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手袋の行方(1/3)
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怒涛の一週間が終わり、今日はワイマール公爵家で行われるガーデンパーティの日だ。公爵夫人には子供のころから良く家に招いてもらっていたが、卒業してから会うのは初めてだった。
「はぁ・・・」
ため息をつく私にマルティナさんが「パーティに行くのにどうしたんですか?」と聞いてくる。
「今日のパーティで穏やかに過ごせる予感がしない。せっかく帝国一の薔薇園に行くのに愛でるチャンスはなさそう。」
「羊の数でも数えて時が過ぎるのを待ってください。ところで髪型はどうしましょうか。」
「それ、寝れないときのでしょう。このカンザシというものを刺したいから、髪を一筋垂らしてあとは緩めにアップにしてください。」
「カンザシ?女忍者が武器にしているやつですか?」
サルニア帝国では忍者はヒーロー視されてて子供の
「あはは、そうそう。先日会った太陽国の方から頂いたんですよ。これはつまみ細工っていう手法らしいです。今日は薔薇をつけるけど藤の花バージョンが華やかで可愛いんですよ。」
ちなみに服は白いロングワンピースに薔薇柄の黒いレースで覆ったも落ち着いた装いだ。宝石類は私の瞳に合わせた濃いガーネットのピアスとチョーカーを控えめにした。
「サルニア風にアレンジしたら売れるかもしれませんね。作ってみようかな。」
「いいですね。貴族の間でブームになれば小遣い稼ぎができそう。」
そんな話をしていたらレオンハルト殿下とルオンスが迎えに来たようで書斎から声がして片付けをしていたメイドが応対している。準備を終わらせて彼らの元に向かうと殿下は美少女の花笑みも太刀打ちできなさそうなキラッキラの笑顔で迎えてくれた。
「今日も美しいね。毎日会うたびに恋に落ちてしまうよ。」
ルオンスはゲンナリした顔をしていたけれど、最近は恥ずかしいと思う感覚が麻痺してきて照れることもなくなってきた。そして彼の言葉がまんざらでもなかったので、つい嬉しくてニヤけてしまう。
「殿下もとても素敵です。」
何度見ても髪を上げた姿が好み過ぎてうっとりと見つめた。ルオンスは胸やけしたような表情で軽く会釈した。
「なんか薔薇薔薇してるね。」
「今日は薔薇の園遊会だからね。」
「楽しめるといいね。」
残念ながら私もあなたも楽しめないでしょうね。
ルオンス、レオンハルト殿下、私の護衛のレオナルドさん、そして私が車でワイマール公爵邸に乗りつける。ドアが開く前にルオンスが気まずそうな顔をする。何なんだろうと思っていると車止めのところでシオンが待っていてくれたのだ。ガーデンパーティの場合、ホストは庭の入り口の前で待っているのが慣例なんだけれど・・・。
レオナルドさん、ルオンスの順に降りて私の番になるとシオンが優美に彼の美しい手をスッと出した。
切れ長の形良い目は細められてシオンのアイスブルーの美しい瞳は春の穏やかな空のように美しかった。久々に見た妖魔のように美しい友人に、思わず見惚れてしまう。
私は微笑んで彼に手を重ねようとすると後ろから圧を感じ、次の瞬間、私が触れようとしていたシオンの手にレオンハルト殿下が私の後ろから手を重ねてきて、私をまたいで先に降りた。
ルオ・ナルド:「えっ!?」
シ:「は?」
私:「なっ!」
それぞれが短く驚きと抗議の声を上げる。レオンハルト殿下はしれっとした顔をして今度は空いているほうの手を私に差し出してきた。
(え?この手を取れと?)
戸惑っていると今度はシオンが殿下の差し出した手に彼の手を重ねた。
・・・シュールだ。
犬猿の仲の金と銀の美丈夫が向かい合って手を取り合っている。私は犬がお手をするように出したままの手と地面に足をつけようと車からちょっと出した足をひっこめるべきかこのままでいるべきか困ってしまう。ルオンスとレオナルドさんを見ると2人は居た堪れないといった顔で私を見ていた。
私は咳ばらいをしてから両手を出した。2人ともすぐに気付いてそれぞれ手を取り、手の候に口づけした。
「ぷっ。女王様みたい。」
「意外とお二人は息ピッタリですね。」
ルオンスとレオナルドさんが小さな声で話しているのが聞こえる。園児のように3人で手を繋いでいる姿を誰にも見られてないといいんだけど、と思って周りを見たらこっちを見てセンスで口を隠している婦人が数名いた。
(最悪。もう泣きたい。)
バラ園に案内されるとバラ園の入り口であるオレンジ色と桃色の薔薇のアーチの前でワイマール公爵夫人が出迎えてくれた。夫人は私たちを見ると一瞬目をピクリとさせたが何事も無いように微笑んで挨拶してくれた。
「シオン。あなたは今日、ホストなのよ。開始時間までは私とここでお出迎えをしないさい。レオンハルト殿下とリリちゃんはどうぞゆっくりと散策してください。」
シオンが不安そうな顔をしたので、
「リナたちと一緒にいる。また後でね。」
と伝えた。レオンハルト殿下は夫人に礼を言って私の背中に手を回し優しく誘導する。背中に回された手は私の腰に滑り降りてきた。
皇太子の来訪に気付き、老若男女様々な人が挨拶に来る。挨拶に来た人達は私の腰に回された手をちらっと見て、どういう対応をしていいのか困っていた。
そして私も自分より地位の高い人たちが頭を下げているのに私が殿下の隣で堂々とそれを聞いている訳にもいかないので困っていた。
居心地悪い雰囲気で困惑していたところ、とても会いたかった人を見つけたので腰に添えられていた手を上から握って引き剝がした。そういえば、今日の殿下は珍しく手袋をしている。正装と言えば手袋だが楽な服を好む彼はこんな陽気のいい時期に熱が籠る手袋は極力敬遠しそうなものだけど・・・。
「どうした?」
「あ、えーと、母と話をしてきてもいいでしょうか。」
「・・・わかった。後で迎えに行く。」
本当は走って母の元に駆け寄りたいが、ぐっと我慢してなるべく優雅に歩く。それでも少し早足になってしまって後で説教されそうだ。友人と歓談中の母に声を掛けてよいか少し離れたところで伺っていると母の友人の一人がこちらに気付いて「お久しぶりですね」と声をかけてくれると母も私に気付いた。母は優雅に歩いてきて「お母様!お会いした・・・」と言ったところでハグをしてきた。
「私の可愛い末娘は恋したのね。すごく綺麗になったわ。」
驚いてお母様のほうへ顔を向けると、思わず惚けてしまいそうなほど美しく慈愛に満ちた微笑みで私を見ていた。
「初恋にしては遅すぎるけどね。少し心配してたのよ、あなたはこのまま恋を知らずに結婚するのかもって。」
ちなみにわたくしの初恋は7歳の時よ、とお母様は付け加えた。
母の友人たちに挨拶をしているとゾワッと悪寒を感じた。
「ごきげんよう、マクレガー子爵夫人。」
声のする方を見るとアマニール侯爵夫人とピロットノブ子爵がにこやかに近寄ってきた。
(アマニール夫人がお母様のところにいらっしゃるなんて意外だわ。この2人は合わないのよね・・・)
「はぁ・・・」
ため息をつく私にマルティナさんが「パーティに行くのにどうしたんですか?」と聞いてくる。
「今日のパーティで穏やかに過ごせる予感がしない。せっかく帝国一の薔薇園に行くのに愛でるチャンスはなさそう。」
「羊の数でも数えて時が過ぎるのを待ってください。ところで髪型はどうしましょうか。」
「それ、寝れないときのでしょう。このカンザシというものを刺したいから、髪を一筋垂らしてあとは緩めにアップにしてください。」
「カンザシ?女忍者が武器にしているやつですか?」
サルニア帝国では忍者はヒーロー視されてて子供の
「あはは、そうそう。先日会った太陽国の方から頂いたんですよ。これはつまみ細工っていう手法らしいです。今日は薔薇をつけるけど藤の花バージョンが華やかで可愛いんですよ。」
ちなみに服は白いロングワンピースに薔薇柄の黒いレースで覆ったも落ち着いた装いだ。宝石類は私の瞳に合わせた濃いガーネットのピアスとチョーカーを控えめにした。
「サルニア風にアレンジしたら売れるかもしれませんね。作ってみようかな。」
「いいですね。貴族の間でブームになれば小遣い稼ぎができそう。」
そんな話をしていたらレオンハルト殿下とルオンスが迎えに来たようで書斎から声がして片付けをしていたメイドが応対している。準備を終わらせて彼らの元に向かうと殿下は美少女の花笑みも太刀打ちできなさそうなキラッキラの笑顔で迎えてくれた。
「今日も美しいね。毎日会うたびに恋に落ちてしまうよ。」
ルオンスはゲンナリした顔をしていたけれど、最近は恥ずかしいと思う感覚が麻痺してきて照れることもなくなってきた。そして彼の言葉がまんざらでもなかったので、つい嬉しくてニヤけてしまう。
「殿下もとても素敵です。」
何度見ても髪を上げた姿が好み過ぎてうっとりと見つめた。ルオンスは胸やけしたような表情で軽く会釈した。
「なんか薔薇薔薇してるね。」
「今日は薔薇の園遊会だからね。」
「楽しめるといいね。」
残念ながら私もあなたも楽しめないでしょうね。
ルオンス、レオンハルト殿下、私の護衛のレオナルドさん、そして私が車でワイマール公爵邸に乗りつける。ドアが開く前にルオンスが気まずそうな顔をする。何なんだろうと思っていると車止めのところでシオンが待っていてくれたのだ。ガーデンパーティの場合、ホストは庭の入り口の前で待っているのが慣例なんだけれど・・・。
レオナルドさん、ルオンスの順に降りて私の番になるとシオンが優美に彼の美しい手をスッと出した。
切れ長の形良い目は細められてシオンのアイスブルーの美しい瞳は春の穏やかな空のように美しかった。久々に見た妖魔のように美しい友人に、思わず見惚れてしまう。
私は微笑んで彼に手を重ねようとすると後ろから圧を感じ、次の瞬間、私が触れようとしていたシオンの手にレオンハルト殿下が私の後ろから手を重ねてきて、私をまたいで先に降りた。
ルオ・ナルド:「えっ!?」
シ:「は?」
私:「なっ!」
それぞれが短く驚きと抗議の声を上げる。レオンハルト殿下はしれっとした顔をして今度は空いているほうの手を私に差し出してきた。
(え?この手を取れと?)
戸惑っていると今度はシオンが殿下の差し出した手に彼の手を重ねた。
・・・シュールだ。
犬猿の仲の金と銀の美丈夫が向かい合って手を取り合っている。私は犬がお手をするように出したままの手と地面に足をつけようと車からちょっと出した足をひっこめるべきかこのままでいるべきか困ってしまう。ルオンスとレオナルドさんを見ると2人は居た堪れないといった顔で私を見ていた。
私は咳ばらいをしてから両手を出した。2人ともすぐに気付いてそれぞれ手を取り、手の候に口づけした。
「ぷっ。女王様みたい。」
「意外とお二人は息ピッタリですね。」
ルオンスとレオナルドさんが小さな声で話しているのが聞こえる。園児のように3人で手を繋いでいる姿を誰にも見られてないといいんだけど、と思って周りを見たらこっちを見てセンスで口を隠している婦人が数名いた。
(最悪。もう泣きたい。)
バラ園に案内されるとバラ園の入り口であるオレンジ色と桃色の薔薇のアーチの前でワイマール公爵夫人が出迎えてくれた。夫人は私たちを見ると一瞬目をピクリとさせたが何事も無いように微笑んで挨拶してくれた。
「シオン。あなたは今日、ホストなのよ。開始時間までは私とここでお出迎えをしないさい。レオンハルト殿下とリリちゃんはどうぞゆっくりと散策してください。」
シオンが不安そうな顔をしたので、
「リナたちと一緒にいる。また後でね。」
と伝えた。レオンハルト殿下は夫人に礼を言って私の背中に手を回し優しく誘導する。背中に回された手は私の腰に滑り降りてきた。
皇太子の来訪に気付き、老若男女様々な人が挨拶に来る。挨拶に来た人達は私の腰に回された手をちらっと見て、どういう対応をしていいのか困っていた。
そして私も自分より地位の高い人たちが頭を下げているのに私が殿下の隣で堂々とそれを聞いている訳にもいかないので困っていた。
居心地悪い雰囲気で困惑していたところ、とても会いたかった人を見つけたので腰に添えられていた手を上から握って引き剝がした。そういえば、今日の殿下は珍しく手袋をしている。正装と言えば手袋だが楽な服を好む彼はこんな陽気のいい時期に熱が籠る手袋は極力敬遠しそうなものだけど・・・。
「どうした?」
「あ、えーと、母と話をしてきてもいいでしょうか。」
「・・・わかった。後で迎えに行く。」
本当は走って母の元に駆け寄りたいが、ぐっと我慢してなるべく優雅に歩く。それでも少し早足になってしまって後で説教されそうだ。友人と歓談中の母に声を掛けてよいか少し離れたところで伺っていると母の友人の一人がこちらに気付いて「お久しぶりですね」と声をかけてくれると母も私に気付いた。母は優雅に歩いてきて「お母様!お会いした・・・」と言ったところでハグをしてきた。
「私の可愛い末娘は恋したのね。すごく綺麗になったわ。」
驚いてお母様のほうへ顔を向けると、思わず惚けてしまいそうなほど美しく慈愛に満ちた微笑みで私を見ていた。
「初恋にしては遅すぎるけどね。少し心配してたのよ、あなたはこのまま恋を知らずに結婚するのかもって。」
ちなみにわたくしの初恋は7歳の時よ、とお母様は付け加えた。
母の友人たちに挨拶をしているとゾワッと悪寒を感じた。
「ごきげんよう、マクレガー子爵夫人。」
声のする方を見るとアマニール侯爵夫人とピロットノブ子爵がにこやかに近寄ってきた。
(アマニール夫人がお母様のところにいらっしゃるなんて意外だわ。この2人は合わないのよね・・・)
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