アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

文字の大きさ
48 / 72

アマニール侯爵邸への潜入(5/5)

しおりを挟む
Leonhard ,Bourmon .Sarnia /*
アマニール侯爵家のパーティ当日、リリーシアを迎えに来たシオン・ワイマールを見かけてからずっと憂鬱だった。あの男はわざと俺から見える場所で見せつけてきた。
ワイマール公子はうっとりとリリーシアを見つめて彼女に話しかけていた。そして、彼の家紋のモチーフになっているバラの髪飾りを彼女の髪につけて、耳には恋人同士で交換するというピアスをリリーシアとお揃いで点けていた。
今日の彼女の姿を見ればワイマール公子の恋人だと誰でも思うだろう。
パーティが開宴し、2人がダンスをすると周囲からは感嘆の声が上がる。
金髪のリリーシアと銀髪のワイマール公子はまるでアルネとアルタイルのようだ云々。言っとくけど衛星アルネは銀色じゃないし恒星アルタイルだって正確には金色じゃない。
リリーシアとダンスして機嫌良く戻ってきたハミルは、給仕に甘ったるい匂いのカクテルを持ってこさせた。俺の大嫌いな甘いカクテル、ジェントルマン・ショコラだ。俺はリリーシアのアルコールの好みは殆どわからないが、食の好みが俺と似ているので彼女もこのカクテルは好きじゃないと思う。
リリーシアと仲のいいハミルが彼女の好みを知らないわけがないから・・・マリカ嬢に飲ませるつもりなのか。
リリーシアは甘くて無理だと言ってドライマティーニを頼み、それをハミルがからかった。
リリーシアに敵対心を持つマリカ嬢は、リリーシアが飲めない可愛いらしいカクテルが気に入ったようだ。よし、俺も乗っかろう。彼女が酔って休憩室に行けばこちらは注意をひきつける人物を減らせる。
甘い→甘酸っぱい→・・・のループを勧め、マリカ嬢を持ち上げながら飲ませているとハミルに片思いしている俺の婚約者候補のフィリア・サイワノーレ公爵令嬢がやってきた。
リリーシアにハミルの好みを聞いて、装いも香水もいつもと全く変えてきた。
「フィリア嬢、お久しぶりです。しばらく見ないうちにますます魅力的になりましたね。」
ハミルが誉めるとフィリア嬢は嬉しそうにはにかむ。The 恋する乙女、といった感じの今まで見たこと無いような花笑みをしていた。
フィリア嬢が誉められて、マリカ嬢は一気に不機嫌になる。
「体のラインが見えすぎなのではなくて?華やかさに欠けますし。」
そんなことは無いけどな。体のラインは見えるが露出は他の人より少ないほうだ。金を土台にしたルビーでできたダリアのようなデザインのブローチを中心にして、シルク独特のドレープが綺麗なドレスを着ている。
「上品で素敵だと思うよ。髪型も素敵だね。」
「ありがとうございます。リリーシア様におすすめを色々教えていただいて侍女に実践してもらっているのです。」
リリーシアは本人が望まなくてもヴィーナス・コネクションの専任プロデューサーがついている。彼女へのプレゼントはハードルが高いよな。後でハミルにリリーシアの好みを聞かなくては。
「そっか。妹と仲良くしてくれてありがとうございます。」
「いえ、私もリリーシア様と知り合えて嬉しいです。」
リリーシアの話になりマリカ嬢はますます機嫌が悪くなったようだ。彼女と結婚する男は気苦労が絶えないのだろうな・・・。
「マリカ様が飲んでいるカクテルは何ですの?」
「ジェントルマンズ・ショコラというお酒ですよ。チョコレートリキュールとコーヒーリキュールと生クリームのお酒です。」
ハミル、ウィスキーが入っていることを言わないのは敢えてなのか?
「甘そうですね。そういえば、先日、パリシナ国のビーチリゾートで有名なタンクンに家族で行ってきたのですがそこで飲んだカクテルも美味しかったのですよ。紹介してもよろしいですか?」
私とハミルが興味を示すとフィリア嬢は給仕に作り方を伝えて、カクテルを持ってきてもらう。
「殿下、ご存じですか?」
「カイピリーニャだよね?美味しいよね。」
「そうです。甘酸っぱくてどんどんいけちゃうんですよね。」
知ってるよ、このカクテルは危険だ。ライムと砂糖を一緒に潰して、カシャッサというアルコール度数40%の蒸留酒を注いだものだ。
フィリア嬢は酒豪なのか良い飲みっぷりだ。
「みなさん、どうぞ。」
俺は今日、酔うわけにはいかない。一口飲んでから水を飲む。マリカ嬢は感覚がマヒしてきているようで、ぐびぐびっと飲んだ。
「飲みやすいですわね。おかわりいただけるかしら。」
飲みやすさはライムと砂糖に騙されている。
彼女はその後、4杯お代わりをしてどんどん呂律が回らなくなり、目つきも虚ろになってきた。急性アルコール中毒になるといけないので、途中で私たちが止めようとしたが聞く耳を持たなかった。
そして、サイワノーレ領を田舎とバカにされたフィリア嬢の会心の反撃「マリカ様の茶髪の縦ロールが田舎なサイワノーレ領でよく見るススメガのさなぎを思い出す」発言を聞いた後、マリカ嬢はキレた。
「あらた!わたくのことぉ、ぶぁかにしてるれしょーー」
マリカ嬢は酒乱のようだ。フィリア嬢の反撃に対して平手打ちをしようとして突進していった。そして、一歩だけ横に避けたフィリア嬢を殴れずに振り上げた手は空振りしてその勢いで反転して仰向けに倒れた。
「大丈夫ですか?マリカ様。」
手を差し伸べたフィリア嬢にマリカ嬢はまた怒り出した。
もう見ていられないよ・・・。
アマニール侯爵夫人が慌ててこちらに寄ってくる。アマニール侯爵もすぐに駆けつけて俺とフィリア嬢に謝ってきていた。
アマニール侯爵夫人はマリカ嬢を連れて下がっていった。マリカ嬢は怒りながら号泣していた。鼻水も出ていて引いてしまった。
彼女を貶めたかったわけじゃない。とても申し訳ない気持ちになった。

マリカ嬢の騒動が落ち着くとアマニール侯爵は東館に向かっていった。
ピロットノブ子爵、クリードモール男爵、ハイレン男爵、バーグハー伯爵、クラウソン子爵、マーロン男爵、リーズ男爵も東館に向かったようだ。
彼らには今日、皇家の裁量で動かせる公安の職員が付いている。いわゆる影と言われる者たちだ。
今頃、4人は守衛室の処理をしているはずだ。正直、マリカ嬢の酒乱騒動で我々は動きやすくなった。
少しの間だけ時間ができたので、ハミルと話をすることにした。
「リリーシアにプレゼントするならどんなものが良いのだろう?」
「好みが知りたいのですか?好きな色は淡い水色と淡い紫、でも・・・」
炭酸飲料の瓶を振って蓋を開けたがごとく、吹き出すように情報を教えてくれた。
花はラナンキュラスが好きらしい。
戻ってきたアマニール侯爵が屋敷を案内したいと申し出てくる。正直興味ないのだけど・・・。
フォローのためかハミルがついてくる。あの4人は問題なく戻ってこられただろうか。
南館の廊下に等間隔で飾られている過去のアマニール侯爵たちの胸像の説明を受けている時だった。心穏やかにしていられないものが目に飛び込んできた。シオン・ワイマールがリリーシアにキスをしていた。一瞬、ワイマール公子と目が合ってからのことだったのでわざと見せつけたのだと思う。
背中がぞわぞわして、頭は妙にクリアなのに心臓がドクドクと脈打つ。まるで血流が逆流しているようだ。俺は今までに感じたことない他者への憎しみを感じた。
「あらら・・・」
ハミルが侯爵に分からないように俺の背中に手を充てた。少し冷静になる。
アマニール侯爵は「今の若者達はアレですなぁ」と癪に障ることを言って目をそらし、この場を去ろうと歩き出した。
リリーシアは私たちがいることに気が付いた。彼女の顔を見てさっきまでの憎悪の気持ちが瞬時に消えた。
リリーシアは、今にも不安そうで俺に救いを求めるような顔をしていた。俺はその顔を見てすぐに駆けて行って抱きしめたくなった。
ハミルは目を瞑り、小さく首を振った。俺は冷静になり侯爵の後に続いてハミルと去っていった。
「侯爵様、あとは私がご案内します。そろそろ帰宅する方もいるでしょうから侯爵夫人を呼びに行ってはいかがでしょうか。」
16時くらいになると子連れの客は帰宅しはじめるからその前に侯爵夫人をパーティ会場へ戻すべきだとハミルがアマニール侯爵に進言し、侯爵は同意して夫人がいるマリカ嬢の部屋に向かった。
「レオンハルト殿下、今日の結果が実りあるものになると良いですね。」
「ああ、今日はありがとう。侯爵には別途伝えるが優秀なハミルに任せたい仕事があるから帰国したら連絡してくれ。」
俺たちの間には沈黙が流れる。
「殿下、さきほどリリの好みについてお伝えしましたが忘れてください。」
「どういう意味だ?」
「妹はあなたから貰うものなら何でも喜ぶと思います。それが道端に咲いているハルジオンだとしても。あ、でも何をプレゼントするにしてもサプライズは忘れないでくださいね。」
ハミルはリリーシアによく似た笑顔で俺を見て楽しそうに続ける。
「・・・分かった。」
「殿下は今が頑張り時ですかね。」
「そうだな。」
ハミルは頷く。俺とリリーシアの応援をするような発言は、さっきのシオンの強引な行動に腹を立てているからなのだろうか。
「あ、先ほどのオス同士がメスを取り合うような駆け引きに腹を立てているわけではありませんよ。」
オス・・・。
ハミルは美しく微笑んで俺を見た。彼なら抱けるかもしれない。
「妹があんな顔をしたからです。」
「ごめん、聞こえなかった。何て言ったの?」
「ふふふ。あのぉ、僕の恋愛対象は女性限定です、と言いました。」
「ごめんごめん。わかっているさ。」
「ルイ王子は金髪碧眼なんですよ。」
「?」
「レティシア姫の呪いを解いてあげてくださいね。」
こいつ・・・
*/
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...