アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

文字の大きさ
49 / 72

アマニール侯爵の罪(1/3)

しおりを挟む
アマニール侯爵がすぐに去っていったので事なきを得た私たち4人は、足早にパーティで用意されている休憩室に戻る。幸い休憩室には私たち以外、誰もいなかった。
「予定外に持ち帰るべきものができてしまったので私は早く皇城に戻りたいです。」
「私もなるべく早く帰城して写真を確認したいと思います。レオもあらかたの挨拶もできたと思うのでもう退出可能でしょう。今日はスイフィル局長が出張から戻られるのでその報告を受けるということにしましょう。パーティはこれから盛り上がっていく時間ですが、局長との打ち合わせを理由にすれば秘書であるリリーシア嬢も護衛の私も自然に帰城できます。」
アダルベルト様の提案に私は頷いた。
「わたくしは少しパーティーの様子を確認してから戻るわ。シオン様はどうされますか?」
シオンはフィリーナ様が残るといったのが意外だったようで少し驚いていた。
「そうですね、パートナーが仕事で帰るので友人に挨拶をしてから帰宅することにしておきますか。今夜は私もカペラ宮に泊まって明日はそのまま大学院に行きます。」
私とシオンが先に休憩室を出て、アダルベルト様とフィリーナ様はタイミングをずらして退出した。
会場の中でアダルベルト様と私は落ち合ったふりをして、レオンハルト殿下の元へ向かった。
途中、給仕からシャンパンをもらってゴクリと飲んだ。
「ふぅ。私、顔が強張ってますか?」
途中でアダルベルト様に聞いてみる。
「いいえ、立派な笑顔の仮面を被れています。」
アダルベルト様は微笑んで答えてくれた。
立派か・・・良かった。動揺も気落ちしているのも隠せているみたいだ。
レオンハルト殿下は若い貴族たちに囲まれて楽しそうに歓談していた。私とアダルベルト様は話の区切りがつくまで待機する。
「ご歓談中失礼します。レオンハルト殿下、次の予定がございますので名残惜しいとは存じますが帰城いただけると幸いでございます。」
私はうやうやしく進言した。
「今日は公務が無いと伺ったのですが?」
リーズ男爵が口を挟む。なかなか鋭い。
「スイフィル局長が予定を前倒しして、出張から戻られるのです。明日から代休を取得されますので報告を聞く予定です。」
私は不快感を抑え込んで淡々とリーズ男爵に返答した。これ以上は何も言ってこないだろう。
「分かった。それでは侯爵夫妻と小侯爵に挨拶して帰ろう。」

******
「あーーーもう、捜査って大変すぎ!もう二度とやりたくないぜ。」
3人で車に乗り込むとアダルベルト様は一気に力が抜けたようで軽口を叩く。
「「・・・」」
「無視しないで突っ込んでよ。お前、警察庁の官僚だろって」
アダルベルト様は私とレオンハルト殿下の重い雰囲気を察してそこから何も言わなくなった。
「リリーシア?」
レオンハルト殿下に顔を覗き込まれて、私はビクッとする。彼の心配そうな眼差しを受けると思わず目に涙が浮かんできた。
泣いてはダメだと思って涙が溢れてこないように軽く唇を噛んだ。
「皇・・・帝・・陛下と父に・・・報告を・・・」
「リリーシア、大丈夫か?」
「・・・すみません。整理して順に話さないと・・・いけませんね。」
レオンハルト殿下は私の両頬に手を当てて彼の目を見るように顔を上に向ける。
「ちがう。そうじゃなくて、リリーシアの心は大丈夫なのかってこと。って、大丈夫じゃ・・・ないよな。」
そう言うと私の頬を触っていた手は私の頭と背中にまわし、優しく抱きしめてくれた。子供のころ母に抱きしめてもらったような慈愛の抱擁に私は我慢していた涙が溢れてきた。私は彼の背中に手を回して声を殺して泣いた。
車の中はしばらく静寂が流れる。
規則正しく脈打つ心臓の音が心地よくて私は少しずつ落ち着いていった。
「実は朝からとても不安で怖くて。でも迷惑にならないようにって気を張っていたのですが・・・。今日知った事実に直面して恐怖と怒りで耐えられなくて。」
私が言葉を止めると車の走行音だけが聞こえる。
「先ほどは申し訳ありませんでした。殿下の顔を見たら気持ちが抑えられなくて・・・」
レオンハルト殿下は今度はギュッと抱きしめて「うん」と言い、指で私の涙を拭う。

「お取り込み中申し訳ありませんが、私がいることを忘れていませんかね?」
はっとしてお互い抱きしめている手を離し、アダルベルト様と向き合った。
(そうだ、早くあれを見せないと。)
「私の判断で泥棒をしてしまったのですが・・・。」
二人とも解せない顔をしていたけど私は持ち帰ってきた証書を見せた。
「アマニール侯爵譲位証書です。」
「”第47代アマニール侯爵位を第46代当主アスラーダ・アマニール嫡子 テオナードに指名する”と明記されているな。」
私はアダルベルト様と席を代わり、証書と一緒に保管してあった日記を渡した。
「お祖父様・・・先代アマニール侯爵夫妻はアマニール侯爵に殺された可能性があります。祖父は祖母の死に疑問を持って調べていたようです。」
彼らはさほど驚いていない。
(ああ、そうか。つまり・・・)
「お二人もほぼ確信していたんですね。」
「すまない・・・」
車内は再び静寂に包まれる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...