36 / 58
セオの髪結になるということ
19
しおりを挟む
*
「行ったな」
流れる涙をこらえきれずにベッドに顔をうずめていると、小さく震える肩をアウイはそっと撫でる。その手をはらい落とし、真凛は両手で顔を覆う。
「ひどいわ……」
「これでセオも諦めがつくだろう」
衣服を整えながら言うアウイに、両腕でそっと抱きしめられる。
「諦めさせるために、キスするなんて……」
「それだけじゃない。本気になるぐらい良かった。またしてもいい」
「……私たちは兄妹なのに」
「父親が同じというだけだ。美しいものを愛でる障害にはならない」
真凛は顔から手を離し、眉をひそめる。
「父が同じなだけ?」
「話してなかったか? 真凛の母親は、母王のチタではない」
アウイの手のひらがゆるりと真凛の髪をなでる。
「じゃあ、私は誰の……?」
「母王の姉、アイだ」
「……どういう……」
「どうもこうもない。父王はセドニー随一と言われる美姫を二人とも愛しただけだ。アイは欲のない女だったのだろう。正妃になることは望まないまま、マリンを孕んだ」
真凛の胸に複雑な思いが浮かぶ。実の母はやはり藍だった。喜ぶべきことなのに、まるで愛人のように扱われていた母を思うと胸が苦しくなる。
「だから私は非嫡出子だと……」
「そうだ。マリンは王女の名乗りはあげられない。ただ俺は、父王からマリンを守るようにと任されている」
「母は愛されていたの……?」
「ああ、愛されていただろう。それだけは誇っていい」
アウイは真凛の髪をなでる。青い髪に青い瞳の青年が黒髪の娘を愛でる。まるで父と母がそうしていたかのように、アウイは真凛の唇に近づく。
「……チタ様は知ってるの?」
唇が小刻みに震える。アウイはキスをあきらめ、小さな息をつく。
「マリン、あまり考え込む必要はない。父王は遊び人だった。目を付けた女は欲しくなる。母王もアイも、美しすぎた。父王の目に止まらぬはずはなかったのだ」
「だからって、姉妹を……」
そして妹は王妃となり、姉は異世界へ飛ばされた。同じように愛されていたとは思えない。それでも母が幸せだったなんて信じられない。妹もまた、姉を愛する夫をどう思っていたのか。
「母王の気持ちなど知る必要もない。マリン、今夜は俺の胸で眠れ。本当の平穏は俺だけが作れるのだ」
悲しみや苦しみで涙があふれ出す。母は父に会いたかっただろう。なぜかそう思う。離れていても愛し合えるなんて幻想だ。近くにいて、温かな腕に包まれたいと誰だって望むはずだ。
「セオ様に会いたい……」
アウイとキスをした。もうセオには愛してもらえないかもしれない。それでも会いたいと思う。
アウイの胸に顔をうずめ、彼の胸元をぎゅっと握る。セオの香りを探す鼻先は、それを見つけられずに涙があふれる。
「セオのことは忘れろ。それがセオのためになる」
「行ったな」
流れる涙をこらえきれずにベッドに顔をうずめていると、小さく震える肩をアウイはそっと撫でる。その手をはらい落とし、真凛は両手で顔を覆う。
「ひどいわ……」
「これでセオも諦めがつくだろう」
衣服を整えながら言うアウイに、両腕でそっと抱きしめられる。
「諦めさせるために、キスするなんて……」
「それだけじゃない。本気になるぐらい良かった。またしてもいい」
「……私たちは兄妹なのに」
「父親が同じというだけだ。美しいものを愛でる障害にはならない」
真凛は顔から手を離し、眉をひそめる。
「父が同じなだけ?」
「話してなかったか? 真凛の母親は、母王のチタではない」
アウイの手のひらがゆるりと真凛の髪をなでる。
「じゃあ、私は誰の……?」
「母王の姉、アイだ」
「……どういう……」
「どうもこうもない。父王はセドニー随一と言われる美姫を二人とも愛しただけだ。アイは欲のない女だったのだろう。正妃になることは望まないまま、マリンを孕んだ」
真凛の胸に複雑な思いが浮かぶ。実の母はやはり藍だった。喜ぶべきことなのに、まるで愛人のように扱われていた母を思うと胸が苦しくなる。
「だから私は非嫡出子だと……」
「そうだ。マリンは王女の名乗りはあげられない。ただ俺は、父王からマリンを守るようにと任されている」
「母は愛されていたの……?」
「ああ、愛されていただろう。それだけは誇っていい」
アウイは真凛の髪をなでる。青い髪に青い瞳の青年が黒髪の娘を愛でる。まるで父と母がそうしていたかのように、アウイは真凛の唇に近づく。
「……チタ様は知ってるの?」
唇が小刻みに震える。アウイはキスをあきらめ、小さな息をつく。
「マリン、あまり考え込む必要はない。父王は遊び人だった。目を付けた女は欲しくなる。母王もアイも、美しすぎた。父王の目に止まらぬはずはなかったのだ」
「だからって、姉妹を……」
そして妹は王妃となり、姉は異世界へ飛ばされた。同じように愛されていたとは思えない。それでも母が幸せだったなんて信じられない。妹もまた、姉を愛する夫をどう思っていたのか。
「母王の気持ちなど知る必要もない。マリン、今夜は俺の胸で眠れ。本当の平穏は俺だけが作れるのだ」
悲しみや苦しみで涙があふれ出す。母は父に会いたかっただろう。なぜかそう思う。離れていても愛し合えるなんて幻想だ。近くにいて、温かな腕に包まれたいと誰だって望むはずだ。
「セオ様に会いたい……」
アウイとキスをした。もうセオには愛してもらえないかもしれない。それでも会いたいと思う。
アウイの胸に顔をうずめ、彼の胸元をぎゅっと握る。セオの香りを探す鼻先は、それを見つけられずに涙があふれる。
「セオのことは忘れろ。それがセオのためになる」
0
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる