アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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シオンの回想(3/4)

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エリザベス王女の誕生日から4か月後のレオンハルト皇太子殿下の誕生日会には家庭の事情でシアは参加しなかった。15歳になると皇族の誕生日会は夜会になり参加者も15歳以上になるので大学に入るまでシアとレオンハルト殿下が出会うことはないはず。
そのあと、シアと僕は友人たちと共に週に1度の勉強会で会った。友人たちは気を回して勉強会の後には僕とシアが二人きりで過ごせるように配慮してくれた。最初は遠慮していた彼女もだんだんと僕に心を許すようになり、僕の気持ちは日に日に膨れ上がっていって次に会える日を指折り数えていた。毎日気がつけばシアのことを考えていて初めてキスしてからはもう彼女を欲する気持ちに蓋をすることができなくなっていった。一日でも早く婚約して彼女を僕の色に染めたい。
もともと勉強は得意で優秀だったが、彼女がわからないところを教えるために人知れず努力した。最後の半年間は勉強会は中断して個々で勉強することになったのでシアとも会うことができなかったが入学式の後で2人だけで買い物に行ってご飯を食べる約束をしたのでそれを励みにして受験勉強をした。休みの日は18時間ほど机にかじりついていた。
そんな努力の甲斐あって僕はサルニア帝国立大学設立以来の最高得点で合格した。

大学の入学式の日、少女から女性に変わりつつある彼女は眩しくて目を細めなければいけないほど美しくなっていた。彼女は4年前の口約束を覚えていてくれたようで俺のリボンをつけている。周りの生徒達は彼女の美しさに釘付けになっていて話しかけるチャンスを伺っていた。ロワジール侯爵子息が声を掛けようと動いたときに俺は割って入り、けん制した。
「シア、半年ぶり。一緒に入学できてうれしいよ。」
「私もシオンと一緒に大学生になって嬉しいわ。歴代最高得点で入学したんでしょ?さすがね。」
「運が良かっただけだよ。」
嘘だ。胃酸が逆流するくらい勉強した。でも、彼女には余裕がない自分を絶対に見せたくない。
「背が伸びたね。半年前は私とそんなに変わらなかったのに。」
「受験が終わって思いっきり眠れるようになって、まだまだ伸びそう。成長痛がすごいよ。」
最近、本当に体の節々が痛い。
「さっきね、皇太子殿下にお会いしたの。シオンがくれたリボンが解けて風で飛んでしまって拾っていただいたの。」
ドクリと心臓が鳴って背中に悪寒が走った。楽しかった気分が急に萎んでいって嫌な予感がした。
「そう・・・。初めて会ったの?どうだった?」
多分会ったのは初めてだ。どうだった、の答えを聞くのが怖い。お互いに意識していないことを願うばかりだ。
「柔和な方だったよ。細身で背が高くて、顔もカッコいいし子供のころ読んだ本に出てくる王子様そのままね。優しい笑顔も素敵で・・・。」
皇太子を思い出してうっとりしているシアを見て、血の気が引いていくのを感じた。彼女と殿下を引き離さないと彼女を取られてしまう。
「レオンハルト殿下は美丈夫だよね。でも、彼の親切も優しい笑みも公人としての振る舞いだから腹の中で何を考えているかはわからないよ。」
実際、彼は俺に対して思うところがあるようでいつも笑顔だけれどその腹の中からは黒い感情が渦巻いているように感じていた。
「そうよね・・・」
どこか残念そうだがシアは納得したようだった。俺は視線を感じて目を向けるとレオンハルト殿下がこちらに向かって歩いてきていた。シアを彼の視線に入れないように隠そうと思ったが既に彼女をみつけて歩いてきているようだ。
「令嬢、さきほどはちゃんと挨拶ができなくて。改めて、私はレオンハルト・ブルマンです。」
目上である殿下から先に名乗ったことに俺は驚いた。
「リリーシア・マクレガーと申します。先程は殿下の手を煩わせてしまいまして申し訳ございませんでした。」
シアは綺麗にカーテシーして挨拶した。ずっと体育の授業以外で運動していなかった割にしっかりした体幹だ。
「学校の中ではそのような挨拶はいらないよ。気楽に話しかけてもらえると嬉しい。」
「・・・はい」
皇太子に気楽に話せと言われて馴れ馴れしく話せるやつなんて滅多にいないと思う。
「ところで、週末に俺の友人たちで今年帝大に入った子達のお祝いのためにクルーズパーティーを開くんだけどリリーシア嬢もどうかな?」
シアは困った様子で俺に目線を向けた。俺は黙って首を振った。
「帝国の光にご挨拶申し上げます。」
「・・・ワイマール公子も大学内では無礼講で構わない。」
「ありがとうございます。失礼ながら申し上げますが、殿下のご友人のグループに彼女が一人で参加するのは少し酷なのではないでしょうか。」
レオンハルト殿下も少し強引な誘いであることを自覚していたのでシアを見て苦笑いしていた。もともと誘いに乗ってきてもらえるとは思っていなくて、今日のところは知り合いになれただけで及第点なのだろう。
「シア、レストランの予約の時間から逆算するとそろそろ出ないといけない。駐車場まで少し歩くけどいい?」
「車で来たの?もう免許を取ったのね。」
「ああ、俺も船舶免許を持ってるから今度2人でクルーズもしに行こう。」
「すごい。シオンはやっぱり何でもできるのね。」
「それでは殿下、失礼いたします。」
俺はそう言ってボウアンドスクレープしてからシアの手を取って歩き出す。レオンハルト殿下は微笑んでいたが、彼の顔には落胆と嫉妬が滲んでいた。
「ねぇ、シオン。私、殿下の誘いを断ってしまって良かったのかしら?」
「非公式な会合の誘いだから問題ないよ。ブルマン家は親皇家保守派の中核で隙きがあれば中立派家門を取り込んで勢力を拡大したいんだ。」
「なるほど。」
彼女はレオンハルト殿下が政治的な意味で彼女に近寄ってきたと察したようだ。
実際にはレオンハルト殿下はシアに好意を持っている。彼女といるとき俺を含めた周りなんて全く見ていなかった。いつもの皇太子殿下の顔じゃない、ただの恋をした青年の表情だった。
「シア、俺だけを見てて。」
「??うん?」
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