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別離までの距離
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「手作りチョコ?」
ランチタイム、休憩室に向かう私に追いついてきた純ちゃんは、お弁当と雑誌を抱える私の胸元を覗く。そして、雑誌の表紙を見てそう言う。
雑誌には、手作りチョコからデパート一押しチョコまで、バレンタインデーに向けてのチョコレート特集が掲載されている。
「うん、今年はチョコレートケーキ焼こうかなぁって思ってるの」
「ミナトくんに?」
「うん。純ちゃんにも手作りチョコ作るね」
「本当っ? 楽しみー。私は無理だから、デパートのチョコね。その雑誌、後で見せてね」
「いいよー」
休憩室についた私たちは、いつも利用している席に座ると、雑誌をかたわらに置いてお弁当を広げた。
「今日も手作り弁当かぁ。沙耶は家庭的だよね。ミナトくんも沙耶の作ったお弁当持ってくの?」
私のお弁当を見ながら、コンビニ弁当を袋から取り出す純ちゃんは、まだ何も知らない。
「ミナトくんは持っていかないよ。いつも外食してるみたい」
「そうなの?」
「うん。正式に結婚発表するまではきっといろいろ内緒なんだと思う」
「沙耶は公にしてるのにね」
「でも、誰と結婚したかは内緒だよ。ただうちの課では浅田主任がバラしちゃっただけで」
考えてみたら、何もかも不自然だったのに、何も気付けなかったと思う。
「まあねー。実際、沙耶の結婚相手に関してはかんこう令しかれてるみたいに、みんな言わないしね。沙耶が結婚したんだってことだけ広めて、悪い男が近づかないように牽制したかったのかな」
「どうだろうね。ねー、純ちゃん、朔くんはチョコ好きかな?」
「お兄ちゃん? なんで?」
純ちゃんは急に朔くんの話が出たから、目を丸くする。朔くんはきっと純ちゃんには何も話さないのだ。だから純ちゃんはまだ私が湊くんと結婚してると信じている。
「今年も男性社員にプレゼントするでしょ? 朔くんにもあげたいなって思って」
「お兄ちゃんに? いらないでしょー。あっちはあっちで、女子社員にもらうんだろうし」
「朔くんにはこれからもお世話になるだろうから」
「まあ、沙耶がプレゼントしたいっていうなら、気の済むようにしたらいいと思うけど。手作りじゃなくて、デパートで買ってきたらいいよ」
「うん、そうするつもり」
うなずく私に、純ちゃんは「お兄ちゃんは義理チョコしかもらえないねー」と苦笑いする。そして、私のかたわらに置かれた雑誌を広げる。
「それでもお兄ちゃんは喜ぶと思うよ。チョコ好きだから」
「本当? どんなのが好きかな」
パラパラと純ちゃんは雑誌のページをめくる。デパートのチョコレート特集のページを見つけると、私の前に広げて見せる。
「この辺の、あんまりブランデーとか使ってない、オーソドックスなチョコでいいと思うよ」
そう言って、純ちゃんは有名ブランドの、比較的安価なチョコを指差した。
「じゃあ、そうする。純ちゃんと私からってことで渡すね」
「え、私からも?」
「純ちゃんは朔くんと仲良くないの?」
「仲いいっていうか、兄妹だしね」
純ちゃんは肩をすくめる。
「双子なのに、お兄ちゃんって呼ぶんだね。ずっと?」
「そうだねー、ずっとかなぁ。昔は朔って呼び捨てしてたけど」
「どうしてお兄ちゃんって呼ぶようになったの? あ、聞いて良かった?」
「うん、全然。あれはさー、中学生になった時だったかなぁ」
純ちゃんは天井を見上げながら、懐かしいことを思い出す目をして、ちょっとはにかむように笑った。
「お兄ちゃんは小さい頃、私より背も低くて、泣き虫だったんだよねー」
「泣き虫? 今の朔くんからは想像つかないね」
「小さい頃の話だからね。幼稚園でも私がお姉ちゃんだと思われることが多かったし、私もお兄ちゃんのことバカにしてるところはあったかな。だから、お友だちからもからかわれるのはお兄ちゃんだったし」
「そうなんだね」
「お兄ちゃんはおとなしいから、やられっぱなし。そういうところも頼りないって思ってたけど、私が中学生の時にね」
「うん、中学生の時?」
純ちゃんはまた笑う。思い出し笑いのようだ。
「私、先輩から告白されたんだけど……、あんまり評判が良くない男で」
「そうなの?」
「そんなの知らないから付き合うことに決めたんだけど、お兄ちゃんが大反対して私たち喧嘩したの。相手の先輩も出てきて、お兄ちゃんひどい目にあったんだけど、それでも反対だって言い続けて……。そうこうしてるうちに、先輩には彼女がいるってわかったりして」
「朔くんはそういうの、知ってたんだね」
朔くんは少しだけ不器用なところのある、正義感のある人なんだって思う。
「そう。だったら、反対するだけじゃなくて、理由も言ってくれたら良かったんだけど、私を傷つけたくなかったのかな。変なところで優しさ見せたりするんだよね。それからは、尊敬の意味も込めて、お兄ちゃんって呼んでる」
「朔くんはカッコいいね」
「カッコいいかはわかんないけど、見た目よりは頼りになるよ」
「うん、なんとなくわかるよ。朔くんはすごく優しくて、いつも見守ってくれる人のような気がする」
「そこまでじゃないかもだけど……」
と、純ちゃんは苦笑いしながらも嬉しそうだ。
「沙耶はお兄ちゃんと何回か会ったことあるんだよね。今度三人で食事する?」
「うん、湊くんがいいよって言ってくれたら」
「大丈夫だよー。お兄ちゃんを男として見ることなんてないでしょー」
「でも湊くんは……」
「まあ、一応あれでも男だしね。ミナトくんとしては気になるよね。お兄ちゃんには私から連絡しておくね」
そう言った矢先に、純ちゃんはスマホを取り出すと、早速朔くんにメールを送り始めた。
「手作りチョコ?」
ランチタイム、休憩室に向かう私に追いついてきた純ちゃんは、お弁当と雑誌を抱える私の胸元を覗く。そして、雑誌の表紙を見てそう言う。
雑誌には、手作りチョコからデパート一押しチョコまで、バレンタインデーに向けてのチョコレート特集が掲載されている。
「うん、今年はチョコレートケーキ焼こうかなぁって思ってるの」
「ミナトくんに?」
「うん。純ちゃんにも手作りチョコ作るね」
「本当っ? 楽しみー。私は無理だから、デパートのチョコね。その雑誌、後で見せてね」
「いいよー」
休憩室についた私たちは、いつも利用している席に座ると、雑誌をかたわらに置いてお弁当を広げた。
「今日も手作り弁当かぁ。沙耶は家庭的だよね。ミナトくんも沙耶の作ったお弁当持ってくの?」
私のお弁当を見ながら、コンビニ弁当を袋から取り出す純ちゃんは、まだ何も知らない。
「ミナトくんは持っていかないよ。いつも外食してるみたい」
「そうなの?」
「うん。正式に結婚発表するまではきっといろいろ内緒なんだと思う」
「沙耶は公にしてるのにね」
「でも、誰と結婚したかは内緒だよ。ただうちの課では浅田主任がバラしちゃっただけで」
考えてみたら、何もかも不自然だったのに、何も気付けなかったと思う。
「まあねー。実際、沙耶の結婚相手に関してはかんこう令しかれてるみたいに、みんな言わないしね。沙耶が結婚したんだってことだけ広めて、悪い男が近づかないように牽制したかったのかな」
「どうだろうね。ねー、純ちゃん、朔くんはチョコ好きかな?」
「お兄ちゃん? なんで?」
純ちゃんは急に朔くんの話が出たから、目を丸くする。朔くんはきっと純ちゃんには何も話さないのだ。だから純ちゃんはまだ私が湊くんと結婚してると信じている。
「今年も男性社員にプレゼントするでしょ? 朔くんにもあげたいなって思って」
「お兄ちゃんに? いらないでしょー。あっちはあっちで、女子社員にもらうんだろうし」
「朔くんにはこれからもお世話になるだろうから」
「まあ、沙耶がプレゼントしたいっていうなら、気の済むようにしたらいいと思うけど。手作りじゃなくて、デパートで買ってきたらいいよ」
「うん、そうするつもり」
うなずく私に、純ちゃんは「お兄ちゃんは義理チョコしかもらえないねー」と苦笑いする。そして、私のかたわらに置かれた雑誌を広げる。
「それでもお兄ちゃんは喜ぶと思うよ。チョコ好きだから」
「本当? どんなのが好きかな」
パラパラと純ちゃんは雑誌のページをめくる。デパートのチョコレート特集のページを見つけると、私の前に広げて見せる。
「この辺の、あんまりブランデーとか使ってない、オーソドックスなチョコでいいと思うよ」
そう言って、純ちゃんは有名ブランドの、比較的安価なチョコを指差した。
「じゃあ、そうする。純ちゃんと私からってことで渡すね」
「え、私からも?」
「純ちゃんは朔くんと仲良くないの?」
「仲いいっていうか、兄妹だしね」
純ちゃんは肩をすくめる。
「双子なのに、お兄ちゃんって呼ぶんだね。ずっと?」
「そうだねー、ずっとかなぁ。昔は朔って呼び捨てしてたけど」
「どうしてお兄ちゃんって呼ぶようになったの? あ、聞いて良かった?」
「うん、全然。あれはさー、中学生になった時だったかなぁ」
純ちゃんは天井を見上げながら、懐かしいことを思い出す目をして、ちょっとはにかむように笑った。
「お兄ちゃんは小さい頃、私より背も低くて、泣き虫だったんだよねー」
「泣き虫? 今の朔くんからは想像つかないね」
「小さい頃の話だからね。幼稚園でも私がお姉ちゃんだと思われることが多かったし、私もお兄ちゃんのことバカにしてるところはあったかな。だから、お友だちからもからかわれるのはお兄ちゃんだったし」
「そうなんだね」
「お兄ちゃんはおとなしいから、やられっぱなし。そういうところも頼りないって思ってたけど、私が中学生の時にね」
「うん、中学生の時?」
純ちゃんはまた笑う。思い出し笑いのようだ。
「私、先輩から告白されたんだけど……、あんまり評判が良くない男で」
「そうなの?」
「そんなの知らないから付き合うことに決めたんだけど、お兄ちゃんが大反対して私たち喧嘩したの。相手の先輩も出てきて、お兄ちゃんひどい目にあったんだけど、それでも反対だって言い続けて……。そうこうしてるうちに、先輩には彼女がいるってわかったりして」
「朔くんはそういうの、知ってたんだね」
朔くんは少しだけ不器用なところのある、正義感のある人なんだって思う。
「そう。だったら、反対するだけじゃなくて、理由も言ってくれたら良かったんだけど、私を傷つけたくなかったのかな。変なところで優しさ見せたりするんだよね。それからは、尊敬の意味も込めて、お兄ちゃんって呼んでる」
「朔くんはカッコいいね」
「カッコいいかはわかんないけど、見た目よりは頼りになるよ」
「うん、なんとなくわかるよ。朔くんはすごく優しくて、いつも見守ってくれる人のような気がする」
「そこまでじゃないかもだけど……」
と、純ちゃんは苦笑いしながらも嬉しそうだ。
「沙耶はお兄ちゃんと何回か会ったことあるんだよね。今度三人で食事する?」
「うん、湊くんがいいよって言ってくれたら」
「大丈夫だよー。お兄ちゃんを男として見ることなんてないでしょー」
「でも湊くんは……」
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