嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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あなたか私か

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***


 和美は疲れ切った様子で帰宅した。
 アパートの前で彼女を待つ俺を見て、諦めたようにため息をついたのは、迷惑だと思う気持ちを形にしたものだったかもしれない。

「忙しかったか?」

 和美の前に進み出て尋ねる。街灯に照らされた俺を横目で見上げた彼女は、小さく首を横に振る。

「もう話すことは何もないの」
「俺にはあるよ」
「怜司さんと話すことに意味はないわ」

 和美は俺の横を素通りしようとする。階段を上っていく小さな背中に疲労が浮かぶ。

 階段を包む真っ暗な闇が、彼女を飲み込んでいく。疲れているのだ。また出直そう。そう思った時、和美の体が揺らいだ。

「和美っ」

 慌てて階段を駆け上がると、足を滑らせたのだろう和美が、ハイヒールを片手で押さえてうずくまり、もう片手を口元に当てて嗚咽していた。

「和美……大丈夫か?」

 彼女の肩に手を伸ばすと、いやいやするように手で俺を制する。しかしその手をつかんだ俺は、彼女の脇に腕を入れた。

「立てるか?」
「どうして……」
「和美?」
「どうして来たの……? もう会いたくなんてないのに……」
「和美が心配だったからだ」
「今さら何を心配するの……」

 濡れたまつげが、わずかに届く街灯の明かりで光るのが見える。

「泣いたりしたら、余計に心配する。何かあったんじゃないかって」
「私たちはもうお互いを心配するような関係じゃないわ」
「そんなことはないよ」
「なぜそんなこと言うの」

 そうだ。和美との恋を終わらせたのは俺だ。彼女にしてみたら、俺とのことは終わったものなのだ。

「最近、みのりさんの様子がおかしくてね」
「……」
「やけに君の名を口にするようになった。もしかしたら何かに気づいて、君に迷惑をかけてるんじゃないかと心配になったんだ」
「……そんなことないわ」
「本当か? 今夜、みのりさんには会わなかったか? 彼女が春翔を両親に預けて遅くまで帰らないなんてこと今までになかったんだ。もしかして君に会いに行ってるんじゃないかって、心配になって来てみた」
「……みのりさんが心配なのね」
「そうじゃないよ。俺が心配してるのは……」
「大丈夫よ、怜司さん。みのりさんに会ってなんかない。だからもう帰って」

 和美は階段の手すりをつかみ立ち上がると、俺の手を突き放そうとする。

「部屋まで行くよ。君を放っておけない」

 拒もうとする彼女を抱き上げる。彼女から薫る甘い香りも、柔らかな感触も以前と変わらない。
 愛しい気持ちが再熱するのを隠し切れず、観念して俺の首に腕を回してくる彼女を、優しく抱きしめた。
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