカじゃ考えられない光景に気色ばみつつ、あまり長く駐車しているようなら親に声がけした方がいい、と店員に一声かけておくか、と心の中で折り合いをつけ、店のドアを開く。
店内も、駐車場と同じく、まばらに席が空いていた。お好きな席にどうぞと声をかけられ、店内を見回していると、お持ち帰りコーナーと書かれたスペースにいる男が、こちらを二度見した。
ここのカフェは、持ち帰り用のドリンクを紙袋に入れてくれるらしい。おしゃれな店名のロゴ入り紙袋を片手に、男は俺にゆっくり近づいてくる。
キツネ顔の男は「どうも」と言いながら、探るような目を俺に向ける。俺の名前は知らないのだろう。先日、佐那子と一緒にいた男に似てると思って、半信半疑で声をかけてきたようだ。
「お久しぶりです。確か、天野さん?」
「ああ、やっぱり。和風先生と一緒にいた?」
「ええ、神林と言います。今日はお休みですか?」
長袖のカットソーにパンツ姿のカジュアルな格好の天野に笑顔で話しかけると、彼もにこやかに笑んだ。
「うちのギャラリーは木曜定休なんですよ。神林さんはお仕事中のようですね」
スーツ姿の俺を観察して、彼はそう言う。
「たまたま前を通りがかったら、おしゃれなカフェがあったので立ち寄ったんですよ」
「それはうれしい。自慢のメニューを取りそろえているので、楽しんでいってください」
「おや」
「ええ、クロシェットは私の店なんですよ」
「ああ、だから、クロシェット」
クロシェットとはフランス語で、『鈴』を指す言葉だったか。
「近くにギャラリーもあるので、お時間のあるときはどうぞお立ち寄りください」
「そうでしたか、近くに。絵画の鑑賞は趣味ですので、また近いうちに寄らせてもらいますよ」
「では、そろそろ行きますので」
「はい、また」
ぺこりと頭を下げて店内を出ていく天野の背中を見送る。
まさか、天野のカフェとはな。
気分は悪いが、『コーヒーに罪はない』と、そう心の中でつぶやいて、俺は店内の奥へと進んだ。
しらかわの家の門の前で佐那子と別れると、彼女の背中が見えなくなるまで見送った。
3時から商談がある。今日は顔合わせ程度だから、ワークショップが終わる頃には間に合うだろう。
「3時か……。まだ少し時間があるな」
腕時計を確認して車に戻ると、思い立ってギャラリー鈴の場所をスマートフォンで検索した。
「思ったより、近いな」
天野鈴矢が経営するギャラリー鈴は、しらかわの家から車で10分ほどの距離にある。寄ってみようかと思ったが、木曜日は定休日のようだ。
「仕方ない。どこかで時間つぶすか」
ひとりごとをつぶやきながら、車を発進させる。
しらかわの家から商談相手の屋敷までは、ゆるやかな一本の坂道でつながっている。
坂道の途中にはいくつかの商業施設があり、落ち着いた住宅街の中におしゃれなレストランやカフェが点在していた。
坂道を下りながら車を走らせていると、小学生の姿がちらほらと現れてきた。するとその先に、小学校の門が見えてくる。
しらかわの家で暮らす子どもたちも、この小学校に通っているのだろう。
門の前で、坂道を上る児童、下る児童が手を振って左右に分かれていく。
一人で歩く児童、数人ではしゃぐ児童を横目に、さらに道を下っていくと、一軒のカフェが目についた。
『クロシェット』と店名が書かれた看板の下に、各種ドリンクお持ち帰りもしていただけます、と張り紙がある。混み合っているようなら持って帰ることもできるか。
「ここにするか」
引き寄せられるようにカフェの駐車場へ入り、まばらに空いたスペースへ停車する。それなりに繁盛しているカフェのようだ。
コーヒーのうまい店だといいが、なんて考えながら、店内へ向かう。
ふと、入り口近くに停められた高級車が目にとまった。
後部座席に、小学生の女の子が座っている。うつむいているから黄色の安全帽子の下の顔はわからないが、大きなうさぎのキーホルダーがついた水色のランドセルを横に置いているから女の子とわかった。絵本を広げ、楽しそうに足を揺らしているように見える。
親が迎えに来た帰り道で、おやつの飲み物を買いにでも立ち寄ってるのだろう。
車にひとり、子どもを残しているのは感心しない。アメリカじゃ考えられない光景に気色ばみつつ、あまり長く駐車しているようなら親に声がけした方がいい、と店員に一声かけておくか、と心の中で折り合いをつけ、店のドアを開く。
店内も、駐車場と同じく、まばらに席が空いていた。お好きな席にどうぞと声をかけられ、店内を見回していると、お持ち帰りコーナーと書かれたスペースにいる男が、こちらを二度見した。
ここのカフェは、持ち帰り用のドリンクを紙袋に入れてくれるらしい。おしゃれな店名のロゴ入り紙袋を片手に、男は俺にゆっくり近づいてくる。
キツネ顔の男は「どうも」と言いながら、探るような目を俺に向ける。俺の名前は知らないのだろう。先日、佐那子と一緒にいた男に似てると思って、半信半疑で声をかけてきたようだ。
「お久しぶりです。確か、天野さん?」
「ああ、やっぱり。和風先生と一緒にいた?」
「ええ、神林と言います。今日はお休みですか?」
長袖のカットソーにパンツ姿のカジュアルな格好の天野に笑顔で話しかけると、彼もにこやかに笑んだ。
「うちのギャラリーは木曜定休なんですよ。神林さんはお仕事中のようですね」
スーツ姿の俺を観察して、彼はそう言う。
「たまたま前を通りがかったら、おしゃれなカフェがあったので立ち寄ったんですよ」
「それはうれしい。自慢のメニューを取りそろえているので、楽しんでいってください」
「おや」
「ええ、クロシェットは私の店なんですよ」
「ああ、だから、クロシェット」
クロシェットとはフランス語で、『鈴』を指す言葉だったか。
「近くにギャラリーもあるので、お時間のあるときはどうぞお立ち寄りください」
「そうでしたか、近くに。絵画の鑑賞は趣味ですので、また近いうちに寄らせてもらいますよ」
「では、そろそろ行きますので」
「はい、また」
ぺこりと頭を下げて店内を出ていく天野の背中を見送る。
まさか、天野のカフェとはな。
気分は悪いが、『コーヒーに罪はない』と、そう心の中でつぶやいて、俺は店内の奥へと進んだ。
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