秘密の扉 短編【R】

葉月彩香

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①不自然で不器用な愛の形

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「彰人、どうしたの?」
 突然、隣にいた彼女が、俺の顔を覗き込んできた。

「あ…」

 ぼんやり意識を違う方へと向けていた俺は、彼女の声にはっと我に返った。

「くすくす…何かあったの?彰人って、何か考えてるんだろうなってすぐにわかるわ」

「ごめん…たださ…今日、好きだって言われちゃって」

「あら、おもてになること」

 彼女は羨ましいわと笑う。

「それがさ、それ言ったの男なんだ」

「ふふ、昔っから彰人ってば男女問わずもてるのよね」

 俺がため息をつくと、彼女は鈴がなるような声でころころと笑う。

 同情するどころか、楽しそうな彼女に、俺はため息を深くする。

 

 今の状況を説明しようか…。

 今、俺は横になっている。

 そして隣には、頭からつま先まで色気を醸し出す女性。

 二人は素っ裸で、シーツに包まっている。

 つまり、だ。

 コトが終わった後の状態。

 彼女とは、付き合ってる…どころか連れ添っている。

 もっと、ちゃんと言おう、俺と彼女は、結婚している。

 彼女は俺の妻で、俺はれっきとした妻帯者。

 

 それでこの会話。

 傍から見ればおかしいかもしれないな。

 

「彰人って、昔から男の人にもてたもんね。私と結婚したのだって、はっきりノーマルだって分かればそんな輩が減るって考えたからでしょ?」

「失礼な…」

 俺は、彼女を軽く睨んだ。

 たしかに、社会人になって1年半ですぐ結婚した。でも彼女とは、大学からの付き合いがあり、ずっと一緒に暮らしていた。

 まあ、ちょっと早かったのは、その所為でもあるけれど…でも結婚したのは…

「ちゃんと君を愛してるから、結婚したんだよ」

 そんな理由で結婚しただなんて、俺が悪い奴じゃないか。

「あら、違うの?ごめんなさい」

 彼女は、再び笑う。

 俺は、そんな彼女の頬を軽く突く。

 くすくす笑いながら、彼女はその指をすり抜けていく。

 

 もちろん、彼女が俺の愛を疑ってることはない。

 こんなふうな、軽いじゃれあいはいつものことだ。

 

「で?彰人を悩ませる幸運な男の人はどんな人?」

「幸運って…」

 彼女の言葉に、俺は眉を顰める。

「だって、嫌いな人なら彰人ってば、張り倒すなり、縁を切るなりするでしょう?結構、好みはっきりしてるもん」

 好みって…。

「妻が、楽しむなよ」

「女に彰人を取られるのは悔しいけれど、男だったらしょうがないかなって思っちゃうのよね。ふふふ、彰人ってもともとバイだしね」

 あっけらかんと話す彼女。

 

 彼女のことは好きだが、時々ついていけないことがある。

 妻というより、心身ともにパートナー。

 こういう関係が、そのまま5年も続いている。

 

 彼女が、ん?っと先を促した。

「それがさ…年下なんだよね」

「あら、珍しい。後輩?私知ってるかしら?」

「違う…会社の先輩に連れられて行った先の店にいた少年」

「少年?」

「高校生なんだよね。高校2年生」

「へえ、彰人の魅力はそんなとこまで及ぶのね」

 感心したように彼女が言う。

「でもさぁ、その頃って「憧れ」を「恋愛感情」と間違えることがあるじゃん?本気って言われても、どう扱っていいか困るんだよね」

「そうね、学生の頃、同級生を押し倒そうかって思ったことがあったわ。でも、今思えば、それも…私と違うタイプだったから欲しくなったという衝動だったのよね」

「おいおい…」

 あっさりと話してしまう彼女の危険な告白に、俺も苦笑する。

「彰人がその子を嫌いで、言い寄られて付きまとわれて困っているのなら、私が手を貸そうか?」

「ん~嫌じゃないんだ…でも結婚してるって知ってるんだよね。しかも、なんか今まで女としか付き合っていなかったみたいだし…なんで急に俺なんだろ」

「嫌いじゃないなら、もっとその子のこと知ってみれば?結婚してるって分かっている人、しかも同性にそれでも諦められないなんて、それって究極の愛じゃない?高校生なら、それをちゃんとわかったうえで、告白してるわよ」

 …究極の愛ねぇ。

「でもなぁ…」

「高校生っていう年齢が気になるかもしれないけど、別にいいんじゃない?もともと彰人ってばバイなんだし、前から言ってるじゃない。女は私一人なら、男を作ってもいいわよって」

 

 世間から見たらこんな夫婦おかしいだろう。

 彼女は本気で言ってる。

 

「う~ん…考えてみるよ」

 俺がそういうと、彼女は笑って頑張ってねと俺に擦り寄ってきた。

 俺はその髪を撫でながら、今日会った少年の真剣な目を思い出していた。 

 

 

2004/04/11
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