溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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俺の髪結になる?

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「あ、いや……っ」

 与えられる快楽に流されそうになりながら、抵抗しようと必死に真凛は身をよじる。

 男の指が肌に触れたのは初めてのことで、やめて欲しいと懇願しても自分の意思ではどうにもならない行為に犯されていく羞恥と、彼の妹であると聞かされた事実に混乱する。

「アウイ……、だめ……っ」

 アウイの指は緩急つけながら真凛の左胸を揉みしだく。湿り気を帯びた乳房の先端に、何度も彼の舌が刺激を与える。

「煽られてると思っていいな?」

 真凛は息を乱しながら首を横に振り、うっすらと生理的な涙の浮かぶ目で、上半身の衣服を脱ぎ捨てるアウイを見上げる。

 そのとき、視界に飛び込んできたものに驚き息を飲み、彼の左腕に注視した。

「そのあざは……」

 アウイの左腕から目が離せない。

「ほう、これに覚えがあるか」

 自身の左腕をなで下ろしたアウイは、二の腕にくっきりと現れるあざを真凛に見せつける。

 真凛はおそるおそるそのあざへ指を伸ばした。たくましく筋肉の盛り上がる肩の下あたりに、青黒いあざがある。それは見事なドラゴンの形を成した、まるで刺青のようで。

「これは……」

 上体を起こし、アウイのあざに触れていく。

「王の子である証だ」
「証……? あざではないの?」
「陛下の子は生まれてすぐに刻印を押される。刻印のあるもののみが、王位継承権を得ることができるのだ」
「それじゃあ、本当に……」

 真凛は下着の上から胸元に手を当てる。

「マリンの肌にもある証を見せてもらおうか。我が妹姫であるその証を」

 アウイは真凛の手を払いのけると、間髪を入れずにブラを押し上げた。先程まで隠していた右胸があらわになり、彼は目を細める。

 慌てて隠そうとするが、真凛の手はあっけなくアウイにつかまれてしまう。

「ああ……、美しいな」

 右胸のふくらみにアウイは口づける。

「見ないで……」

 美しいはずなどない。アウイと同様の青黒いあざが胸にある。愛し合う男性に見られたら情熱も冷めてしまうだろうほどにくっきりとした、あざ。

 それもアウイのものほど綺麗なドラゴンではなく、いびつな形の模様。

「胸が大きくふくらんで、ドラゴンも歪んだのだろう。豊満な胸は好きだ」

 真凛の心中を察したつもりだろうが、なぐさめにもならないような言葉を吐いて、アウイは乳房にキスをする。

「ア、ウイ……、やめて……」
「やめてというわりには身体は素直に反応しているぞ」

 アウイの指が乳房の先端をつまんでは弾き、幾度となくもてあそぶ。

 ああ……っと、身体の力が抜ける。それでも抵抗しなければと、真凛は彼の手首をつかむ。

「証があるのは兄妹の証拠でしょう? それなのに……」
「そういうことは気にしないと言ったはずだが? 快楽をともにするだけなら、最適な関係だとは思わないか?」
「最適……って……」
「マリンはこの身体を一生男に見せることはできない。亡き陛下に娘がいたことを知るのは、ひと握りの者だけだ。マリンに王女として生きる道はない」

 王女であって王女ではない。そして、日本に戻ることも、セドニー王国の国民として生きる道もない。

「……」
「言ったはずだ。この国で生き伸びる方法は俺の女になることだけだと」

 諦めろ、と囁いたアウイに、絶望の表情を浮かべた真凛はふたたびベッドに押し戻された。

 アウイの両腕が真凛を包み込む。触れ合う肌から伝わるぬくもりは優しいのに、彼の行為は無慈悲で。

 真凛は首をひねらせて顔を背ける。こぼれそうになる涙をこらえるようにまぶたを閉じる。悔しいのだ。アウイを頼らなくても生きていけると突っぱねられないことが。

 青い前髪が真凛のうなじを撫でていく。温かな唇はせわしなく首筋に吸い付き、次第に下がっていく。

「覚悟を決めた女は美しい。間違いなくマリンは、セドニー王国随一の美姫だ」

 その美しい娘を組み敷いていることを誇りに思うのだろう。支配欲を見せて、うっすらと笑むアウイの端正で綺麗な顔が胸にうずまってくる。

 血のつながりなどわからない。兄だと認識したことのない男に抱かれても罪の意識を持つことはない。

 真凛はそう言い聞かせて、アウイの短い髪に指をうずめる。

 生きるためだ。母もいないこの地で生き抜くために、望まぬことも受け入れていかなくてはいけないだろう。

「本当に……綺麗だ」

 アウイの大きな手のひらが肌の上を滑っていく。タイトスカートの中へ差し込まれたその手は、太ももを幾度もなでていく。

「ア……ウイ……」
「ああ、マリンは身を任せていればいい」

 真凛の唇を奪おうと顔を寄せるアウイの背中を抱きしめる。指先は震えるけれど、受け入れなければ生きてはいけない、そう思う気持ちがそうさせた。

 その時だった。部屋の外がざわついた。いくつかの慌ただしい足音と「おやめくださいっ」という悲鳴に近い男性の大きな声が聞こえてくる。

 アウイは真凛から離れると、チッと小さく舌打ちをする。

「無粋な男だ」
「アウイ……?」

 部屋の扉が勢い良く押し開かれる音がした。そして、一人の足音だけがベッドの方へ近づいてくる。

「アルマンは何をやってるんだ」

 苛立ちをあらわにアウイが上着を肩にかけ、ベッドから降りると同時に、周囲を覆う天蓋が舞い上がる。

 真凛は驚いて息を飲む。

 視界に飛び込んできたのは、緋色。それは見たこともないほどに鮮やかな赤で、一瞬にして目を奪われた。

 それが人の髪の色だと気づいた時には、天蓋の中へ、一人の青年が踏み込んできていた。

 赤髪の青年の視線は、すぐさま真凛の胸に向けられる。慌てて胸元を両腕で隠すと、青年は無表情でアウイを冷ややかににらむ。

「無粋なのはどちらですか、兄上?」
「ベリルならマリンがここへ来る前に動くこともできただろう。それを放っておいて、いいところで邪魔しに来るところが無粋だと言ってるんだ」

 アウイはまるで子どものように、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「いいところとは、また。もっとわざとらしい言い訳をなさるかと思っていましたよ」
「王の子である証を確認していた。そう言って欲しかったか? 心配するな、証はある。舐めてみたが本物のようだ」
「確かめ方も色気のない。マリンが陛下の子であることは、アルマンが証明するでしょうに。兄上にやましい気持ちがあるのでは安心して任せられませんね」

 ベリルは肩をすくめる。その呆れようからすると、普段からアウイに手を焼かされているのかもしれない。

「男と女がすることを他に知らないものでね。ベリルほど無欲にはなれん」
「では、マリンは私が預かります。よろしいですね?」
「だめだと言っておまえが引いたことがあるか? 俺はどこにでもいけるからな、マリンがどこにいようがかまうまい」
「私の王宮への出入りは禁じています」
「あー、わかってるさ」

 冷静な受け応えが面白くないのか、アウイは不機嫌さを隠そうともしない。

「マリン、行きましょう。悪いようにはしません」

 ベリルに手を差し伸べられて、真凛は慌てて散乱した衣服をかき集めて身につける。

 若い男ふたりに裸を見られたことが恥ずかしくて真凛のほおは赤らむが、男たちの方は見慣れているのか平然としている。

「安心しろ、マリン。ベリルはもう何年も女を断っている。欲を忘れた男は女よりも弱い」

 アウイはバカにするように吐き捨てると、愉快げに高らかな声を立てて笑った。
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