アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

文字の大きさ
70 / 72

太陽国からの使者(2/2)

しおりを挟む
「一つ、太陽国の官僚か政治家からわが社の動向について聞かれたらパリシナ国から本社移転の話を受けていて検討中のようだと答えてください。」
今の条件なら本社の国外移転はないけれど、政府に揺さぶりをかけるのね。首相に言っても伝わらないから政権与党の国益重視の保守派から圧力をかけてもらう。こういう駆け引きを見ていると王政のほうが立ち回りやすい。もちろん王室が賢明な判断ができることが前提だけど。
「二つ、弊社からサルニア帝国に鉄道敷設の提案をさせてください。」
「三つ、それを実績としてソリアへの鉄道敷設を共同提案をしたいと考えています。」
「サルニア帝国への鉄道敷設の際は工場は極力サルニア国内で生産するつもりです。ソリアへの提案は太陽の複数企業が時間とコストをかけて開発した鉄道システムをサルニア鉄道は投資ゼロで共同提案できます。これは対価になると思いますがいかがでしょうか。」
Win-Winに聞こえる提案だが、鉄道を自国で敷設できるサルニア帝国が外資企業の鉄道システムを入れるとなると技術的な負けを公表しているようなものだ。
「サルニア帝国は鉄道を自力で敷設する資金も技術力もありますが。」
「私どもは電線が通っていない地域を蓄電池トラム式という充電式電池で走れる鉄道を提案したく存じます。鉄道システムはルミナス社との共同提案になります。」
ルミナス社はリチウムイオン電池という充電式の電池を開発して特許を持っている太陽国の大企業だ。従来の電池に取って変わった製品で最近はコードレスの家電も増えているが、電車のような大型のものを充電池で動かせるとは・・・。悔しいが蓄電池の技術力はサルニア帝国のほうが劣る。特許のことも考えると彼らの案を受け入れるほうが得策だろう。
「太陽国の国土に対する鉄道敷設率は世界一です。しかし、我が国はさほど国土が広くなく、国土の7割が山林で山間部で作られた電気が電線を通じてどこにいっても隈なく配線されています。」
さすが、ビジネスマン・・・彼らはこちらの矜持を守るために言い訳を用意してくれた。つまり、太陽国国内ではすでに必要な場所には線路が引かれていて電線が張り巡らされているため、蓄電池トラムを実用するために敷設する環境が整えられない。対してサルニア帝国は広大な国土ゆえ人が住んでいなくて電線が通っていない地域が多くあるため、蓄電池トラムの電車を採用するというのは合理的な案だ。
サルニア帝国の内陸南部は降水量がほぼ無く、赤褐色の荒蕪こうぶな砂漠地帯で人が生活をしていないエリアが多い。内陸南部には工業地帯がいくつかありその周りには都市があるが独立していて電力は都市ごとに火力発電で賄っており、小さい町だと生活から出る廃棄物などからバイオマス発電をしている。発電した電気は送電しても距離が延びるほど減衰して効率が悪いうえ、メンテナンスの費用が莫大にかかるため独立させているのだ。電線が伸びていないため電車も通せず、ある程度採算が取れなければ空港も設置されないし、道路も照りつける陽の光で劣化しやすく帝都までの移動も容易くない。内陸の帝国民は地理的な格差に不満をもっていて、鉄道を敷設すれば不満を解消する手助けになるはずだ。
彼らの持っている特許技術に並ぶものを作るにはかなりの時間を要するし、工場生産を自国でさせてもらえるというのであれば柏木製作所×ルミナス社に完敗したということにはならない。合同で他国に事業展開するのであればサルニアに試験導入的に採用したという理由付になる。
そして、ブルマン家にはこの案を受けたい理由が利益以外にもある。彼らにとって最も大きい利点の一つは、システムを採用するにあたってプロジェクトの主導権を握るのがワイマールではなく柏木製作所とルミナス社になることだ。ITの大型案件はワイマールが主導することが当然となっている今の体制を変えたいのだ。
「そのご提案は前向きに検討します。ところでソリアへ共同提案するのは何故ですか?」
レオンハルト殿下の質問に対して、三谷執行役員は少し困った顔をして答えた。
「実はパリシナ国から共同提案を申し込まれていたのです。」
「パリシナ国と太陽国では国力差が圧倒的に違うのに単独提案ではいけなかったのかしら?」
レネー側妃殿下の質問に三谷執行役員はいったん下を見てから意を決して言う。
「パリシナ国だけではなくエトリスチューナ帝国とサルニア帝国の貴族が噛んでいるのです。我々はエトリスチューナ帝国とはこの件での連携を望んでいないのですが、一企業が対抗するには少し心もとなかったので私たちも後ろ盾が欲しかったのです。グレート・ビリアは黎の独立デモ対応でバタついていてビリア国営鉄道は黎国内の安定運用に心を砕いています。」
声を掛けるとしたらサルニア一択だったのね。
経済の3極はサルニア帝国、グレート・ビリアを含むアルーノ・ユニオン、そして太陽国だが軍事に関してはサルニア帝国とエトリスチューナ帝国の2極だ。地理的にエトリスチューナ帝国が近い太陽国は常にエトリスチューナ帝国を牽制していないといけない。しかも海を挟んだ黎は大国で、今はグレート・ビリア傘下にあるので心配ないが支配が解けた際には黎とも緊張状態になるだろう。眠れる獅子を絶対に起こしてほしくない太陽国は、グレート・ビリアには黎の統治を完璧に遂行してもらいたいので余計な案件は振らない。
「エトリスチューナ帝国に何か問題があるんですか?」
確かに国と国であればあまり信用できない関係であるのかもしれないが、エトリスチューナ帝国の企業と協業するのであれば問題ないはずだ。
「はっきりとした懸念は無いのですが提案の内容に不安を感じたのです。サルニア帝国の複数企業の工場を誘致して鉄道を引き、発電所も作るという提案なのですが、発電の方法を原子力発電にするというのです。」
「あんなに火山がある国でですか?」
「そうなんです。火山が多いので弊社では地熱発電を主張したのですが折り合いがつかなかったのです。誘致予定のサルニア帝国の企業には軍事産業の企業もあったので不安になってしまいました。」

レオンハルト殿下もレネー側妃殿下も動揺を隠しているが一瞬だけ驚いていた。
ここで繋がった。
アマニール侯爵は核廃棄物を使って核弾頭を積んだ軍事衛星を打ち上げて世界中の国をいつでも攻撃できるようにしようとしているのだと思う。エトリスチューナ帝国が表立って開発しなかったのは国際的な批判を受けないようにするため。            
「わかりました。近々、正式に商談をしましょう。ご迷惑をかけないようにするので開示できる限り彼らが原発にこだわっていたという記録をいただけないでしょうか。」
「承知しました。協力できる範囲で開示しましょう。」
柏木製作所が反戦を声高に主張する企業だったことが幸いした。

****
柏木製作所の方々は話が終わってから、これからサルニア国内の視察に行きます!と言って意気揚々と空港に向かっていった。
「技術の進歩とともに人類は破滅に向っていると思わざるをえないですね。」
ルオンスがうんざりした顔でつぶやいた。何事にも良い面と悪い面があり、それは表裏一体だ。技術の進歩は人々を豊かにするが、悪意を持てば脅威につながる。
「アマニール侯爵の企みは阻止するし、エトリスチューナ帝国の好きにもさせない。」
「アマニール侯爵がエトリスチューナ帝国に情報を全部渡していなければいいんだけどね。」
「伯父は歴史に残る大罪人ですね・・・」
今まで父が勇気をもってアマニール侯爵に対する疑惑を告発したのでマクレガー家はアマニール侯爵断罪の余波はあまり来ないだろうと楽観的に考えていたが、その考えは甘いような気がしてきた。
「それに関しても配慮しているからあまり心配するな。」              
とても頼もしいと思いつつも、4月の黒い曇天のように私の心は晴れなかった。
****
柏木製作所の三谷執行役員に頼まれた通り、オリバーお兄様経由で紹介された太陽国の外務省官僚に柏木製作所がパリシナ経済特区への本社移転を検討していることを伝えた。
菅野さんという官僚は、淡々と話を聞いて応対していたのである程度、認知していたことだったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...