あしたの恋

つづき綴

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星月夜

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***


「ごめん、日菜詩ちゃん。そろそろ行こうか」

 着替えを済ませ、バスルームを出ると、日菜詩ちゃんはパーテーションの前に座り込み、アクリル板に貼り付けられた四つ葉のクローバーを眺めていた。

「気に入った?」

 彼女の側に片膝をつく。

「うん。お兄さんやお姉さん……たくさんの愛に溢れてるね」
「……まあ、そうかな」

 そんな風に考えたこともない。正直、自分が集めたものがこんな形になっていることで、日菜詩ちゃんには気分を害されるんじゃないかなんて考えてたぐらいだ。

「なんだか……嬉しくて」

 彼女が胸の前で手を合わせるから、そのまま薄いベージュのブラウスの胸元に視線がいく。今日の日菜詩ちゃんはやけに魅力的だ。いつもより大人びてみえる。

 ミニ丈のベージュスカートから伸びる細い脚から目をそらし、視線を上げていくと、彼女は可愛らしい唇を薄く開き、俺を見上げている。

 誘われてるんじゃないかなんて錯覚したくなるような仕草だ。こんなに可愛らしい色気のある子だっただろうか。

「あの、明日嘉くん……、ありがとう」

 日菜詩ちゃんはほんのり頬を染めて礼を言う。

「ああ、別にいいよ、礼なんて。泊めただけだから」
「そうじゃなくて……」

 彼女はうつむき、唇に触れる。

「私のために、してくれたんだよね? 私、すごく嬉しかったの。傷ついたりなんてしてないから」
「日菜詩ちゃん……」
「あっ、ごめんね。行かなきゃね」

 日菜詩ちゃんは俺から逃げ出すようにボストンバッグをつかみ、玄関へ向かう。

 小さな背中が頼りなげだ。傷ついてないなんていうが、はっきりしない俺の態度には不安だろう。

 だが、どうしても好きとは言ってあげられない。体で態度で愛を伝えることしか今の俺には出来ない。

 それは逃げだ。確約するのが怖くて、いたずらに彼女に触れているだけ。最低だ。それでもどうしようもなくて苦悩する。

 日菜詩ちゃんを彼女として守れる自信がないのに、他の男に奪われたくないと思ってる俺の身勝手を、彼女は受け止めてくれている。

 居心地悪そうに玄関で佇む彼女の背後に立ち、肩に触れて声をかける。

「日菜詩ちゃん、喫茶店でごはん食べよう。もし時間があれば、だけど」

 そう言うと、彼女は驚いたように振り返り、とても幸せそうに頬をほころばせて、「うん」と可愛らしくうなずいた。
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