溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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セオの髪結になるということ

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「行ったな」

 流れる涙をこらえきれずにベッドに顔をうずめていると、小さく震える肩をアウイはそっと撫でる。その手をはらい落とし、真凛は両手で顔を覆う。

「ひどいわ……」
「これでセオも諦めがつくだろう」

 衣服を整えながら言うアウイに、両腕でそっと抱きしめられる。

「諦めさせるために、キスするなんて……」
「それだけじゃない。本気になるぐらい良かった。またしてもいい」
「……私たちは兄妹なのに」
「父親が同じというだけだ。美しいものを愛でる障害にはならない」

 真凛は顔から手を離し、眉をひそめる。

「父が同じなだけ?」
「話してなかったか? 真凛の母親は、母王のチタではない」

 アウイの手のひらがゆるりと真凛の髪をなでる。

「じゃあ、私は誰の……?」
「母王の姉、アイだ」
「……どういう……」
「どうもこうもない。父王はセドニー随一と言われる美姫を二人とも愛しただけだ。アイは欲のない女だったのだろう。正妃になることは望まないまま、マリンを孕んだ」

 真凛の胸に複雑な思いが浮かぶ。実の母はやはり藍だった。喜ぶべきことなのに、まるで愛人のように扱われていた母を思うと胸が苦しくなる。

「だから私は非嫡出子だと……」
「そうだ。マリンは王女の名乗りはあげられない。ただ俺は、父王からマリンを守るようにと任されている」
「母は愛されていたの……?」
「ああ、愛されていただろう。それだけは誇っていい」

 アウイは真凛の髪をなでる。青い髪に青い瞳の青年が黒髪の娘を愛でる。まるで父と母がそうしていたかのように、アウイは真凛の唇に近づく。

「……チタ様は知ってるの?」

 唇が小刻みに震える。アウイはキスをあきらめ、小さな息をつく。

「マリン、あまり考え込む必要はない。父王は遊び人だった。目を付けた女は欲しくなる。母王もアイも、美しすぎた。父王の目に止まらぬはずはなかったのだ」
「だからって、姉妹を……」

 そして妹は王妃となり、姉は異世界へ飛ばされた。同じように愛されていたとは思えない。それでも母が幸せだったなんて信じられない。妹もまた、姉を愛する夫をどう思っていたのか。

「母王の気持ちなど知る必要もない。マリン、今夜は俺の胸で眠れ。本当の平穏は俺だけが作れるのだ」

 悲しみや苦しみで涙があふれ出す。母は父に会いたかっただろう。なぜかそう思う。離れていても愛し合えるなんて幻想だ。近くにいて、温かな腕に包まれたいと誰だって望むはずだ。

「セオ様に会いたい……」

 アウイとキスをした。もうセオには愛してもらえないかもしれない。それでも会いたいと思う。

 アウイの胸に顔をうずめ、彼の胸元をぎゅっと握る。セオの香りを探す鼻先は、それを見つけられずに涙があふれる。

「セオのことは忘れろ。それがセオのためになる」
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