アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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公子は動き出す

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それで・・私はこれから何をしなくてはいけないのか。
あざとく行動するのであればシオンに結婚を打診してみるべきなのだろう。でも私にとってシオンは本当に大切な人で、彼を利用するような不誠実なことはしたくない。シオンは私に対して誠実に好意を持ってくれている。私もシオンのことは大好きだが、彼の好きと私の好きは違う。覚悟を決めたつもりでも、私はまだレオンハルト殿下を慕っている。

ふと視線を感じて意識をシオンに戻した。彼は手をグーにじて口に当て笑いを堪えていた。
「?」
私は首を傾げた。
「百面相しているな、と思って。シアは大人になっても変わんないな。」
「うっ・・・」
恥ずかしい。私は思わず目を逸らして赤くなった。シオンの手が私の頬に優しく触れた。彼をもう一度みると少し緊張した様子で私を見つめていた。
「シア。君の憂いは全て断つことを約束する。私と結婚してくれないか。」
「えっ」
「狂おしいほど愛している。シアが俺と同じような恋情を持っていないことは分かっている。それでもいいんだ。」
シオンの懇願するような真剣な顔にドキドキする。
「そんな・・・」
「愛は感情が激しく動く恋情からだけ生まれるものではないよ。同情や友情から始まって穏やかに慈しむように育てていくのも愛だ。」

そうかもしれない。急に膨れ上がった愛よりもゆっくりと積み上げた愛の方がきっと崩れにくいのだろう。

「でも、あなたほどの人が・・・」
「妥協をするな、と?シアじゃない人と結婚することこそ俺にとっては妥協になる。」
こんなありがたい申し出はない。でもこの誠実な友人を利用するのは気が進まない。
「俺はシアになら利用されても構わないよ。」
まるで思考を読まれているようだわ。シオンの言葉に私は揺れている。
ふと姉が婚前に言っていた言葉を思い出す。
“私はね、恋愛は自分が深く愛した人とするのが幸せだけど、結婚は自分を深く愛してくれる人とするほうが幸せになれると思うの”
今、この状況で姉の言葉を思い出すとはね。ご都合主義だわ。
「生涯、リリーシアだけを愛すことを誓うよ。」
シオンは私の手をとって口づけをした。

色々な言い訳を思い浮かべてから彼の愛の言葉を受けて、ついに私は
「はい」
と彼の目を見て伝えた。
人生の岐路だ。生涯を共にする人を決めたこの瞬間で私の初恋は終わった。
でも、大切な人の心を満たせた上に家族も守れるのだ。そう思うと私は幸福でとても満たされた気持ちになった。

シオンは緊張した雰囲気から、いつもの優しい笑みにかわった。そして蕩けるような目で私を見つめ頬に再び手をあて顔をそっと近づけてくる。口づけをする少し手前でシオンは確認するように止まった。
心臓がうるさい。
私がそっと目を閉じると彼は口づけをした。
軽い口づけをして少しだけ唇を離すとシオンは軽く口を開いて顔を再び近づけてくる。柔らかい彼の唇で優しく唇を喰まれてゾクゾクとした何かが私の中で疼く。私も思わず口を開けると彼の舌が入ってくる。私たちは舌と舌を絡ませて深い口づけをした。想像していたよりも自然に受け入れられた。
友人なのだから深い口づけをしたりその先に進んだりすることができないのではないかと思っていたが、きっと私は彼と夫婦になれる。
いつもはクールなシオンがだんだん激しく求めてくる。私はもう考えることを放棄して彼の欲情を受け入れた。何かを考えてしまったらレオンハルト殿下の事を思い出してしまいそうで、それが酷くシオンに対して不誠実だと思ったからだ。
首に何度も口づけをしてシオンは甘い声で私を呼んだ。
「シア・・・君のことが欲しい。」
その顔は今まで見たどんな人の顔よりも艶っぽくて見惚れてしまうほど妖艶だった。
「んっ、うん・・・」
シオンは私を抱き上げて書斎の隣の寝室に連れて行ってベッドに優しく寝かされた。

コンコンとドアがノックされたがシオンは愛撫を止める様子はなかった。
ノックの音が大きくなっていき、彼の侍従は大きな声でシオンに声をかけてきていた。
「んっ・・・シオン・・・出なきゃ・・・だめ」
「止めないよ・・・ずっとこうしたかったんだから。」
シオンは寝室のベッドで私に覆いかぶさりキスをして口をふさぎ、片手で胸を弄りながら、もう片方の手でワンピースのホックを外して服を脱がせようとしていた。

扉の鍵を開けられて数名の人が入ってきた。
「シオン様、今すぐマクレガー令嬢から離れてください。お願いです、こんな強引な方法はとらないでください。私のことはどう処分してもらっても構いませんのですぐに止めてください。」
「くそっ」
突入してきた中の一人の女性が私に大きなストールを掛けてくれた。
「私達は何も見ませんでした。お二人はシオン様の部屋でお茶を飲みながらお話をしていただけです。私は今、歓談中のお二人のもとに夕飯まで2時間ほど時間があるので薔薇園の散策を準備するか聞きに来ただけです。よろしいですね?」
侍従の言葉は鬼気迫る迫力があり、私は頷いた。シオンも不満そうだけど仕方なさそうに了承した。
このまま部屋に二人きりでいられる雰囲気ではなかったので薔薇園を見に行くことになった。公爵邸は皇城を中心とした城下町から5km程離れていてとても広い。ひょっとしたら皇城より広いかもしれない。
電動カートを用意してもらって庭園に行くと美しく整えられた薔薇園と温室があった。外の薔薇は小さな蕾だったが温室の薔薇は色とりどり様々な大きさの薔薇が咲き誇っていた。
私達は珍しくここまで無言だった。私達は何もなかったことにされたが、いくら何でもさっきのような行為をなかったことにできるほど私は器用ではない。
シオンの激しい息遣いとキスも胸を触られた感触も初めて経験することで考えるだけでテンパってしまう。
沈黙を破ってくれたのはシオンだった。
「この薔薇園には300種ほどの薔薇があるんだ。ワイマールの紋章は剣と薔薇だから、薔薇園はどこの家にも植物園にも負けないように整えているんだよ。」
「確かにこんな立派な薔薇園、見たことないね。外の薔薇もあと1ヶ月くらいで見頃かしら。」
「いずれここはシアの薔薇園になるんだよ。今度、お茶会があるから是非来てよ。」
「嬉しい。楽しみにしているね。」
シオンは微笑んでからおでこにキスする。
「フフっ。くすぐったいわ。」
(お茶会といえば、ハミルお兄様のパーティに行く服を来週買いに行かないと。)
タイミング良く、アマニール家に招待されたものだ。まず、ハミルお兄様に接触して招待客を注視して・・・
「何を考えているの?」
「えっと・・・来週末のアマニール家のパーティのことを考えてたの。ハミルお兄様が一時帰国されるらしいの。」
「目の前にいる未来の伴侶のことも少しも考えてほしいな。」
「うっ。」
クスッと笑ってシオンは私の髪を触る。
「エスコートのお願いの仕方を迷っているのかな?」
「んー、同行してもらったらアマニール侯爵を刺激するかもしれないし、シオンに迷惑がかかるかもしれないし・・・」
「1人で行かせるほうが心配だよ。色んな意味で。」
「妃教育の説明会の時にいた人達全員が誘われていたから1人じゃないわよ。レオンハルト殿下もアダルベルト様もフィリーナ様もいるわ。」
「罠の可能性もあるんじゃない?」
「どうかな。自分達が招待したパーティで堂々と皇族や貴族に危害は加えられないんじゃない?今回はただのマリカ様のわがままな気がするな。」
「あの女は、アマニールの陰謀には加担していないってこと?」
「うん。そんなにうまく立ち回れるなら私に対する嫌がらせはもっと巧妙にできるでしょう。」
「確かにな。それに陰謀に加担させるなら子供の頃からシアかレイア殿を手懐けて妃候補として送り込んだ方がうまく立ち回れたはずだ。そうしなかったってことは何も考えてない娘のほうが皇太子殿下に差し出すのに都合が良かったんだろう?」
「・・・」

シオンは目を細めて私の頬を右手の指でなぞり、耳たぶを撫でた。
「ともかく。」
左手で髪を撫でてから背中に手を回す。
「エスコートさせてくれ。シアにはワイマール公爵家がついていると示さないと。誰かが均衡を破って動き出さなければ問題はいつまでも解決しない。」
耳たぶを撫でていた右手は私の左手に指を絡ませる。
「何より俺たちの関係を他の男達に見せつけたい。」
シオンは私に優しく口づけする。今度はすぐに唇を喰んで舌を入れてきた。柔らかい舌が絡み合う。少し目を開けるといつもの冷静なシオンとは違う雄の顔の彼がいた。
しばらく貪るように口づけをされてからシオンは私を抱きしめる。
「2時間前とは別の人みたい。」
シオンは口の端を上げて、私の頬をまた撫でた。
「男は動き出したらどんどん攻めるんだ。」
「お母様と同じことを言うのね。」
「覚悟しておいて。」
「何それ。」
シオンは目を細めて、手を繋いできた。
「もう一度さっきみたいにイチャイチャしたいところだけど、そろそろ屋敷に戻ろうか。そろそろ食事の準備ができているはずだ。母上が差し支えなければ同席したいって。」
「わかったわ。公爵夫人にお会いするのは久しぶりだから楽しみだわ。」
私たちは屋敷に戻り、公爵夫人と障害のあるシオンの弟と夕飯を摂った。
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