5 / 119
キスまでの距離
5
しおりを挟む
***
「で、いい男には会えたの? 沙耶」
「いい男って、どんな?」
ランチタイム、いつものように同僚の純ちゃんと、会社の休憩室でお弁当を食べていた。
日曜日に行われた秀人さんの婚約パーティーの話をしていた私は、彼女の質問に首を傾げる。
「いい男の条件は、やっぱり顔じゃない? あの結城の婚約パーティーでしょ。いい男の宝庫じゃない?」
「だったら、ピンとくる人はいなかったかなー」
「あきれた。一人も?」
「うーん……」
「知野先輩の送別会の時といい、沙耶は男に興味なさすぎ」
純ちゃんは一つため息をつく。そして、卵焼きを口に運ぶ。彼女の作る卵焼きは見た目も味も絶品だ。
純ちゃんとは入社式で隣同士の席になり、それが縁で話をするようになった。
同い年とは思えないぐらいのしっかり者で、彼氏に困ったことがないらしいし、私の無欲さには飽きれると、毎日のように言う。
「だって知野先輩……、結婚しちゃうんだよ。すっごく憧れの人だったのに」
「大泣きだったもんねー、沙耶。泣きすぎてコンタクトなくしちゃうし、なぐさめようと寄ってくる男たちには目もくれないで、知野先輩に抱きついてるし。酒癖が意外と悪いのには驚いたわ」
「そんなに酔ってなかったよ」
「十分酔ってました。無事に帰れたのが不思議なぐらい。でも、心配いらなかったね。今日から知野先輩いないけど、沙耶は頑張ってる」
頭にポンっと手を乗せて、純ちゃんはなでなでしてくれる。
そうなのだ。入社以来お世話になっていた、美人で仕事の出来る憧れの存在だった知野深雪先輩が、今月いっぱいで寿退社する。有休消化で出勤はしないから、実質もう退社したようなものだ。
ずっと憧れていたから、先輩が退社すると知った時には泣いた。先輩も私を可愛がってくれていたからなおさらだ。
知野先輩を失ったショックは大きく、秀人さんの婚約パーティーも気乗りしなくて行きたくなかった。円華が絶対に来るようにとメールしてきたから、仕方なく出席したんだった。
「話は戻るけど、いいなーって思う男の人もいなかったの? 沙耶なら、その気になればすぐに彼氏できると思うよ」
「彼氏はいなくても困らないから」
「それは今までの話でしょ。知野先輩も前みたいに会ってくれないだろうし、私だっていつ結婚するかわからないよ。気づいたら周りはみんな結婚して、沙耶だけ一人、なんてことにならない保証はないわよ」
「えー、それはさみしい」
結婚後の生活なんて想像したこともないけど、生活は一変してしまうのかも、とも思う。
「でしょ。だったら彼氏の一人でも作って溺れてみたら? 沙耶、きっともっと綺麗になって、知野先輩なんて目じゃないぐらい、とびきりの美女になるわよ」
「知野先輩は別格だよ。次元が違うんだから」
「はいはい、確かに先輩は綺麗だったよね。私は沙耶の方が好きだけどって話」
「本当? 私も純ちゃん好きだよ」
「知野先輩の次に?」
「もちろん」
にこってしたら、純ちゃんはあきれ顔をする。
「先輩好きは筋金入りだね。そんな沙耶が、いつか男の話する日が来るのを楽しみにしてるわ」
「彼氏か……。彼氏が出来る前に結婚、なんてことになっちゃうかも」
「なにそれ?」
「なんて、思っただけ」
「そう言えば、沙耶はお嬢様だもんね。親が決めた相手と結婚することもあるんだ? そっか、確かにそんなこともあるのかと考えたら、彼氏は下手にいない方がいいのかもね」
お嬢様は大変だね、なんて純ちゃんは眉を寄せる。
「でもまだ、やっぱり彼氏とか、結婚とか無縁な気がする」
「のんびり屋の沙耶はそこがいいのかもね。また新しい出会いはすぐに来るわよ」
「出会いか……」
お弁当の蓋を閉じて、お茶の入った湯のみを両手で包み込み、お茶に映る自分と見つめあった。
週末は誕生日だ。湊くんは本当に私に会いに来るんだろうか。
「で、いい男には会えたの? 沙耶」
「いい男って、どんな?」
ランチタイム、いつものように同僚の純ちゃんと、会社の休憩室でお弁当を食べていた。
日曜日に行われた秀人さんの婚約パーティーの話をしていた私は、彼女の質問に首を傾げる。
「いい男の条件は、やっぱり顔じゃない? あの結城の婚約パーティーでしょ。いい男の宝庫じゃない?」
「だったら、ピンとくる人はいなかったかなー」
「あきれた。一人も?」
「うーん……」
「知野先輩の送別会の時といい、沙耶は男に興味なさすぎ」
純ちゃんは一つため息をつく。そして、卵焼きを口に運ぶ。彼女の作る卵焼きは見た目も味も絶品だ。
純ちゃんとは入社式で隣同士の席になり、それが縁で話をするようになった。
同い年とは思えないぐらいのしっかり者で、彼氏に困ったことがないらしいし、私の無欲さには飽きれると、毎日のように言う。
「だって知野先輩……、結婚しちゃうんだよ。すっごく憧れの人だったのに」
「大泣きだったもんねー、沙耶。泣きすぎてコンタクトなくしちゃうし、なぐさめようと寄ってくる男たちには目もくれないで、知野先輩に抱きついてるし。酒癖が意外と悪いのには驚いたわ」
「そんなに酔ってなかったよ」
「十分酔ってました。無事に帰れたのが不思議なぐらい。でも、心配いらなかったね。今日から知野先輩いないけど、沙耶は頑張ってる」
頭にポンっと手を乗せて、純ちゃんはなでなでしてくれる。
そうなのだ。入社以来お世話になっていた、美人で仕事の出来る憧れの存在だった知野深雪先輩が、今月いっぱいで寿退社する。有休消化で出勤はしないから、実質もう退社したようなものだ。
ずっと憧れていたから、先輩が退社すると知った時には泣いた。先輩も私を可愛がってくれていたからなおさらだ。
知野先輩を失ったショックは大きく、秀人さんの婚約パーティーも気乗りしなくて行きたくなかった。円華が絶対に来るようにとメールしてきたから、仕方なく出席したんだった。
「話は戻るけど、いいなーって思う男の人もいなかったの? 沙耶なら、その気になればすぐに彼氏できると思うよ」
「彼氏はいなくても困らないから」
「それは今までの話でしょ。知野先輩も前みたいに会ってくれないだろうし、私だっていつ結婚するかわからないよ。気づいたら周りはみんな結婚して、沙耶だけ一人、なんてことにならない保証はないわよ」
「えー、それはさみしい」
結婚後の生活なんて想像したこともないけど、生活は一変してしまうのかも、とも思う。
「でしょ。だったら彼氏の一人でも作って溺れてみたら? 沙耶、きっともっと綺麗になって、知野先輩なんて目じゃないぐらい、とびきりの美女になるわよ」
「知野先輩は別格だよ。次元が違うんだから」
「はいはい、確かに先輩は綺麗だったよね。私は沙耶の方が好きだけどって話」
「本当? 私も純ちゃん好きだよ」
「知野先輩の次に?」
「もちろん」
にこってしたら、純ちゃんはあきれ顔をする。
「先輩好きは筋金入りだね。そんな沙耶が、いつか男の話する日が来るのを楽しみにしてるわ」
「彼氏か……。彼氏が出来る前に結婚、なんてことになっちゃうかも」
「なにそれ?」
「なんて、思っただけ」
「そう言えば、沙耶はお嬢様だもんね。親が決めた相手と結婚することもあるんだ? そっか、確かにそんなこともあるのかと考えたら、彼氏は下手にいない方がいいのかもね」
お嬢様は大変だね、なんて純ちゃんは眉を寄せる。
「でもまだ、やっぱり彼氏とか、結婚とか無縁な気がする」
「のんびり屋の沙耶はそこがいいのかもね。また新しい出会いはすぐに来るわよ」
「出会いか……」
お弁当の蓋を閉じて、お茶の入った湯のみを両手で包み込み、お茶に映る自分と見つめあった。
週末は誕生日だ。湊くんは本当に私に会いに来るんだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる