アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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太陽国からの使者(1/2)

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色々なことが気になって眠れなくなりそうなので、昨日は市販で売っている睡眠導入剤を飲んでから寝た。前日、全然眠れなかったので、暗くして目を閉じたらあっという間に落ちてしまった。朝食の席で殿下は眠そうな目をしていたが昨日は何時まで3人で飲んでいたんだろう。
「体調が悪そうですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫。昨日、アダルベルトとリオカウンティ家のヴィオリスと4時まで飲んでてちょっと眠い。」
どんな話をしていたんだろう。知りたいような知りたくないような・・・。
「急なんだけど、柏木製作所経営戦略室長の三谷執行役員が訪問してくることになった。レネー殿下とサルニア電力のホワイトレイ常務のスケジュールを確認して、明日夕刻以降から明々後日の間で2時間程度の会議を調整してほしい。」
「承知しました。」
仕事モードのスイッチを殿下が入れてくれて助かった。ここ数日、沈黙になると気まずいんだもの。殿下のほうは気まずいとか恥ずかしいとか・・・なさそうね。
****
柏木製作所の三谷常務との会議は翌々日の午後一番に設定した。
三谷常務は部下1人と海外担当の営業部長と秘書2人を伴って約束の10分ほど前に登城した。今回のレオンハルト殿下とレネー殿下は皇太子と皇帝側妃としてではなくブルマン家の当主代理として応対するので謁見という形は取らない。
「拝謁させていただきまして恐悦至極に存じます。本日は貴重なお時間をいただきましてありがたき幸せにございます。」
サルニア語で挨拶してきて、私達は面食らってしまった。通常、リズモンド大陸外の国の人と会話するときはアルーノ公用語が使われ、シノ大陸ではサルニア語の話者は希少だ。太陽国では義務教育でアルーノ語を習い、第二外国語は黎のチリマ語か地理的に近いエトリスチューナ帝国のハルテ語を習う。海外の営業担当が話せるのは納得だが経営戦略をする人達がここまで流暢に話せるということは、以前からサルニア帝国への本格進出を狙ってたのね。
名刺を交換して挨拶を行う。太陽国の人々は腹の中は分からないが礼儀正しくて朗らかなので話しやすい印象だ。
「マクレガー様はマクレガー製薬を営まれている家門の方ですか?」
サルニア帝国では貴族の姓は、血縁者しか名乗れないので、私の名前からマクレガー製薬を連想できるということはサルニアの制度や習慣もよくわかっているようだ。彼らが味方になるかどうか分からないが注意深く付き合う必要がありそう。
「はい、父が代表取締役兼社長です。」
「今、太陽国ではオリバー・マクレガー様が話題なのです。最初はサルニア初の新薬申請と滝田薬品工業の業務提携で経済紙が注目していたのですが、メディアでイケメン副社長として取り上げられまして行く先々で女性が待ち構えている状況です。」
お兄様、太陽国でムーブメントを作り出していたのね。
オリバーお兄様は、お父様似の金髪翠眼、見目麗しい独身男性だ。おまけに、高学歴でお金もあって貴族ときたら注目されるのも無理はない。太陽国は身分制度が100年以上前に完全撤廃されており貴族という存在がどこか夢物語の中の登場人物のように感じるらしい。
「そんなに話題になるならついでに上場もすれば良かったかもしれませんね。」
昨晩、太陽国で注目されている兄が連絡をくれていた。今夜、厚生労働省の担当者から紹介してもらった大学の同期の外務省職員と一緒に電話をくれるらしい。
「テレビの特集で見たのですがオリバー様を含めてご兄弟全員がとても有能だとか。マクレガー様はまだお若いのに皇太子殿下の側近なのですね。」
「恐れ入ります。」
純粋に褒められているのか、他意があるのかわからない。
殿下が私利私欲で若い秘書を置くような人物か否かを見極めようとしているのかもしれない。色に惑わされる権力者はそれなりにいるからね。殿下を見極めようとしているのであれば、気を引き締めないといけない。

挨拶が一通り終わるとそれぞれが席についた。サルニア電力の社員が提案依頼書を配る。まだドラフト段階だった提案依頼書を「RFPを明日までに完成版にしろ」というレオンハルト砲が担当者に投下され、彼らは徹夜で仕上げてくれた。主に柏木製作所の営業担当者とサルニア電力側の選定担当者が質疑応答をして大体の話が終わった。とはいえこのコンペは出来レースで柏木製作所は自国業者への当て馬だ。そのあたりの事情はあちら側も想定内だし提案依頼書RFPを出されたら企業は提案をせざるを得ない。しかし、これからの話が本題となる。切り出したのはレオンハルト殿下だった。
「パリシナ国を訪問していたようですが、リズモンド大陸で事業展開をなさるのですか?」
「いえ、まだそれは何とも。現在は諸々のことを多角的に検討しているところです。今回、リズモンド大陸への進出についてサルニア帝国の方とお話しできればと考えていたところ火力発電のタービンを提案してほしいと連絡をいただきまして渡りに船だったのです。」
お互い腹の探り合いはしないでストレートに会談をすすめるようだ。
「もしかしたら情報が入っているかもしれませんが、弊社はパリシナ国から経済特区への本社移転を提案されています。パリシナ国はパレイン王国から独立してそれほど経っていませんので法律の整備状況等もアルーノの主要国家並みに整っていますし、何といっても法人税率をかなり下げてくれるらしいので魅力的な提案です。」
「マクレガー秘書官、アリシア王女から法人税率について何か聞いてるかしら?」
「17%になるようです。太陽国の法人税が34.5%で柏木グループの法人税額が1兆2000億イェルですから6000億イェル以上の節税になります。柏木グループが本社を移転して税収を得るようになった場合はパリシナの国家予算の約5%を占めることになります。」
「どう思いますか?」
え?私ですか?と顔に思いっきり出してしまった。末端の意見を聞いてサルニア側のレベルを確かめたいのか。
「そうですね・・・わたくしの意見としては、御社は本社を移転させないと思います。国力の差がありすぎるので後ろ盾が乏しくなりますし、現在の為替ですと対サルニア・リルで1リルあたり40イェルほど為替の介入をしているようですがパリシナの国力では単独でそこまでの為替は介入できないでしょう。柏木グループの売上高は10兆イェルを超えているので政府の手助けが必要な時にパリシナ国が十分に対応できるか不安があります。そもそも法人税は黒字の場合しか課税されませんし・・・」
買収や投資をして黒字額を減らせば、株価を下げずに法人税額を押さえられる。
「確か、現在の首相は左派の方で思想が共産主義に近いんですよね。最低賃金の大幅増、法人税の増税、株式売買に対する増税、有事の準備金である内部留保の社員への還元を求めているとか。」
レオンハルト殿下が続けた。会社は公共事業ではなく利潤を求める団体だ。資本主義国家でそれを会社に求めるとなると財界からは反発は必須だ。太陽国の首相と企業の間に微妙な亀裂があることが伺える。
「ええ、消費者からすると耳障りが良い政策なので支持率は高いのですが個人投資家や大企業や官僚からの支持率はほぼ無いに等しいのです。我が国の個人の富裕層は海外移住を始めています。」
国の予算を支える税金の殆どが大企業と富裕層が支えている。太陽国は王室は残っているものの国民主権であり王室は象徴化されているため、選挙によって国の指針が変わってくる。選挙権は全ての国民に平等に与えられているため、多数派マジョリティである労働者層に受けのいい政策をアピールしがちになる。しかし、全体のことを考えると企業を優遇させて経済を循環させて国全体で豊かにするという施策が国民のためにも国全体のためにも良い点もあるのだが、すぐに国民の懐が温まらないので選挙票が欲しい政治家は声高に言いにくくなる。その結果、国の実務を行う官僚と敵対してしまう。国からの恩恵が殆どない個人の富裕層が税率の安い国に移住するのは自然な流れで、富裕層を叩けば支持率が上がるがそれによってその富裕層から得ていた税金を失うリスクがある。
「御社は太陽国政府を牽制したいということかしら?それとも国力が同等だからサルニアに移転してくるのかしら?」
「企業や国は長期的に見ると1+1が2にならないことが多いですから。」
つまり太陽国を牽制したいということかな?
「それで私たちに何を望んでいて、その対価に何を得られますか?」
三谷さんは穏やかに微笑んで「そうですね。」と言ってから人差し指を1本立てて言った。
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