溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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セオの髪結になるということ

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 このところ王宮は静かだった。真凛のいないさみしさを紛らわすことはできずにいたが、ルベとの生活は以前と変わりがない。

「ルベ、いつになったら俺はここから出られるのだろう」

 寝椅子に寄りかかりながら、腕に顔を伏す。

 王子でも何もできなかった。真凛を助ける力が欲しいと心底願う。そうするためにはどんな力がいるのだろう。

「待っていてはいつまでも出られませんでしょう」
「ルベ……」

 顔を上げると、いつになく厳しい表情のルベがティーカップを三つ用意しているのが見える。

「誰か来るのか?」
「陛下と真凛様がいらっしゃいます」
「え、真凛が……?」

 驚いて身を起こした時、一陣の風が吹く。思わず目をつむり、ふたたびまぶたを上げた時にはルベの姿はなく……。

「セオ様っ」
「真凛……」

 白の髪結ドレスに身を包んだ真凛がテラスへ駆け込んでくる。柱の奥にアウイを象徴する青いマントだけが見えた。

「セオ様……っ」

 真凛が涙をうっすらと浮かべて胸に飛び込んでくる。柔らかな感触に目がくらむ。たとえアウイに抱かれた身体だとしても、彼女が覚えた快楽はすぐに消してしまえる気がした。

「真凛、会いたかった」

 ぎゅっと抱きしめ、唇をすぐさま重ねた。真凛は驚いてびくっとしたが、拒むことなく受け入れた。アウイとのことは許そう。真凛の心はまだここにある。

 真凛を抱き上げると、テラスから部屋の中へ入った。柱の奥にいるだろうアウイは動かない。見て見ぬふりをするのは、よほどの自信があるからか。

「セオ様、どこに……」
「ベッドに決まっている」
「ベッドって……っ」
「抱きたくてたまらない。陛下の痕跡をはやく消したい」

 いくつかの扉を開けて、ベッドへたどり着く。明るい日差しの射し込むベッドへ真凛をそっと沈める。

 白のドレスは真凛の心がセオにある証拠だった。そのドレスを剥いでしまっても、彼女の心はベッドの上で増幅するだろう。

「待って……っ、セオ様」

 かぶさろうとすると、真凛の小さな手がセオの胸を押しとどめる。

「もう嫌になった?」
「そうじゃないわ。そうじゃないけど……」
「陛下は諦めて帰るよ。そうじゃなきゃ、真凛をここへ連れてくるはずはない」
「セオ様、待って。話を聞いて」

 話なんて聞きたくないとばかりにキスをする。

 わずかに抵抗を見せる真凛をすぐに高まらせてしまうのは簡単だ。誘うように薄く開く唇の間へ舌をねじ込む。舌先が触れ合うと、急速に情熱が高まって、どちらからともなく絡みつく。

 真凛の吐息が甘い。深いキスから解放し、柔らかな唇に何度も優しく触れていく。

「真凛……、俺はここから出るよ」
「セオ様……」
「共に生きよう。もう二度と、あなたを守れないなんて苦しみたくない」
「セオ……、ほんとに?」

 真凛が首に抱きついてくる。離れたくないと言ってくれているみたいだ。

「すぐに出よう。でもその前に……、抱かせて欲しい」

 行くあてがあるわけでもないのに安易に約束をして、真凛の胸元のボタンをはじき、手を差し込む。息をするたびに柔らかく上下する胸に触れる。

「セオ様、部屋を……」
「陛下には見せたんだろう? だったら俺だって愛せる。幻滅したりしない」

 肩からドレスをさげて、左胸をあらわにする。光に照らされた白い胸は艶やかで、その中央のつぼみは可愛らしいピンク色。つん、と触れるとキュッと固くなる。

 すぐに感じてしまうなんて、いじらしくもあり、悔しくもある。アウイはどれほど、この柔らかなつぼみをもてあそんだのか。

「待って……、ねぇ、セオ……」
「陛下は真凛に何をした?」
「……してないわ。セオ様が見たことだけ」

 真凛は悲しそうに目をそらすが、同時に胸を揉んでいくと甘い息も吐く。

「そんな嘘、聞きたくない」

 こんなに美しい娘をアウイが抱かないはずはない。もしそれが真実だとしたら、真凛の右胸はそれほどまでに醜いのだろうか。

「真凛、あなたの身体がどんな風でも俺は……抱けるよ」
「あっ! だ、だめよっ」

 真凛はハッとしてセオの腕をつかもうとしたが、それよりも先にセオは彼女のドレスを押し下げていた。

 白日の下にさらされた肌にセオの背筋は震えた。

「……これは……」

 真凛は絶望を浮かべた目をして、すぐさま両手で顔を覆ってしまった。無意識に身体を横に向ける彼女の肩を押し戻し、セオはまじまじとその胸元を見下ろす。

 形の良い綺麗な胸の上に、青いあざがある。若い娘ならば絶望するに足る、奇妙な形をしたあざだ。

 しかし、セオには見覚えがあった。

「ブルードラゴンの、刻印……」

 そう認識した瞬間に、こぶしを握りしめていた。

「セオ……」

 真凛が今にも泣き出しそうな目をしてセオを見上げる。

「……知ってたのか、真凛は。知ってて俺に抱かれたのか」

 そう吐き出すが、目の前には戸惑うだけの真凛がいる。

 なぜ気づかなかったのだろう。こんなにも美しい娘を兄上たちが抱かなかった理由に。

「どうして言わなかったんだっ。暗闇なら騙せると思ったのかっ。……あなたが姉だと知っていたら……、俺だって抱きはしなかったのに……」

 セオはやるせない思いを吐き出した。
 それを知っていたら、思いを留めることもできたはず。

「セオ様……。セオ様の髪結になるということが、こんなにもあなたを苦しめることになるなんて思ってもいなかったの……」

 真凛のなぐさめにもならない言葉は、姉を抱いてしまったセオの悲しみを深くする。

「真凛は弟の俺でもよかったのか」

 セオのほおに、真凛は手のひらをあてた。彼女の瞳には、ゆるぎない力が宿っているようにも見える。

「弟と知っていて抱かれたの。それだけはわかって……」
「姉と知っていて、抱いてもいいと言ってるのか」

 セオは真凛の胸のあざに触れた。弾力のある胸は、しっとりと指に吸い付く。あざさえなければ、セオを欲情させるにはじゅうぶんに、彼女の身体はただただ美しい。

「抱いていいのか」

 問うように、けれど、問うてはない言葉を吐き出した時には、セオの唇はつぼみを含んでいた。

「あなたはここを攻めると弱い」

 知り尽くした身体に指を這わし、秘められた場所へ指を入れる。

「あ……あ、んっ」

 ベッドからずり落ちそうになる真凛の腰に腕を回し、もう片方の腕で、彼女の太ももを押し上げる。

「セ、セオ……」
「いれたい」

 セオはせりあがった自身を、一気に彼女の中へ沈めた。

「あ……っ」

 力が抜けて下がる真凛の身体を、下から突き上げる。彼女の最奥へ、幾度も自身を打ち付ける。

 されるがままの真凛の目には涙がにじむ。
 悲しみのためじゃないことは、その甘い吐息が証言している。

「真凛……、真凛……」

 こうしている間は、ひとりの男として、ひとりの女として、セオと真凛は互いから離れたくないと交わっている。

 そして、いつもより激しく打ち付けるセオを受け入れるしかない真凛の口からはもう、嬌声しか出なかった。
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