嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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言ってはいけない言葉

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 喫茶店を出たところで小坂くんと別れた私たちは、行くあてもなく歩き出す。

 今日勇介を呼び出したのは私だ。どうやって用件を切り出そうかと沈黙していると、勇介が先に口を開いた。

「あいつ、小坂だっけ? なんかいいやつだよな。裏表がないっていうか、わかりやすいっていうか、打算的じゃないっていうかさ。いい意味でバカだよな」
「褒めてる? それ。でも珍しいわね、勇介が誰かを褒めるなんて」
「和美が好きなくせに、和美のために石神さんの秘密を暴露するあたり、俺とは違うなって思ってさ」

 俺だったら話さない。そう言うのだろうが、勇介の私感には興味がない。

「聞いたからって何か変わるわけじゃないわ」
「それでも少しは安心しただろ? 石神さんが結婚してないって知って」
「そうでもないわよ」
「そうでもない? 不倫だから悩んでたんだろ? そんなに悩むぐらいなら別れたらいいんだよ。俺の浮気は許せなくて、あの人は結婚しててもかまわないなんておかしいぜ」
「……なによそれ。自分のしたこと棚に上げて、いい加減なこと言わないでよ」
「いい加減なことなんて言ってないだろ。そりゃ、俺が悪かったとは思ってるさ。でも許せるなら、俺たちは別れなくてもよかったって……」
「やめてっ」

 一方的な勇介の言い分に心が乱れる。あの時の苦しみを思い出すのは、いやだった。

「思ってたわよ……」
「和美?」
「許そうって、ずっと何度も思ってたわよ。でもダメだった……だから別れたんでしょ。今更もうやめて」

 勇介の心配そうな表情から目をそらす。私の苦しみは勇介が起こしたものだ。それを心配するなんて身勝手だ。

「今更だからだよ。俺はやっぱり和美じゃないとダメだって……」
「よりを戻すつもりなんてないって言ったじゃない」
「和美がつらそうだからだろ? そうじゃなきゃ俺だってこんな気持ちにならないさ。幸せでいてくれたらって思ってたけど、久しぶりに会った和美は違ってた。あいつのせいだろ? あいつが……」

 たかぶる声を飲み込んだ勇介は、力んだ肩を落として冷静な声を発する。

「なぁ和美、石神さんと別れて俺とやり直さないか」
「勇介……」

 別れたあの日と同じだ。あの日、勇介は真剣な目で私を見つめて、私の答えをただ待っていた。

「できるわけないじゃない……」

 答えを言ったら、勇介は失望を浮かべてうな垂れた。
 しかし、あの日と同じ答えを出したのに、今日の勇介の態度は違っていた。

 勇介はかばんを開けると、中から小さな紙袋を取り出した。その袋には見覚えがある。フェリーチェと印刷された、怜司さんのお店のものだ。

「勇介、それ……」
「和美に買った。同じ過ちはしないから、その約束の証に。頼む和美、もう一度だけ俺にチャンスをくれないか」

 そう言って、勇介は紙袋から取り出した小箱を私に差し出す。
 それには手を伸ばせず、眉をひそめる。

「怜司さんのお店にまた行ったの?」
「ああ、ここに来る前に行ってきた。石神さんは和美に似合いそうなもの喜んで選んでくれたよ。俺が和美にプレゼントするって知っても、顔色一つ変えないでさ」

 いやな言い方をする。揺さぶりかけてるつもりなんだろう。

「迷惑に感じてるとは思わないの?」
「あの人がそう言った?」
「勇介には関係ないでしょ。もう一度やり直すつもりなんてないの」
「だったら、なんで俺に会いたいなんて言うんだよ」
「勇介が怜司さんのお店に行ったからじゃない。もう二度と行かないでって、言いたかっただけ。これ以上失望させないで。勇介に感謝してる気持ちまで失いたくないのよ」
「それでも期待してる。やり直せるって信じてる」
「勇介……困るの」
「あの人より大事にできる自信はあるんだ」

 勇介は私の手首をつかむと、手のひらに小箱を押し付けてくる。

「また連絡する。俺だって和美の心配ぐらいしたいから」
「私はしない」
「それでも連絡するから」

 そう言って、勇介は仕方なく小箱を受け取る私の頭に手を乗せた。

「ごめん。困らせてごめんな、和美」
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