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あなたのために
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「二人で食事するなんて初めてね」
夜の飲食街を歩きながら、みのりさんは俺の左腕にもたれて手を絡めてくると、嬉しそうに笑う。
足取りが危うい。思いの外、酔っているようだ。頬を上気させて艶めいた視線を送ってくる彼女の腰に腕を回す。
こうしている時も、和美を思い出す。彼女を抱く時に高鳴った胸も、今は冷静だ。
「春翔、お義母さんにお任せしちゃって大丈夫かしら」
「まあいいだろう、たまには。もう春翔も寝たみたいだ。急いで帰っても仕方ないよ」
俺とみのりさんのことは、両親も承知のことだ。俺の気持ち次第だということも理解していて、母は今日のみのりさんの誕生日に春翔を預かりたいと申し出たのだ。
とはいえ、まだ迷っている。結婚しなくても、みのりさんや春翔を守っていける道があるんじゃないかなんて、往生際悪く考えているのだ。
「怜司くん、このまま私のアパートに来る?」
「……あ、ああ。そうだな、春翔は明日の朝、迎えに行けばいい。アパートまで送っていくよ」
「そうじゃなくて」
みのりさんはくすくす笑い、俺の前に回り込むと、胸に飛び込むように両手を背中に回してくる。
酔っているのだ、と思いながらも、俺は彼女を抱きしめ返せない。
「ねぇ、怜司くん。泊まっていって」
みのりさんはそう言って、キュッと強く俺を抱きしめる。
「……みのりさん」
「お願い、怜司くん」
「それは……」
無理だ。そう突き放したら、みのりさんも無理は言わないだろう。そうしてこのまま曖昧な関係が続いていく。
かといって受け入れるほどの度量は俺にはまだない。みのりさんに落ちたら、俺はもう二度と和美に触れられないだろう。その資格さえ失うだろう。
忘れると約束したのに、俺はまだ未練がましく和美を大切に思っている。そのことに失笑する気さえおきず、みのりさんの肩に手を乗せる。
「帰ろう」
「……約束して」
そうしないと動かないと足を踏ん張り、まるで子供のように強情な彼女にまいる。
約束は出来ない。そう思いながら彼女を引き離そうとした手を俺は止める。
間が悪い。いつもそうだ。
会いたくない時ほど会ってしまう。何かに導かれているとしか思えないタイミングで、俺は彼女を見つけてしまう。
和美___
その名を心の中で呼ぶ。
久しぶりに見る和美は変わらず綺麗だった。長くたゆたう茶色の髪に包まれる白い頬は火照り、抱きしめたくなるほど可愛らしい。
そんな和美は、道路を挟んだ居酒屋のビルの階段下に一人立っていた。
走り出したい気持ちをこらえ、和美から目を離す。
もう別れたのだ。声などかけられない。たとえこの場にみのりさんがいなくても。
「行こう、みのりさん」
そう言ったものの、和美が気になって、もう一度彼女へと視線を向けた俺は、わずかに息を飲んだ。
和美の後ろから階段を駆け下りてきた青年が、彼女に親しげに声をかけたからだ。そして彼女を少しからかったのか、和美は頬をますます火照らせ、両手を頬にあてる。
すると青年は手をあげて、和美の髪に触れた。驚く和美にかまわず、彼女の耳に口を寄せて何かをささやく。
その時だ。青年の視線が、俺の方に何げに移る。
青年は驚いたように目を見開いたが、顔を上げる和美の肩に不意に腕を回し、そのまま抱き寄せた。
「怜司くん?」
俺にしがみついていたみのりさんが離れようとする。
「あ、……帰ろう」
俺はみのりさんの肩に腕を回すと、おぼつかない足元の彼女を支えながら、その場から逃げ出すように足早に歩き出した。
「二人で食事するなんて初めてね」
夜の飲食街を歩きながら、みのりさんは俺の左腕にもたれて手を絡めてくると、嬉しそうに笑う。
足取りが危うい。思いの外、酔っているようだ。頬を上気させて艶めいた視線を送ってくる彼女の腰に腕を回す。
こうしている時も、和美を思い出す。彼女を抱く時に高鳴った胸も、今は冷静だ。
「春翔、お義母さんにお任せしちゃって大丈夫かしら」
「まあいいだろう、たまには。もう春翔も寝たみたいだ。急いで帰っても仕方ないよ」
俺とみのりさんのことは、両親も承知のことだ。俺の気持ち次第だということも理解していて、母は今日のみのりさんの誕生日に春翔を預かりたいと申し出たのだ。
とはいえ、まだ迷っている。結婚しなくても、みのりさんや春翔を守っていける道があるんじゃないかなんて、往生際悪く考えているのだ。
「怜司くん、このまま私のアパートに来る?」
「……あ、ああ。そうだな、春翔は明日の朝、迎えに行けばいい。アパートまで送っていくよ」
「そうじゃなくて」
みのりさんはくすくす笑い、俺の前に回り込むと、胸に飛び込むように両手を背中に回してくる。
酔っているのだ、と思いながらも、俺は彼女を抱きしめ返せない。
「ねぇ、怜司くん。泊まっていって」
みのりさんはそう言って、キュッと強く俺を抱きしめる。
「……みのりさん」
「お願い、怜司くん」
「それは……」
無理だ。そう突き放したら、みのりさんも無理は言わないだろう。そうしてこのまま曖昧な関係が続いていく。
かといって受け入れるほどの度量は俺にはまだない。みのりさんに落ちたら、俺はもう二度と和美に触れられないだろう。その資格さえ失うだろう。
忘れると約束したのに、俺はまだ未練がましく和美を大切に思っている。そのことに失笑する気さえおきず、みのりさんの肩に手を乗せる。
「帰ろう」
「……約束して」
そうしないと動かないと足を踏ん張り、まるで子供のように強情な彼女にまいる。
約束は出来ない。そう思いながら彼女を引き離そうとした手を俺は止める。
間が悪い。いつもそうだ。
会いたくない時ほど会ってしまう。何かに導かれているとしか思えないタイミングで、俺は彼女を見つけてしまう。
和美___
その名を心の中で呼ぶ。
久しぶりに見る和美は変わらず綺麗だった。長くたゆたう茶色の髪に包まれる白い頬は火照り、抱きしめたくなるほど可愛らしい。
そんな和美は、道路を挟んだ居酒屋のビルの階段下に一人立っていた。
走り出したい気持ちをこらえ、和美から目を離す。
もう別れたのだ。声などかけられない。たとえこの場にみのりさんがいなくても。
「行こう、みのりさん」
そう言ったものの、和美が気になって、もう一度彼女へと視線を向けた俺は、わずかに息を飲んだ。
和美の後ろから階段を駆け下りてきた青年が、彼女に親しげに声をかけたからだ。そして彼女を少しからかったのか、和美は頬をますます火照らせ、両手を頬にあてる。
すると青年は手をあげて、和美の髪に触れた。驚く和美にかまわず、彼女の耳に口を寄せて何かをささやく。
その時だ。青年の視線が、俺の方に何げに移る。
青年は驚いたように目を見開いたが、顔を上げる和美の肩に不意に腕を回し、そのまま抱き寄せた。
「怜司くん?」
俺にしがみついていたみのりさんが離れようとする。
「あ、……帰ろう」
俺はみのりさんの肩に腕を回すと、おぼつかない足元の彼女を支えながら、その場から逃げ出すように足早に歩き出した。
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