溺愛王子と髪結プリンセス

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俺の髪結になる?

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 王城からわずかに離れた土地に建つ王宮の一室。争いごととは無縁で、普段は穏やかな空気に包まれた部屋で書物を読んでいたベリルは、ふと顔を上げた。

 おもむろに立ち上がり窓辺に寄ると、王城の尖がった屋根が天高く伸びる一角に視線を向ける。

赤鷹レッドフォークが鳴いている」

 セドニー王国の象徴である、青いドラゴンが描かれた国旗が掲揚する細いポールの周囲を、赤茶の大きな鷹がぐるぐると旋回している。

 ティーポットをカップに傾けていたサンも手を止め、不安げにベリルを見つめる。

 三百年の歴史を持つセドニー王国が建国されたその日、数羽の赤鷹が青く澄んだ空を縦横無尽に飛び交い、セドニー王国誕生を祝ったと言われている。

 しかしその一方、それ以降、赤鷹が現れたのは国王が逝去した時や戦乱が起きる時などで、いつしか歴史の中で吉兆を知らせる鷹として国民に畏怖されてきた。

「国王陛下の死を悼みに来たのでしょうか」

 サンは眉をひそめてそう言う。

 セドニー王国国王タンザが長年患っていた病で息を引き取ったのは、夜も明けきらない早朝のことだった。

「王城はさぞ慌ただしいことだろう」

 悠長に普段と変わらない生活をしていた己を自戒するようにベリルは息をついて、傍らにあるマントをつかむ。

「王宮へ向かう」

 そう言って、ベリルは扉へ向かって歩き出す。

「どなたの……っ?」

 慌てて追いかけようとするサンの問いに答えることなく、ベリルはマントをひるがえすと部屋を出た。
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