かみてんせい

あゆみのり

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肉我

宣告。

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 ヤウが去ってから半年が経つ。
 結論から答えると、タチには「寿命」の「じ」の字すら言っていない。
 ――というか、言えてない。
 
 言った方がいいと分かってはいるけれど、簡単に言い出しにくいのは分かって欲しい。
 そして、そんな事より、今、目の前の日々を大切に過ごそうとした結果、半年も経ってしまった。
 
 この半年の間も色々とあった。
 わちゃついてたり、わちゃついてたり、相も変わらずわちゃついてたり、が殆どだけど。
 ユニちゃんがタチに抱かれたり、エミーさん(ワイバーン)がちょっかい出しに来たり。ナビが編み物に目覚めたり……
 と、結局わちゃついていた。
 
 火の化身アチャとも一度会った。
 でも、正直どうでもいい。
 

 あと三年。
 そう伝えたとしても、タチは傷つかないし、凹まないとわかっている。
 何も知らされずいるより、どんなに短くとも、二人覚悟して過ごすことを望むことを……
 
 なら、なぜ口にできずにいるのか。 
 それは「私」が弱いからだ。

 タチに打ち明けた時、絶対。ぜ~ったいに。私は泣く。
 そりゃ~もう。凹むし、傷つく。
 
 自信がある!

 そして、そんな私を絶対。ぜ~~ったいに、タチは慰めてくれる。
 そりゃ~もう、格好良く、素敵に。
 知っている。
 
 体も、心も、ふやかし、包み込み、わからせてくれるに決まっている。
 ずっと、一緒だよって。

 それが情けないのだ。
 そんな私が嫌なのだ。

「ナナぽん!ナナぽん!今日のお洋服はこれユニ!」
 タチ枕(右腕)で目を覚まし、体を起こさずウダウダと思考を巡らせていたら、タチ枕(左)の方から大人ユニちゃんが服をかかげた。
 白くて、フリフリで、かわいらしい服を。

 風の大陸の西の端、フィルル高原のちょっと南。ジャーネブの街の宿の一室に私達は居る。
 今となっては珍しい、白くない宿屋。
 
 つまり、祝福が作ったのではない、昔ながらの非効率な宿屋だ。
 この「ナシオン亭」で言えば、急すぎる階段とか、天井の隙間がそうだと思う。

 そもそも、宿屋自体の需要が大幅に減ってしまっている。 

 そんな時代の中。ここのご家族の祝福は「ナシオン亭」を立て直すより、作り直した方が早いと判断したのだろう。
 ここより一キロ東のあたりに「新ナシオン亭」は作られていた。

 最初はそっちをのぞいてみたの、そうしたら受付に居た祝福ちゃんが「あなた方にはこちらがいいかもしれまセン」と親切に教えてくれたのだ。
 実際、こっちの方が私には良かった。
 
 木と、少しかび臭い匂い。ゴワついたお布団。せっかく旅をしているのだから、同じような寝床じゃつまらない。
 それに、結局は全てを打ち消す、最強のタチ枕のおかげで安眠は約束されている。
 
 言っている事が矛盾している気もするが、気にしない。
 それに、この枕じゃないと、嫌な夢を見るに決まっている。
 私にとっては手放せない、必須寝具だ。
 
「うぅ~。勝手に着替えさせて……」
「「わかった!」」 
 裸のユニコーンと、裸の枕が、声を重ねて返事をした。
 裸の私に、色んな布やら、小物が引っ付けられる。
 
 ユニちゃんの角は、聖なるモノを分解して保存できる便利角。
 主に、ちびっ子服が詰められているようだ。

 何が凄いって、今の所出てくるお洋服に被りがないこと。
 毎日毎日楽しそうに、私を着せ替え、そのたびタチが燃え上がる。 

 「期限」について、余り考えすぎないように努めてきた。
 悲しくなるから。
 
 でも、日に日に「早く言わなくちゃ……!」と、焦る気持ちが湧いて出る。
 
 だって、ヤウから宣告される前から、考えちゃったりする時はあったから。

 タチが長生きできそうなタイプか?と言われると疑問だけれど、お題を「しぶとそうな人間」に変えれば、あら不思議。
 絶対にしぶといであろうタチさん。

 普通の人なら六十年ぐらいだろうけれど、ここはもってけ泥棒!しぶといタチさんなら百年まで生きるとして、半分は五十年。
 タチはきっと二十台だろうから、残りは三十年?
 
 そう考えるとちょっと、息継ぎができる。 
 三十年……それなら、もうちょっと考えないでおいてもいいんじゃないか?
 
 ……本当いうと、六十歳まで生きれたとして、残り二十年。
 そう考えても、今の所。まだ今のところは不安にならなくたっていいじゃない。

 ――そう納得させていたのに、二十年ぐらいが、あと三年……たった三年に縮まってしまった。
 正直パニックだ。 
 

 つらい。認めたくない。
 口にしたら、現実になりそうだし、考えると気持ち悪くて、吐きそうになる。
 
「ナナぽん?」 
 小さく編んだ私の髪に、無数のリボンをつけていたユニちゃんが、のぞき込んできた。
 
 こんな時間の過ごし方はとてつもなく、もったいない。
 だからさっさと言うべきなのだ。
 
 残り時間を丁寧に生きるタメにも。
 今更、タチに弱い自分を見せたところで、恥も外聞もあるまい。
 
 明日こそ話そう。 
 そう心にきめた夜を、半年も繰り返してしまった。
 
 だって「死の宣告」をタチにするということじゃない。
 

 でも、もう私は限界だった。

「タチ……話があるの」
「まかせろ」
 彼女はいつも通りに、笑い。
 私はいつも通りに、泣いた。
 
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