嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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あなたのために

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***


「引っ越すの? まだ半年も経ってないじゃない」

 地下鉄の駅へ向かう帰り道、紀子は複雑そうに表情を歪ませた。引っ越したい一番の理由を話さない私を案じてるんだろう。

「また会社の近くで探す」
「本当にいいの?」
「……うん、いいの」
「アパートのことだけじゃないよ?」

 紀子は眉をひそめる。
 みのりさんが私を待ち伏せていた日に何があったのか、私が何も話さないから心配なんだろう。

「いろいろ、いろいろね、終わったの。だから、なんだか引っ越ししたくなって」
「終わったの? 本当に?」
「うん。もうね、怜司さんとも会わない約束したし、みのりさんももう私に会いに来たりしないって思うから」
「だからネックレスも外したの?」
「あ……うん、そう」

 胸元に手を当てる。捨ててないなんて未練がましいことは言えないけど、外した。彼への思いを残してるなんて、誰にも気づかれたくない。

「そっか。和美の決意、いつか良かったんだって思える日が来るといいわね」
「もう思ってるよ。怜司さんの本当の気持ち知ることが出来たから、それでいいの」

 そう言って、私は紀子に笑いかける。

「今度の休みにアパート探ししてくるね」
「私に手伝えることあったら言って。……あ、そうだ、小坂くん」
「小坂くん?」
「そうそう、小坂くん、確か不動産屋さんに再就職したんじゃなかった? そこで探してみる? 安くていい物件紹介してくれるかもよ」
「そうなの? でも小坂くんの連絡先知らないから」
「そんなのすぐにわかるから私に任せて。じゃあ、小坂くんから和美に連絡入るようにするわね」

 紀子も小坂くんの連絡先は知らないみたい。早速、大学時代の友人にメールを送り始める。

 その姿を横目で見ながら、フェリーチェの前を通る。シャッターは降りていて店内の様子はわからない。

 彼と別れてから、何度もここを通るけど、彼の姿を目にした日はない。

 偶然にも出会わない日が続くほど、もう本当に終わったのだと、私の中で彼への思いが身をひそめていった。

 その日の夜、小坂くんからメールがあった。日時を指定すると、彼は必ずいるからと心を弾ませているようなメールをくれた。

 屈託のない笑顔が浮かぶよう。彼の純粋さに救われ、私もちょっと頬をほころばせながら、よろしくお願いしますと返信した。

 そして次の休日、私は約束通りの時間に、小坂くんの勤める不動産屋へと向かった。
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