アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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作り話(2/2)

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「5代前のシルベスター帝から皇帝は皆、顔が同じなんだ。まるでコピーしたように幼少期から壮年期まで同じ顔になる。驚くことに身長も同じなんだ。」
シルベスター帝ってアリアテーゼ・ワイマールが仕えたアエネアス女帝の皇子ね。じゃあ、レオンハルト殿下も年を取ったらベルンハルト陛下にそっくりなるってことなのか。
「実はシルベスター帝の皇妃が皇帝への執着が凄いマッド・サイエンティストで」
「出た!マッド・サイエンティスト!」
「遺伝子操作の研究をしていたらしい。皇帝と皇后には子供がいなかったんだけど、自分の卵子と皇帝の精子を受精させて皇帝そっくりな子供が生まれるように遺伝子操作して、皇后に受精卵を戻した。」
「100年以上前に体外受精!確かにマッド・サイエンティストかも」
「それ以降、同じ顔の皇子ばかりが生まれるようになった。皇妃は悪行がバレて終身刑になりそれ以降皇妃はこの国にいなくなった。」
「ダークですね。」
「ああ、楽しい話じゃなくなっちゃったな。シガールームに移動しようか。」
そう言いながら悲しそうな顔をしたのが気になった。もうすぐ21時になる。コーヒーを飲んだら解散かな。
4人は座れるであろう大きなソファに隣り合って座り、レオンハルト殿下はライムを入れた炭酸水を頼んで一口飲んだ。少しだけ眠そうだ。
(しまった。座る位置を間違えてしまった。)
支えてきたからといって何も隣に座ることはなかったのだ。席を移動しようとするとレオンハルト殿下の憂いだ美しい顔が見えた。
「大丈夫ですか?」
「?」
「何か思いつめているようなので・・・」
レオンハルト殿下は小さく微笑んで、
「表情に出すなんて気を抜いちゃったな。弱っているところなんて見せたくなかったのに。堂々としていない皇太子なんて幻滅だよね。」
「・・・人生の先輩である女性たちが言うには、男の人は繊細で弱ると甘えん坊になるらしいですよ。」
「大人の男が甘えるの?気持ち悪くない?」
「ふふ。弱音を吐いて慰めてもらうくらいは普通みたいですよ。でも人によっては抱きしめてもらったり膝枕をしてもらって赤ちゃんとか猫とかの真似をするとかしないとか。女の人はそれを可愛く思う人もいるみたいです。」
「それこそ作り話じゃなくて?」
「どうですかね。」
ニヤッと笑ったレオンハルト殿下はゴロンと私の方に倒れてきて膝枕の体制になった。
「疲れたニャン。」
「ふはっ。面白いけど可愛くないですよ。」
笑っている私の頬にそっと手を当てて、優しい顔でレオンハルト殿下は見つめてきて、ドキッと心臓が跳ねる。
「その顔は反則です。」
私が見えないように手で殿下の視界を遮って、息を吐いて不整脈を正常に戻そうとする。ゆっくりと手をどかされて殿下は横を向き、今度は彼の表情がよく見えなくなった。

「アクロバット飛行したパイロットさ、衛星アルネ計画の宇宙飛行士選抜に通ったらしいんだよね。」
宇宙飛行士になるにはいくつかルートがあるが、研究者の次に多いのは空軍出身のパイロットだ。初の有人宇宙飛行をしたエトリスチューナ帝国の飛行士も空軍出身者だ。
その候補生は頭脳の明晰さもあるが、組織での立ち振舞もパイロットとしてのセンスも身体的な優位性も運も全てを持っている人なのだろう。
殿下が落ち込んでいる理由が少しわかった。
「眩しいですよね、夢を持ってそれに一直線に邁進している人って。」
自由に夢を叶えられる人というのはほんの一握りだ。身分、環境、能力、運・・・色々な要素を持っていて、その上で努力し続けた人だけが手に入れられる栄光。
第二身分の貴族も皇族もそもそも叶えられる夢の選択肢は少ない。別にそれを普段から悲観しているわけでは無いのだと思う。
(今やっていることに迷いがあるのかな。)
迷いがあるときに、心が弱ったタイミングで自分で見つけた夢に真っ直ぐに向かっている人をみると自分のやっていることに疑問を感じてしまう。
でもそれは所詮は隣の芝が青いだけなのだ。それを理解している分、相手を羨んだ気持ちをどこにもぶつけられないし、羨んだ事自体が後ろめたいと感じるのだ。
「そうだな。」
「人は・・・池に浮く白鳥のように優雅に余裕に振る舞っていても水の下では必死にもがいているものでしょう。」
「そうだな、栄光の姿だけを見て本人の地味で地道な努力を見ないのは良くないね。」
「殿下も幼い頃から色々なことを研鑽されていますよね。同世代の人たちが遊んでいる間も帝国民のために学び、政務をこなしていて。私達からしたら殿下も眩しい人です。」
「・・・そうかな?」
「父の受け売りなのですが」
「?」
「社会に出ると学校の試験と違って問題に当たったときの成否はわからないから、ときどき自分のしていることが正しいか不安になるそうです。」
「うん」
ここまで言ってなんて声をかけるか逡巡する。
「大丈夫です。」
「ん?」
「殿下は間違っていないから大丈夫です。」
根拠なんて無いのに言い切ってしまった。今はボヤッとした正論よりも言い切った言葉のほうが彼には必要な気がしたから。
私はまだまだ力不足だけど、いつか殿下が迷ったときに相談されて手助けできる人間になりたい。
殿下は驚いたようで眉を少し上げたが、悪戯っぽく笑って、
「ありがとう。元気が出てきたニャン。」
と言った。
「だから可愛くないニャン。」
そう言うと、二人で笑った。
「男は繊細で弱っているときは甘えたいから、このままちょっと寝る。」
「えぇぇぇ!」
殿下は目をつぶった。本当に寝てしまうんだろうか・・・
私がきれいな髪の毛とあどけない寝顔に気を持っていかれている間に彼は本当に寝てしまった。太ももの上で急に頭が重たくなった。
(幸せそうに寝てるわね・・・こんな顔を見たら起こせないわ。)
ふと学生時代を思い出す。公務で疲れているときは授業中にこんな風に寝ていた殿下にノートを何度かコピーしてあげた。
このままじゃ風邪を引いてしまうのでベルを鳴らして給仕を呼び、毛布を持ってきてもらうことにした。給仕は殿下の姿に驚いていたがすぐに毛布を持ってきてくれて電気も少し暗くしてくれた。

この人のことをまだ信じたわけではないけれど、入宮早々に私はかなり絆されている。
自分の不完全さを利用して懐に入ってきて、有能さを見せつけて畏敬の念を抱かせる。そしてそれを見せるのは限られた特別な人達のみにしているところもあざとい。
心理的操作をされていることが分かっているのに、私はどんなに熟慮して計略を練ってもこの人を欺くことができないと感じている。
(とどのつまり、殿下の配下につくしかないのよね。それにしても、さっきの殿下の作り話・・・)
何が本当の話なんだろう。”作り話”なんだから体外受精じゃなくて呪いとかにすれば話がすっきりシンプルになったのに。

リリーシアがレオンハルトが何を言いたかったのか知るのはもう少し先の未来だ。
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