溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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セオの髪結になるということ

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 玉座で足を組み、ほおづえをつきながら、人差し指をひじ掛けにコツコツと打ち付ける。

「アルマンはまだか」

 仏頂面で一人ごちると、呼応するように正面の扉がゆっくりと開き、アルマンが姿を見せる。

「おお、アルマン。待ちくたびれたぞ。ん? ベリルの髪結か」

 玉座から飛び降りるように立ち上がり、アルマンに歩み寄る。

 彼の隣には疲れ切った様子の茶髪の女がいる。見覚えのあるその風体と赤い髪結ドレスで、すぐにそれと気づく。

「陛下、ベリル王子の髪結サンでございます」

 アルマンがサンを紹介する。知っている、とうなずき、少々薄汚れたサンの全身を眺め見る。

「俺に何用だ。今はくだらない話は聞きたくない気分だ」
「おやおや、陛下、何かございましたか」

 アルマンは不機嫌なアウイを見て、愉快そうにほおを緩める。

「結婚しろと母がわざわざここまで言いに来た」
「おや、チタ殿下が。珍しいこともあるものですね。それで、なんと答えたのです?」
「ふん。無論、結婚など興味ない、とな。王家の血を絶えさせるのかと立腹していたが、そうだと言ってやった」
「穏やかではありませんね。穏やかではないと言えば、何やらベリル王子の身に起きているようです。真凛様は大丈夫でしょうか」

 アウイとチタの問答は今に始まったことではなく、アルマンは軽くあしらうように不自然なぐらい急に話の角度を変える。

「インカ殿の次はベリルか。ベリルは俺を殺す勇気もなければ、マリンへ悪業を働くはずもない。そうでなければ、最初から俺はマリンを手放さない」
「陛下、お言葉を返すようですが、ベリル様は外道になるとおっしゃられて、私から髪結の任を解かれました」

 サンは心底不安げにアウイへ訴える。アウイもまた眉をひそめる。

「死ぬ気か、ベリルは」
「あるいは、別の誰かが」

 アルマンが神妙に言う。

「マリンをいま殺してもどうにもならん。俺が生きている限り、誰にも王にはなれないのだからな」
「王になることが目的ではないとしたら」

 アルマンの厳しい顔つきを見て、アウイも思案する。

「ベリルの目的はなんだ。マリンが死ねば、セオが王になる道は絶たれる。セオが死ねば、インカ殿の野望は露と消える。どちらもベリルにとっては望まぬ話だろう。その逆もしかりだ」
「誰も死なず、真凛様とセオ王子が生きる道はありますか」
「ともに生きる道はないだろうな。……仕方あるまい。マリンを連れ戻すか。最初から俺の女になっていれば良かったものを」

 アウイは舌打ちすると、アルマンを横目で見る。

「今からマリンを連れ戻す。朝まで俺の部屋へは入るな。いいな。今度こそ思いを遂げてみせよう」
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