アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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学生時代の2人

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翌日、大学院に行って午後から出勤するとマーガレット・レッドホック副室長に
「マクレガーさん、出勤早々申し訳ないんだけど、殿下にお茶を出しつつサイン済みの書類をもらってきてもらっていい?」
と言われた。
昨日、あんな感じで別れて心の準備もできていないのにどうしよう。
とりあえず返事をして給湯室に向かう。宮内の護衛2人に立ち会ってもらって厨房でお茶請けを受け取り、レオンハルト殿下にお出しする食器類とお茶を鍵付きの保管庫から出す。毒物対策のためだ。
(なるべく自然な、朗らかな笑顔で)
何度か心の中で呟いた。手が塞がっているのでドアの前の護衛にドアをノックしてもらう。
「はい。」
護衛のカイルさんが返事をした。
「マクレガーです。書類の受け取りと殿下にお茶をお持ちしました。」
ドアが静かに開いた。
「殿下は昨夜から徹夜されていて今は仮眠をとられています。」
「わかりました。決済済みの箱にある書類だけ持っていきますね。」
レオンハルト殿下はデスクで組んだ腕に横向きで顔を乗せて眠っていた。せめてソファーでねれば良いのに。
ティーセットをソファーテーブルの上に置いて、メイドを呼ぶブザーを押した。すぐにメイドが部屋を訪ねてきたのでブランケットを持ってくるように頼む。
メイドが持ってきてくれたブランケットをレオンハルト殿下にかけたときに5年前の記憶が蘇って思わず微笑んでしまった。
私の表情にカイルさんが怪訝な顔をする。
「お茶とお茶請けの毒味をお願いできますか?」
私はカイルさんの近くまで歩いて行き小さな声でお願いした。勤務中の護衛に“お茶を1杯淹れましょうか?”とは聞けないから。
「承知しました。」
「殿下は優秀な方ですから、私が入学したときには既に卒業論文以外の卒業に必要な単位は取っていたようなのです。なので、経営学部以外の科目も履修していて私のいた法学部の科目もとっていたのですが・・・」
殿下をちらっと見るとよく寝ているようだった。
「1年生と2年生の時に月曜日の1限目で一緒だったんですけど、週末の公務が忙しかった日の翌日はよくああやって寝てたな、と思い出しました。」
「さっきみたいに、何かを掛けてさしあげていたんですか?」
「ストールをかけていました。今考えてみると殿下にずいぶん馴れ馴れしかったかも・・・」
「大学の中ではある程度は無礼講でしょう。」
「はは・・・だといいんですけど。」
「殿下にブランケットを掛けてるマクレガーさんを見て、大学時代のお二人の姿を想像してしまいました。」
つい最近のことのようであり、もうずっと昔のことのような気もする。
「授業中、殿下は目立ってたんですか?」
「そうですね。あんなに堂々としょっちゅう寝る人はなかなか・・・」
「色々な分野の講義に出て偉いんだか、ちゃんと受けてなくてダメなんだかわかりませんね。」
「確かに。でも法律以外にも経済学、情報工学、物理学、農学など文理問わず色々受けていたみたいです。公務もあるのに凄いですよね。」
「他はわかりますが農学??」
「言われてみればそうですね。何ででしょう。授業態度はいまいちでも、成績は全て優で卒業したんですよね。」
「寝てたってことはマクレガー令嬢のノートをコピーしてたんですよね。」
「そうですね。コピーを取るときに説明することで私も復習できて良かったですけどね。」
「それ、わざとやってたんじゃないですか?」
「悪い奴ですね。」
2人でクスクス笑っていると、レオンハルト殿下がウーンと言いながら身じろぐ。2人でレオンハルト殿下に目をやるとまだ寝ているようだった。
「殿下と大学の頃に仲良くなってたらもっと楽しい学生生活が送れたかもしれませんね。」
大学時代にもっと一緒に過ごしていたら、好きだと気がつくのももっと早かったかもしれない。
「護衛泣かせなことをしそうですよね。お二人は護衛を撒いて遊びに行ってしまいそうです。」
「あはは。楽しそうですね。」
そう言ってから私は端正な彼の顔をそっと覗き込む。長いまつ毛が微かに揺れてゆっくりと目をあけた。
「・・・リリーシア?」
レオンハルト殿下は眩しそうに目を瞬かせて笑った。
「申し訳ありません。起こしてしまいましたね。」
「いや、もう起きなきゃ。お茶をもらえるかな。」
お茶を給仕すると彼は咳払いをした。
「明日の夜、オーギュスト・ガルシアで食事会があるんだけど同席してくれない?ウィローブロッグ令嬢がリリーシアと仲良くなりたいそうだ。」
おぉ、三つ星レストランか!昨日、殿下の一味いちみに入る覚悟があると伝えたからこれからのことを連携してもらえるのね。
「公務じゃなくて私用の食事会ね。」
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