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セオの髪結になるということ
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光る切っ先が落ちてくる。それでも不思議と恐怖心はなかった。尖がった先がたとえ胸を突き刺したとしても、すべて嘘だろうと思えるような気がした。
「ベリル王子……」
鋭いナイフと同時に水滴が降ってくる。その水滴はナイフが真凛に届くよりも先にほおを濡らす。
「ベリルっ!」
唐突な叫び声と同時に部屋の扉が開く。身体の上にかぶさるベリルの身体が横倒しになる。途端、身体が浮く。
「間に合ったか、マリン」
「アウイ……」
ベッドの下へ倒れ込むベリルにすぐさま背を向け、真凛を抱きかかえたアウイは窓を押し開く。
「陛下、何をっ!」
そう叫んだ瞬間、アウイが窓の外へ飛び出す。恐怖でアウイの首にすがりつく。耳元で彼が笑う。
「殺されるよりも怖いか」
「だってベリル王子は泣いていたもの。怖くなんか……」
「ほう」
「落ちるっ!」
身体が落下する。二階ほどの高さだが、けがもなく降りられるはずもない。
わきあがる恐怖心から目をそらすようにまぶたをぎゅっと閉じる。しかしその瞬間、ふっと軽くなった身体はまばゆい光に吸い込まれていった。
「アウイ……、ここは……」
「俺のベッドだが?」
「ベッ……!」
光に包まれた身体は今、気づけばふかふかのベッドにうずもれているようだ。言われてみれば、初めてセドニーへ来た時と変わらないアウイの部屋だ。
薄く青い天蓋が下がるベッドから飛び起きようとするのを、アウイはいともたやすく肩をつかんで押し戻す。
「アウイ陛下……」
「アウイでいい。やっと連れ戻した美しい蝶だ。多少の無礼は大目に見る」
「……連れ戻すって。私はセオ様のところへ」
「やめておけ。セオはくだらない男だ。惚れる理由すら見つからない」
アウイの手のひらが真凛のほおを撫であげ、そのまま長い指は髪にからみつく。そして青い瞳は真凛をうっとりと見つめる。
「綺麗になったな。男を知ると女は変わる」
ほおが紅潮する。それは肯定を知らしめたようなもので、真凛は恥ずかしさから顔を背ける。
「セオよりも俺はいいぞ」
耳たぶに唇をつけながら、アウイが甘くささやく。
「そんなのっ……」
アウイを押しのけようとした真凛は、天蓋の奥に人影を見つけて愕然とする。
「来たか」
「セオさま……」
薄い天蓋をアウイが持ち上げる。ゆらゆらとかげろうのように消えそうなセオが真凛の視線の先に立っている。
すぐにセオそのものではなく、分身だと気づく。彼の身体には奥の壁が透けて見える。
「セオ、よく見ておけ。好きな女が他の男に抱かれて絶頂に達するさまをな」
「えっ……、いやっ……」
セオが薄く口を開く。何かを言おうとしているが声にならなくて、苦しむようにのどを押さえる。
真凛もまた手を伸ばすが、アウイに組み敷かれた身体は逃げ場がなく、セオには届かない。
アウイは真凛のあごをつかむと上を向かせる。抵抗の言葉を発する前に、彼の唇が落ちてきて真凛の口をふさぐ。
「んっ……ふ」
真凛は腕を振り上げる。振り下ろした手はアウイの肩をかすめるが、唇に食らいついてくる彼を止めることはできない。
何度も抵抗してみるが、すぐに唇は重ねられてしまう。
「はっ……、いや……」
「俺はかなりいい」
アウイは真凛の上へまたがると上着を脱ぎ捨てる。そして白の髪結ドレスの胸元に手をかけると勢いよく剥いだ。
光る切っ先が落ちてくる。それでも不思議と恐怖心はなかった。尖がった先がたとえ胸を突き刺したとしても、すべて嘘だろうと思えるような気がした。
「ベリル王子……」
鋭いナイフと同時に水滴が降ってくる。その水滴はナイフが真凛に届くよりも先にほおを濡らす。
「ベリルっ!」
唐突な叫び声と同時に部屋の扉が開く。身体の上にかぶさるベリルの身体が横倒しになる。途端、身体が浮く。
「間に合ったか、マリン」
「アウイ……」
ベッドの下へ倒れ込むベリルにすぐさま背を向け、真凛を抱きかかえたアウイは窓を押し開く。
「陛下、何をっ!」
そう叫んだ瞬間、アウイが窓の外へ飛び出す。恐怖でアウイの首にすがりつく。耳元で彼が笑う。
「殺されるよりも怖いか」
「だってベリル王子は泣いていたもの。怖くなんか……」
「ほう」
「落ちるっ!」
身体が落下する。二階ほどの高さだが、けがもなく降りられるはずもない。
わきあがる恐怖心から目をそらすようにまぶたをぎゅっと閉じる。しかしその瞬間、ふっと軽くなった身体はまばゆい光に吸い込まれていった。
「アウイ……、ここは……」
「俺のベッドだが?」
「ベッ……!」
光に包まれた身体は今、気づけばふかふかのベッドにうずもれているようだ。言われてみれば、初めてセドニーへ来た時と変わらないアウイの部屋だ。
薄く青い天蓋が下がるベッドから飛び起きようとするのを、アウイはいともたやすく肩をつかんで押し戻す。
「アウイ陛下……」
「アウイでいい。やっと連れ戻した美しい蝶だ。多少の無礼は大目に見る」
「……連れ戻すって。私はセオ様のところへ」
「やめておけ。セオはくだらない男だ。惚れる理由すら見つからない」
アウイの手のひらが真凛のほおを撫であげ、そのまま長い指は髪にからみつく。そして青い瞳は真凛をうっとりと見つめる。
「綺麗になったな。男を知ると女は変わる」
ほおが紅潮する。それは肯定を知らしめたようなもので、真凛は恥ずかしさから顔を背ける。
「セオよりも俺はいいぞ」
耳たぶに唇をつけながら、アウイが甘くささやく。
「そんなのっ……」
アウイを押しのけようとした真凛は、天蓋の奥に人影を見つけて愕然とする。
「来たか」
「セオさま……」
薄い天蓋をアウイが持ち上げる。ゆらゆらとかげろうのように消えそうなセオが真凛の視線の先に立っている。
すぐにセオそのものではなく、分身だと気づく。彼の身体には奥の壁が透けて見える。
「セオ、よく見ておけ。好きな女が他の男に抱かれて絶頂に達するさまをな」
「えっ……、いやっ……」
セオが薄く口を開く。何かを言おうとしているが声にならなくて、苦しむようにのどを押さえる。
真凛もまた手を伸ばすが、アウイに組み敷かれた身体は逃げ場がなく、セオには届かない。
アウイは真凛のあごをつかむと上を向かせる。抵抗の言葉を発する前に、彼の唇が落ちてきて真凛の口をふさぐ。
「んっ……ふ」
真凛は腕を振り上げる。振り下ろした手はアウイの肩をかすめるが、唇に食らいついてくる彼を止めることはできない。
何度も抵抗してみるが、すぐに唇は重ねられてしまう。
「はっ……、いや……」
「俺はかなりいい」
アウイは真凛の上へまたがると上着を脱ぎ捨てる。そして白の髪結ドレスの胸元に手をかけると勢いよく剥いだ。
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