アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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シオンの回想(4/4)

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レオンハルト殿下のシアに対する好意は淡い恋心ではなく本気だった。何かと話しかけてこようとするし彼女のことをよく見つめている。サルニア帝国大学はスペシャリストだけではなく人の上に立つべきジェネラリストの育成にも力を入れているので、2年生まではどの学部でも共通科目を取り、空いた時間と3年生以降に専門科目を履修する。殿下が卒業するまでの2年間は学部が違うけれど共通科目を主に履修する僕とシアは殆ど一緒に行動できるので僕はひたすら殿下をブロックした。ルオンスやリナ、ライラとも仲良くなって僕たちは仲良しのグループとなっていた。
一つ気になることは、殿下が法学部の講義を週に1度だけ受けていて、シアと一緒だということだ。大学では自分の専攻の単位が足りていれば他の学部の講義も定員に空きがあれば自由に受けることができる。殿下は法学部以外も色々な学部の〇〇概論のような全体が理解できるような講義を受けていたので不自然な行動ではないんだけど・・・。
2人が受けている講義は休み明けの1限目で殿下は公務の疲れからかよく居眠りしていて、シアがノートをコピーしてあげて夕方、カフェテリアで解説していた。そんなしょっちゅう寝るなら最初から受けなければいいのに・・・絶対わざとやっていると思う。
シアと同じ法学部のルオンスに殿下とシアが隣同士に座らせないようにお願いしたが、朝はランニングと筋トレがあるから早くいくのは無理だし、シアに席を取っておいてもらって殿下と三人で受講する勇気が無い、と言っていた。友達ならもっと応援して欲しいところだ。
カフェテリアでの解説に同席しようとすると殿下の友人たち”いつメン9”と呼ばれる奴らが僕を引きはがしにくる。”いつメン9”の9人の中には殿下の婚約者候補のフィリーナ嬢もいる。どういう人間関係になっているんだ。

殿下が彼女に接触するたびに俺は焦っていた。
理由は不明だけどシアとの婚約の話が全く進まないのだ。4年前は乗り気だった父上は婚約の話に触れたくないようではぐらかされるようになった。一度、父上に詰問したところ
「事情があって今はマクレガー令嬢とは卒業後の彼女の誕生日まで婚約できない。結婚したいならその時までしっかり心を繋ぎ止めておけ。」
と言われた。
そこから長いような、でもあっという間のような平穏で幸せな5年間を過ごした。
卒業後すぐに留学するはずだったシアの元を卒業の3ヶ月前にレオンハルト殿下が訪れた。3年間ほとんど接触してこなかったのに、やっと卒業して婚姻に向けて動けると思っていたのにと恨めしく感じてしまう。
再会した時の殿下の意図ははっきりしなかった。単に彼女を妃にしたいのであればテオドール様に打診すれば良いわけで、わざわざ保護して傍に置く理由が何かあるはずだ。
その理由は思っていたよりも深刻な内容で、何年もかけてマクレガー子爵やウィローブロック家とマーキュリー家で真相を明らかにしようと調査していた。
殿下はこの5年間、妃選びをのらりくらりとかわして現アマニール侯爵を排する準備をしてきた。
彼はシアと出会った日、秘密裏にマクレガー家への婚姻申込みを抜かり無くしていた。
あの人のことだ、アマニールを断罪するときにテオドール・マクレガーを功労者として大々的に打ち出す予定なのだろう。婚姻申し込みを保留のままにしてマクレガー子爵に恩を売ればもうシアと殿下の結婚への障壁は何もなくなる。アマニール侯爵位の奪還、製薬会社の保護と愛娘の安全を確保してくれた人が5年以上変わらず娘を娶りたいと言うなら応じないほうがおかしい。
子爵令嬢ではなく正当な侯爵令嬢になるのであれば、皇后のように爵位ロンダリングと言われて侮辱されることもない。
(5年以上前からすべて計画していたのかな。凄まじい執念だな。)

シアに結婚しようと言ったあの日、アークトゥルス宮の玄関ホールで帰りを待っていた殿下からは殺気を感じた。慕っているなんてレベルではなく執着と言っていいほどの深い感情を察した。自分も大概だが、皇太子が一人の女性にあんなに執着するものなんだろうか。
(しかし・・・アマニール侯爵の爵位奪取の件で状況が変わってしまった)
”平民の女の子からしたら皇子に愛されて結婚するのが夢物語だけど、貴族令嬢からするとワイマール公爵家が最高峰の嫁ぎ先”と多くの貴族令嬢が言う。金と権力があり自由に振舞えるからだ。皇子妃となれば公人だから公費の使い道には細心の注意が必要で、個人の裁量で独断的にできることは少なく、根回しに根回しを重ねても意見が潰されてしまうこともある。後継者を産む事が最重要な役割となり、そういう役割はシアのようなエリート女性たちは厭う事が多い。現在の皇后様もキャリアを諦めてよく嫁いだと思う。愛の前ではキャリアなんて些末なものなのだろうか。
少し前まで、シアと僕との婚姻は僕らにとっても両家にとっても良いことしかないと思っていた。ここに来て、アマニール断罪後はマクレガー家は皇室に寄るだろうし、父上はシアにこだわっていない。しかも入庁後の彼女はどんどんレオンハルト殿下に魅かれていて、このままだと完全に恋に落ちてしまう。
俺は好きな人の幸せをただ願う殊勝な人間ではなく、どんな方法を使っても俺が好きな人を幸せにしたいので必ず結婚する。僕は週末のワイマール家のローズガーデンパーティで彼女の退路を絶つことにした。
「シア、強引でごめん・・・。俺は君に大勢の人の前でプロポーズする。」
それでも勝算があるとは言い切れない。レオンハルト殿下は例え過去に俺とシアに体の関係があったとしても構わないと言っていた。つまり、シアに拒絶されない限り彼女を求めると言っているのだ。
思っていたよりも自分が打てる手が少なくて、レオンハルト殿下を侮っていたことを後悔している。
ついさっきまで真っ黒だったオセロの盤が一気に白に変わっていったときのような気分だ。
いつもよりも格段に赤く大きく見える衛星アルネを眺めながら僕はワインを一口飲んだ。
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