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シオンの回想(2/4)
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友人たちも令嬢達の中に知人と家族がいたみたいで、僕の代わりに友人の何人かが声を上げた。
「レベッカ嬢!淑やかで優しい幼馴染だと思っていたのに残念だよ。」
「サリーシャ!お前、何やってるんだよ!」
「マリカ嬢、動物には専用のフードを与えないとだめです。」
令嬢たちは顔が青ざめている。あとは友人たちに任せた。
彼女は控室に着替えがあるから、エリザベス殿下から下賜してもらう必要は無いという。確かに皇女とあまり接触してしまうと、異母弟のレオンハルト皇子が彼女と出会って見初めてしまうかもしれない。
彼は僕が競り負ける可能性がある帝国で唯一の存在だ。
「リリ!どうしたの?」
控室に行く途中でエリザベス皇女が談笑していた。皇女と一緒にいる友人たちの中の一人が彼女を呼び止める。金髪翠眼の人目を引く華やかな美女だ。レイア・マクレガー令嬢は帝大医学部に通い、その美しさに他国の王子が魅了されて求婚されたシンデレラガールとして有名な人だ。姉妹揃って美人だけど僕はリリーシア嬢のほうが好きだ。
「あ、レイアお姉様。ちょっとアクシデントがあったの。着替えてきます。」
「ああ、洗礼みたいなものだからね。濃い色のドレスにしておいて良かったでしょ。」
えぇ・・・お茶をかけられるイベントってそんなに頻繁にあるの??
「そうね・・・」
「あら?リリーシアちゃんはひょっとして淡い色のドレスが着たかったの?」
エリザベス皇女が話を止めてリリーシア嬢に聞いた。
「はい・・・できれば。」
「そう・・・。じゃあ、わたくしが下賜しましょう。皇女から下賜された服を汚せるアホは滅多にいないから。あら?ワイマール公子にエスコートされているの?ふふふ、2人で並んでいると物語に出てくる王子と姫君みたいで絵になるわ。」
後半はよくわからないが、ドレスは下賜してもらえることになった。もう小さくて着られないドレスだから好きなものを選ぶように仰っていた。行先はカペラ宮の控室からベガ宮に変わった。貴族に部屋が割り当てられているカペラ宮以外には行ったことがなかったのでちょっと楽しみだ。
「リリーシア嬢は何色が好きなの?」
「わたくしは春の空のような薄い水色が好きです。」
薄い水色・・・僕の瞳の色だ。別に僕のことを言われたわけでもないのに嬉しくなる。そうだ、僕の瞳の色と言えば・・・。
彼女がドレスを選んでいる間に僕はお母様のところに急いで向かい5歳の従妹にあげるはずだったプレゼントをもらってきた。
皇女のドレスルームにもどると彼女は2着のドレスを見比べていた。ひとつは美しいドレープのベビーブルーのドレス、もう一つはライトブルーのドレスでピンクの花の刺繍がついているもの。
「リリーシア嬢、良かったらこれを使ってくれない?」
お母様から貰ってきたアイスブルーのリボンを差し出す。母がリボンに僕の髪の色である濃い目の銀色でバラの刺繍を入れてくれたもので、小さなダイヤモンドも縫い付けてある。
「ベビーブルーのもののほうがいいかもしれませんね。リリーシア嬢の瞳の色に合わせて、ハイビスカスか・・・・赤いバラのコサージュをつけるといいと思います。」
ベガ宮で応対してくれたエリザベス殿下の侍女が提案する。
「夏らしくハイビス・・・」「バラがいいと思う。」
せっかくだし僕の家門の象徴であるバラを選んでほしかった。被せて発言してしまったのは感じ悪かったかな。
「じゃあ、バラでお願いします。」
侍女は彼女の髪の毛を、編みこんで左側で一つに縛り、リボンが綺麗に見えるようにしてくれた。着替えてエスコートして会場に戻ると注目を浴びた。僕は彼女をしばらく独り占めしたかったので池の畔にある四阿へ誘った。
「今日は助けてくれてありがとうございました。わたくし、他の令嬢とあまりうまく馴染めないし、すぐに怒らせてしまうので大人しくしていようと思っていたのですが、癌の新薬開発は父が母に結婚を申し込むときに誓った約束なのでとても思い入れがあるんです。それを否定されて許せなくて・・・。でも反省しています。」
なるほど、言い返したのには理由があったんだ。
「リリーシア嬢はアサーションって知っているかい?」
「いいえ、存じません。」
「相手を尊重しながら自分の意見を主張するコミュニケーションスキルなんだ。君は頭がいいし感情的にならないのが素晴らしいけど、相手への意見の言い方を学んだら気まずい思いをする機会が減ると思うんだ。」
「そう・・・なんですね。」
彼女は僕を憧憬の眼差しで見た。感動して僕を尊敬しているのが手にとるようにわかる。僕は自尊心が満たされていった。
「マクレガー家はご両親も兄弟もサルニア帝大だよね?君も受験するの?」
先程の長女レイア殿が医学部、長男は薬学部に現在通っているらしい。マクレガー家は社交界きっての才色兼備一家だと有名だ。
「はい、法学部を目指してます。」
「じゃあ、僕と友人たちの勉強会においでよ。大学受験の勉強会の他に定期的にビジネススキルの講師も呼んでワークショップをしているんだ。アサーションも勉強できるよ。」
「お勉強の仲間ができるのは嬉しいですが、私が入って迷惑ではないでしょうか。ワイマール公子様の友人に私はふさわしくないように思います。」
「そんな悲しいこと言わないでよ。自分の周りにいる人は身分に関係なく選びたいんだ。」
「それなら・・・ありがたく参加させていただきます。」
「これからよろしく。あと、僕のこと名前で呼んでほしいな。僕も君のこと名前で呼んで良い?」
「えっと・・・はい。シオン様」
「リリーシアの愛称は?」
「家族や仲のいい友達からはリリって言われています。」
Lilyciaのリリか。皇家の家門にある百合を連想するからリリじゃないほうがいいな。
「じゃあ、僕はシアって言うよ。僕だけの特別な愛称みたいで嬉しい。」
彼女は花もほころぶような笑顔で笑った。このまま家に連れて帰りたいくらい可愛い。
”シオン様”
実際に呼ばれると胸がドキドキする。他の人たちに呼ばれても何とも思わないのに。
僕は真っ赤になって目をそらす。心臓の音がシアに聞こえてしまうのではないかというくらいドクドクとなっている。
これが物語で出てくる恋に落ちたというやつなんだろう。僕は彼女への好意をはっきりと自覚した。
もっと一緒にいたかったけど、日が傾いてきてそろそろ親のところに戻ろうということになった。僕は彼女の手を取って、指と指をからめて手をつないで他の同世代の子達をけん制した。彼女は少し困っていたけど拒絶しなかった。僕は存外、独占欲が強いみたいだ。
「シア、あのさ」
「はっ、そう呼ばれるのにまだ慣れなくて恥ずかしいです。」
はにかむ彼女を見て思わずへにゃっと笑ってしまう。かわいすぎる。
「シアって呼ぶのは僕だけでも、リリっていう愛称は仲のいい人には呼ばれているんでしょ。」
「家族と親戚以外の男の子で愛称で呼ばれたのはシオン様が初めてなんです。」
そう言われて、何かが心の中で満たされていく。僕たちは週次でやっている勉強会で会う約束をした。
「シオン、どこに行っていたの?レオンハルト殿下がいらしていたのよ。・・・あらまぁ。」
息子にねだられて譲ったリボンをつけている女の子の手を僕が引いていて、お母様は一瞬止まった。
「新しいお友達ができたのね。初めまして。シオンの母のシンシアよ。」
「ワイマール公爵夫人にお目にかかれて光栄でございます。マクレガー家のリリーシアと申します。本日は不慣れなわたくしのために公子様が助けてくださいました。公子様のご厚意に甘えてしまい長い間、御令息を引き留めてしまい申し訳ありませんでした。」
皇太子様がいらしたんだ。僕と皇太子殿下はどうも相性が悪いらしくてあんまり会いたくなかったからすれ違ってラッキーだった。
カーテシーして挨拶するシアにお母様は満足そうに微笑む。お母様の”新しいお友達ができた”というシアへの声掛けは、もっと幼い子に対するものだ。母は彼女の反応を確かめたようだった。彼女は冷静に受け流して、自分が受けたささやかな侮辱をオブラートに包み、僕を立てながら僕らの不在を弁明した。
きっと彼女は母に試された理由をまだ知らない。
僕の髪の色でワイマールの象徴を刺繍したリボンを僕が強請ったということは、母に婚約者候補を見つけたと言ったのと同じだ。
「これからもシオンと仲良くしてもらえたら嬉しいわ。」
お母様はシアを見て微笑む。
「うちの薔薇園は帝国で一番なの。今度、遊びにいらっしゃい。イレーネと一緒に。」
「はい、光栄です。ありがとうございます。」
彼女の母親の名前をワイマール公爵夫人が出したのが意外だったのか驚いていた。周りにいた人達がヒソヒソと囁き合っていた。
リリーシア・マクレガーは今日、ワイマール公子に見初められ、ワイマール公爵夫人に息子のガールフレンドとして認められた。
お母様が家に誘った僕と同世代の令嬢は彼女が初めてで、つまりこのときから彼女は僕の婚約者候補に上がったのだ。
僕は誰にもわからないようにほくそ笑む。彼女がお母様に認められたことだけじゃない。今、この時点から僕の庇護のもと彼女を悪意から守れる。
(僕だけが)
いや、僕だけじゃなくてもう1人いるな。どろりと黒い何かが耳元で流れた気がしたが、気が付かないふりをした。
「シア、お願いがあるんだけど。」
「うん。」
「そのリボンを大学の入学式の日にしてきて欲しい。」
「ふふ、お互い受かる願掛けにするのね。わかったわ。」
それを聞いて僕は晴れやかな気持ちになった。
「レネ!久しぶりね。」
「シンシアお姉様!お元気でしたか?うちの娘が何か失礼を?」
うわっ!凄い美人だ。シアとの血縁がわかる夏のアルタイルのような金髪と紅茶色の瞳。
「違うわよ。ちゃんと礼儀正しい子ね。うちの息子がね、このリボンをリリーシア嬢にあげたのよ。」
シアの母君は僕と僕の家門を象徴するリボンを見て「まぁ」と驚く。シアは自分がもうワイマール公爵家に予約されていることを示していることに気がついていない。
「あ、シンシアお姉様と言ったけど本当の姉妹じゃないわよ。」
「「・・・知ってます。」」
シアのお母様はちょっと天然なのかな。
「大学の時、文化祭の実行委員を一緒にやって仲良くなったのよ。しかし、似てるわね。うちには娘がいないから可愛い子がいて羨ましいわ。」
帰宅後のお母様は上機嫌だった。
「シオン、よく彼女を見つけたわね。お父様の求める条件とわたくしの条件が満たせる子はあまりいないのよ。性格も素直そうだし、理知的だし、イレーネに似て見目も良いし完璧よ。」
見つけたのは偶然なんだけど、お母様に気に入られて良かった。受験が終わるまでは毎週勉強会で会うことができるし、今は子供だけで出かけることはできないが大学に入れば免許を取って2人で出かけることも可能になる。つまらない受験勉強も楽しいキャンパスライフを思い描けば苦ではなくなりそうだ。
お父様にも彼女のことを話して好感触だったが、15歳未満での婚約の内々定は帝国のルールに反するので大学に入ってからシアの合意があれば結ぼうということになった。
「大丈夫。うちの縁談を横取りできるのはレオンハルト殿下くらいさ。」
お父様は笑いながら言っていたが、現実に起きうる話だ。とはいえ、父の言う通り本人の合意なしで話を進めるのは良くない。まずは大学合格。
この時、僕はもっと食い下がってシアとの婚約を根回ししておけばよかったと後々後悔することになるのだけど、そんなことはまだ知る由もなかった。
「レベッカ嬢!淑やかで優しい幼馴染だと思っていたのに残念だよ。」
「サリーシャ!お前、何やってるんだよ!」
「マリカ嬢、動物には専用のフードを与えないとだめです。」
令嬢たちは顔が青ざめている。あとは友人たちに任せた。
彼女は控室に着替えがあるから、エリザベス殿下から下賜してもらう必要は無いという。確かに皇女とあまり接触してしまうと、異母弟のレオンハルト皇子が彼女と出会って見初めてしまうかもしれない。
彼は僕が競り負ける可能性がある帝国で唯一の存在だ。
「リリ!どうしたの?」
控室に行く途中でエリザベス皇女が談笑していた。皇女と一緒にいる友人たちの中の一人が彼女を呼び止める。金髪翠眼の人目を引く華やかな美女だ。レイア・マクレガー令嬢は帝大医学部に通い、その美しさに他国の王子が魅了されて求婚されたシンデレラガールとして有名な人だ。姉妹揃って美人だけど僕はリリーシア嬢のほうが好きだ。
「あ、レイアお姉様。ちょっとアクシデントがあったの。着替えてきます。」
「ああ、洗礼みたいなものだからね。濃い色のドレスにしておいて良かったでしょ。」
えぇ・・・お茶をかけられるイベントってそんなに頻繁にあるの??
「そうね・・・」
「あら?リリーシアちゃんはひょっとして淡い色のドレスが着たかったの?」
エリザベス皇女が話を止めてリリーシア嬢に聞いた。
「はい・・・できれば。」
「そう・・・。じゃあ、わたくしが下賜しましょう。皇女から下賜された服を汚せるアホは滅多にいないから。あら?ワイマール公子にエスコートされているの?ふふふ、2人で並んでいると物語に出てくる王子と姫君みたいで絵になるわ。」
後半はよくわからないが、ドレスは下賜してもらえることになった。もう小さくて着られないドレスだから好きなものを選ぶように仰っていた。行先はカペラ宮の控室からベガ宮に変わった。貴族に部屋が割り当てられているカペラ宮以外には行ったことがなかったのでちょっと楽しみだ。
「リリーシア嬢は何色が好きなの?」
「わたくしは春の空のような薄い水色が好きです。」
薄い水色・・・僕の瞳の色だ。別に僕のことを言われたわけでもないのに嬉しくなる。そうだ、僕の瞳の色と言えば・・・。
彼女がドレスを選んでいる間に僕はお母様のところに急いで向かい5歳の従妹にあげるはずだったプレゼントをもらってきた。
皇女のドレスルームにもどると彼女は2着のドレスを見比べていた。ひとつは美しいドレープのベビーブルーのドレス、もう一つはライトブルーのドレスでピンクの花の刺繍がついているもの。
「リリーシア嬢、良かったらこれを使ってくれない?」
お母様から貰ってきたアイスブルーのリボンを差し出す。母がリボンに僕の髪の色である濃い目の銀色でバラの刺繍を入れてくれたもので、小さなダイヤモンドも縫い付けてある。
「ベビーブルーのもののほうがいいかもしれませんね。リリーシア嬢の瞳の色に合わせて、ハイビスカスか・・・・赤いバラのコサージュをつけるといいと思います。」
ベガ宮で応対してくれたエリザベス殿下の侍女が提案する。
「夏らしくハイビス・・・」「バラがいいと思う。」
せっかくだし僕の家門の象徴であるバラを選んでほしかった。被せて発言してしまったのは感じ悪かったかな。
「じゃあ、バラでお願いします。」
侍女は彼女の髪の毛を、編みこんで左側で一つに縛り、リボンが綺麗に見えるようにしてくれた。着替えてエスコートして会場に戻ると注目を浴びた。僕は彼女をしばらく独り占めしたかったので池の畔にある四阿へ誘った。
「今日は助けてくれてありがとうございました。わたくし、他の令嬢とあまりうまく馴染めないし、すぐに怒らせてしまうので大人しくしていようと思っていたのですが、癌の新薬開発は父が母に結婚を申し込むときに誓った約束なのでとても思い入れがあるんです。それを否定されて許せなくて・・・。でも反省しています。」
なるほど、言い返したのには理由があったんだ。
「リリーシア嬢はアサーションって知っているかい?」
「いいえ、存じません。」
「相手を尊重しながら自分の意見を主張するコミュニケーションスキルなんだ。君は頭がいいし感情的にならないのが素晴らしいけど、相手への意見の言い方を学んだら気まずい思いをする機会が減ると思うんだ。」
「そう・・・なんですね。」
彼女は僕を憧憬の眼差しで見た。感動して僕を尊敬しているのが手にとるようにわかる。僕は自尊心が満たされていった。
「マクレガー家はご両親も兄弟もサルニア帝大だよね?君も受験するの?」
先程の長女レイア殿が医学部、長男は薬学部に現在通っているらしい。マクレガー家は社交界きっての才色兼備一家だと有名だ。
「はい、法学部を目指してます。」
「じゃあ、僕と友人たちの勉強会においでよ。大学受験の勉強会の他に定期的にビジネススキルの講師も呼んでワークショップをしているんだ。アサーションも勉強できるよ。」
「お勉強の仲間ができるのは嬉しいですが、私が入って迷惑ではないでしょうか。ワイマール公子様の友人に私はふさわしくないように思います。」
「そんな悲しいこと言わないでよ。自分の周りにいる人は身分に関係なく選びたいんだ。」
「それなら・・・ありがたく参加させていただきます。」
「これからよろしく。あと、僕のこと名前で呼んでほしいな。僕も君のこと名前で呼んで良い?」
「えっと・・・はい。シオン様」
「リリーシアの愛称は?」
「家族や仲のいい友達からはリリって言われています。」
Lilyciaのリリか。皇家の家門にある百合を連想するからリリじゃないほうがいいな。
「じゃあ、僕はシアって言うよ。僕だけの特別な愛称みたいで嬉しい。」
彼女は花もほころぶような笑顔で笑った。このまま家に連れて帰りたいくらい可愛い。
”シオン様”
実際に呼ばれると胸がドキドキする。他の人たちに呼ばれても何とも思わないのに。
僕は真っ赤になって目をそらす。心臓の音がシアに聞こえてしまうのではないかというくらいドクドクとなっている。
これが物語で出てくる恋に落ちたというやつなんだろう。僕は彼女への好意をはっきりと自覚した。
もっと一緒にいたかったけど、日が傾いてきてそろそろ親のところに戻ろうということになった。僕は彼女の手を取って、指と指をからめて手をつないで他の同世代の子達をけん制した。彼女は少し困っていたけど拒絶しなかった。僕は存外、独占欲が強いみたいだ。
「シア、あのさ」
「はっ、そう呼ばれるのにまだ慣れなくて恥ずかしいです。」
はにかむ彼女を見て思わずへにゃっと笑ってしまう。かわいすぎる。
「シアって呼ぶのは僕だけでも、リリっていう愛称は仲のいい人には呼ばれているんでしょ。」
「家族と親戚以外の男の子で愛称で呼ばれたのはシオン様が初めてなんです。」
そう言われて、何かが心の中で満たされていく。僕たちは週次でやっている勉強会で会う約束をした。
「シオン、どこに行っていたの?レオンハルト殿下がいらしていたのよ。・・・あらまぁ。」
息子にねだられて譲ったリボンをつけている女の子の手を僕が引いていて、お母様は一瞬止まった。
「新しいお友達ができたのね。初めまして。シオンの母のシンシアよ。」
「ワイマール公爵夫人にお目にかかれて光栄でございます。マクレガー家のリリーシアと申します。本日は不慣れなわたくしのために公子様が助けてくださいました。公子様のご厚意に甘えてしまい長い間、御令息を引き留めてしまい申し訳ありませんでした。」
皇太子様がいらしたんだ。僕と皇太子殿下はどうも相性が悪いらしくてあんまり会いたくなかったからすれ違ってラッキーだった。
カーテシーして挨拶するシアにお母様は満足そうに微笑む。お母様の”新しいお友達ができた”というシアへの声掛けは、もっと幼い子に対するものだ。母は彼女の反応を確かめたようだった。彼女は冷静に受け流して、自分が受けたささやかな侮辱をオブラートに包み、僕を立てながら僕らの不在を弁明した。
きっと彼女は母に試された理由をまだ知らない。
僕の髪の色でワイマールの象徴を刺繍したリボンを僕が強請ったということは、母に婚約者候補を見つけたと言ったのと同じだ。
「これからもシオンと仲良くしてもらえたら嬉しいわ。」
お母様はシアを見て微笑む。
「うちの薔薇園は帝国で一番なの。今度、遊びにいらっしゃい。イレーネと一緒に。」
「はい、光栄です。ありがとうございます。」
彼女の母親の名前をワイマール公爵夫人が出したのが意外だったのか驚いていた。周りにいた人達がヒソヒソと囁き合っていた。
リリーシア・マクレガーは今日、ワイマール公子に見初められ、ワイマール公爵夫人に息子のガールフレンドとして認められた。
お母様が家に誘った僕と同世代の令嬢は彼女が初めてで、つまりこのときから彼女は僕の婚約者候補に上がったのだ。
僕は誰にもわからないようにほくそ笑む。彼女がお母様に認められたことだけじゃない。今、この時点から僕の庇護のもと彼女を悪意から守れる。
(僕だけが)
いや、僕だけじゃなくてもう1人いるな。どろりと黒い何かが耳元で流れた気がしたが、気が付かないふりをした。
「シア、お願いがあるんだけど。」
「うん。」
「そのリボンを大学の入学式の日にしてきて欲しい。」
「ふふ、お互い受かる願掛けにするのね。わかったわ。」
それを聞いて僕は晴れやかな気持ちになった。
「レネ!久しぶりね。」
「シンシアお姉様!お元気でしたか?うちの娘が何か失礼を?」
うわっ!凄い美人だ。シアとの血縁がわかる夏のアルタイルのような金髪と紅茶色の瞳。
「違うわよ。ちゃんと礼儀正しい子ね。うちの息子がね、このリボンをリリーシア嬢にあげたのよ。」
シアの母君は僕と僕の家門を象徴するリボンを見て「まぁ」と驚く。シアは自分がもうワイマール公爵家に予約されていることを示していることに気がついていない。
「あ、シンシアお姉様と言ったけど本当の姉妹じゃないわよ。」
「「・・・知ってます。」」
シアのお母様はちょっと天然なのかな。
「大学の時、文化祭の実行委員を一緒にやって仲良くなったのよ。しかし、似てるわね。うちには娘がいないから可愛い子がいて羨ましいわ。」
帰宅後のお母様は上機嫌だった。
「シオン、よく彼女を見つけたわね。お父様の求める条件とわたくしの条件が満たせる子はあまりいないのよ。性格も素直そうだし、理知的だし、イレーネに似て見目も良いし完璧よ。」
見つけたのは偶然なんだけど、お母様に気に入られて良かった。受験が終わるまでは毎週勉強会で会うことができるし、今は子供だけで出かけることはできないが大学に入れば免許を取って2人で出かけることも可能になる。つまらない受験勉強も楽しいキャンパスライフを思い描けば苦ではなくなりそうだ。
お父様にも彼女のことを話して好感触だったが、15歳未満での婚約の内々定は帝国のルールに反するので大学に入ってからシアの合意があれば結ぼうということになった。
「大丈夫。うちの縁談を横取りできるのはレオンハルト殿下くらいさ。」
お父様は笑いながら言っていたが、現実に起きうる話だ。とはいえ、父の言う通り本人の合意なしで話を進めるのは良くない。まずは大学合格。
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