32 / 58
セオの髪結になるということ
15
しおりを挟む
*
玉座で足を組み、ほおづえをつきながら、人差し指をひじ掛けにコツコツと打ち付ける。
「アルマンはまだか」
仏頂面で一人ごちると、呼応するように正面の扉がゆっくりと開き、アルマンが姿を見せる。
「おお、アルマン。待ちくたびれたぞ。ん? ベリルの髪結か」
玉座から飛び降りるように立ち上がり、アルマンに歩み寄る。
彼の隣には疲れ切った様子の茶髪の女がいる。見覚えのあるその風体と赤い髪結ドレスで、すぐにそれと気づく。
「陛下、ベリル王子の髪結サンでございます」
アルマンがサンを紹介する。知っている、とうなずき、少々薄汚れたサンの全身を眺め見る。
「俺に何用だ。今はくだらない話は聞きたくない気分だ」
「おやおや、陛下、何かございましたか」
アルマンは不機嫌なアウイを見て、愉快そうにほおを緩める。
「結婚しろと母がわざわざここまで言いに来た」
「おや、チタ殿下が。珍しいこともあるものですね。それで、なんと答えたのです?」
「ふん。無論、結婚など興味ない、とな。王家の血を絶えさせるのかと立腹していたが、そうだと言ってやった」
「穏やかではありませんね。穏やかではないと言えば、何やらベリル王子の身に起きているようです。真凛様は大丈夫でしょうか」
アウイとチタの問答は今に始まったことではなく、アルマンは軽くあしらうように不自然なぐらい急に話の角度を変える。
「インカ殿の次はベリルか。ベリルは俺を殺す勇気もなければ、マリンへ悪業を働くはずもない。そうでなければ、最初から俺はマリンを手放さない」
「陛下、お言葉を返すようですが、ベリル様は外道になるとおっしゃられて、私から髪結の任を解かれました」
サンは心底不安げにアウイへ訴える。アウイもまた眉をひそめる。
「死ぬ気か、ベリルは」
「あるいは、別の誰かが」
アルマンが神妙に言う。
「マリンをいま殺してもどうにもならん。俺が生きている限り、誰にも王にはなれないのだからな」
「王になることが目的ではないとしたら」
アルマンの厳しい顔つきを見て、アウイも思案する。
「ベリルの目的はなんだ。マリンが死ねば、セオが王になる道は絶たれる。セオが死ねば、インカ殿の野望は露と消える。どちらもベリルにとっては望まぬ話だろう。その逆もしかりだ」
「誰も死なず、真凛様とセオ王子が生きる道はありますか」
「ともに生きる道はないだろうな。……仕方あるまい。マリンを連れ戻すか。最初から俺の女になっていれば良かったものを」
アウイは舌打ちすると、アルマンを横目で見る。
「今からマリンを連れ戻す。朝まで俺の部屋へは入るな。いいな。今度こそ思いを遂げてみせよう」
玉座で足を組み、ほおづえをつきながら、人差し指をひじ掛けにコツコツと打ち付ける。
「アルマンはまだか」
仏頂面で一人ごちると、呼応するように正面の扉がゆっくりと開き、アルマンが姿を見せる。
「おお、アルマン。待ちくたびれたぞ。ん? ベリルの髪結か」
玉座から飛び降りるように立ち上がり、アルマンに歩み寄る。
彼の隣には疲れ切った様子の茶髪の女がいる。見覚えのあるその風体と赤い髪結ドレスで、すぐにそれと気づく。
「陛下、ベリル王子の髪結サンでございます」
アルマンがサンを紹介する。知っている、とうなずき、少々薄汚れたサンの全身を眺め見る。
「俺に何用だ。今はくだらない話は聞きたくない気分だ」
「おやおや、陛下、何かございましたか」
アルマンは不機嫌なアウイを見て、愉快そうにほおを緩める。
「結婚しろと母がわざわざここまで言いに来た」
「おや、チタ殿下が。珍しいこともあるものですね。それで、なんと答えたのです?」
「ふん。無論、結婚など興味ない、とな。王家の血を絶えさせるのかと立腹していたが、そうだと言ってやった」
「穏やかではありませんね。穏やかではないと言えば、何やらベリル王子の身に起きているようです。真凛様は大丈夫でしょうか」
アウイとチタの問答は今に始まったことではなく、アルマンは軽くあしらうように不自然なぐらい急に話の角度を変える。
「インカ殿の次はベリルか。ベリルは俺を殺す勇気もなければ、マリンへ悪業を働くはずもない。そうでなければ、最初から俺はマリンを手放さない」
「陛下、お言葉を返すようですが、ベリル様は外道になるとおっしゃられて、私から髪結の任を解かれました」
サンは心底不安げにアウイへ訴える。アウイもまた眉をひそめる。
「死ぬ気か、ベリルは」
「あるいは、別の誰かが」
アルマンが神妙に言う。
「マリンをいま殺してもどうにもならん。俺が生きている限り、誰にも王にはなれないのだからな」
「王になることが目的ではないとしたら」
アルマンの厳しい顔つきを見て、アウイも思案する。
「ベリルの目的はなんだ。マリンが死ねば、セオが王になる道は絶たれる。セオが死ねば、インカ殿の野望は露と消える。どちらもベリルにとっては望まぬ話だろう。その逆もしかりだ」
「誰も死なず、真凛様とセオ王子が生きる道はありますか」
「ともに生きる道はないだろうな。……仕方あるまい。マリンを連れ戻すか。最初から俺の女になっていれば良かったものを」
アウイは舌打ちすると、アルマンを横目で見る。
「今からマリンを連れ戻す。朝まで俺の部屋へは入るな。いいな。今度こそ思いを遂げてみせよう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる