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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-6 神の武器、村に行く
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少女は村を囲う石垣に座り足をプラプラさせながら街道を見つめていた。
昼時からすでに数刻が過ぎた。
時期に日も暮れ始める。
その少女が待っていたのは月に一度訪れる行商人だった。
ただ待っていたのは服でもなく、本でもなく食べ物でもない。
年の経たロバであった。
10歳になるその少女はいつも畑仕事などの手伝いをしていた。
小さな農村では子供も必要な働き手である。
三年ほど前から行商人のハンスさんのロバの世話をする役目を父から命じられた。
ハンスさんが滞在する数日の間は仕事の手伝いを免除するから、と言われ喜んで引き受けた。
最初は辛い畑仕事が嫌で受けた世話だったが、顔を舐め頭を擦りよせ甘えてくれるロシナンテが好きになっていた。
散歩に連れ出しても、少女の後ろをポクポクと歩き振り返ると首を傾げて顔を擦りよせてくる。
ある時ハンスが言ってた。
「ロシナンテはミナちゃんの事が好きみたいだね」と。
嬉しく思い「本当?!」と聞き返す。
「ここにくる前の街からこの村に来る時だけ、歩く速度が速くなるからね」
ロシナンテは「変な事を言うな」と言わんばかりの体当たりをハンスにして「照れるなよ」などと言い返していた。
そんな事を思い出しながら、遠い目でボーッと先を見ていたミナの目に、森の中を抜ける街道の入り口に一台の馬車が見えた。
「おかーさーん!ハンスさんきたよー!」
とミナは村の中へと走り出した。
ただ、馬車を引いていたのはロシナンテではなかった。
まさかそれが白いローブを纏った女性であったとは気づくはずもなかった。
神の武器は荷台に上がり血に染まった修道女の傍らで、手を振るい血跡と傷口を消した。
そして仰向けにして手を組ませてやった。
赤子を降ろし、「暫し待て」と伝えると、御者席から飛び降りて足元にいた青年の血跡と切り傷を消して抱きかかえ荷台に乗せた。
そして同じように手を組ませ静かに黙祷を捧げた。
ヒトの身体を成してからの考察の中で、形式というものを意識しはじめた。
赤子の母を弔った時に何故わざわざ手を振るい魔法を成したのか。
食事の時の挨拶のようなもの。
無意味かもしれない。
不必要かもしれない。
自己満足なのかもしれない。
だからこそ意義がある気がした。
主よりの神託もない降臨の目的も分からない。
今己にあるのは所有者を守る事。
そして命をかけて守ったであろう母への誓い。
なら己も一つの生命として優しくないこの世界を生きよう。
その考えに至った時、無駄かもしれないその事を何故か大事にしたいと思った。
ただ野盗達は使えそうな腰に巻く剣帯とショートソードを回収して、崖にポイポイっとしておいた。
状況に応じる事も大事だ。
「恐らくこの先の村へ・・・んん!」
(向かうところだったのだろうな)
積荷を見てそう判断した。
そして独り言への意識も欠かさない。
赤子の種族的な特徴を踏まえた上で安全面を考えるなら、人への接触は避けた方がいい気はした。
だが神の武器には目的があった。
それは調味料。
小川沿いに歩きながら山菜や果物、魚などを食べてみたが何か物足らなかった。
食べる事に喜びを感じはしたが、記憶の中の所有者達から伝わった喜びには及ばない気がした。
それを使う事できっと変わる何かがあるのでは?
そう思った。
(・・・この者達の知り合いもいるやもしれぬ)
と、亡骸と積荷を届ける事にした。
とはいえ、山中ならまだしも人里に全裸で行くわけにもいかない。
積荷の中には女性用の衣服もあった。
だが商売品に手をつけるのは良くない気がした。
買い取るお金も無い。
神の武器が気になったのは女性の荷物から飛び出したソレだった。
どうせならソレを着たいと思った。
オリハルコンは神である管理者の一柱により作られ、一柱の長たる主神により地へと派遣される。
そんな神の武器が主や柱に関わるものに興味を示すのは仕方がないだろう。
「すまぬが一着貰い受けるぞ」
女性の亡骸に頭を下げてから純白の修道服に袖を通した。
腰留めの帯代わりに剣帯を巻いた。
下着も履いた方がいいとは思ったが「他は売り物だ」「少女の下着は主とは関係ない」と諦めた。
野盗との扱いの差が窺い知れる。
外套変わりの布は2人に掛けた。
赤子を抱えてロバの身体と紐を外し、その部分を手で持って荷台を引こうとした。
「あー!!あー!!」
と赤子に髪を引っ張られる。
「い、痛い、痛い、なんだ?」
神の武器は赤子の顔を覗き込み首を傾げる。
(オムツではないな・・・不満?お腹が減った訳ではなさそうだが?)
この数日で己の特性を見出していた。
赤子が機嫌がいい時は幸福感。
少し離れると不安感。
オムツが気持ち悪いと嫌悪感。
お腹が空くと不満感。
精神感応物質オリハルコンであった神の武器は、ヒトになってもその特性失わなかった。
それに気がついてから赤子の世話が楽になったのは言うまでもない。
野盗と顔を合わせた際のやり取りもそのせいだった。
(不満感を発し出したのは・・・)
思案しつつロバを魔法で浮かせる。
「だーあー」
「いやいや、所有者よ、ロバまでは良いであろう!」
「やー!あー!」
「わ、分かったから髪を引っ張るな」
諦めて魔法でロバの首を繋いで、詰め詰めではあるが何とか荷台に乗せた。
「荷台を引くべきロバを載せて運ぶとか、我の記憶にもないぞ?」
その前に背丈程の小型とはいえ荷台を一人で引く女性というのも記憶に無い筈だ。
赤子が満足感を出したので「仕方ない」と苦笑いを浮かべ荷台を引き始めた。
最初は指を指しながら声を上げている少女が見えた。
幾人かの村人がそれに合わせて村から出てきた。
そして神の武器が村に近づくにつれて村人達の感情が伝わった。
(むう、やはり目立つか)
種族的なものと勘違いをいていたが、いくら剣と魔法のファンタジー世界とはいえ、純白の修道服を身に纏った女性が片手で赤子を抱き、もう片方の手で背丈ほどの幌付きの荷台を引っ張っていたら、驚愕以外のどの感情を示せば良いのであろうか?
(まぁ、危なそうならいつでも逃げられる)
寧ろ調味料を手に入れる機会だとしか神の武器は思っていなかった。
荷台に調味料が乗っていてもだ。
少し離れた所からザワザワしている村人達に声をかけた。
「あーすまぬ、警戒しないでくれ」
そう言われて警戒しない人は少ないだろう。
「先の道で野盗に襲われていたこの馬車を見つけ、この村に所縁の者かと持ってきたのだが・・・」
ざわつく村人達をかき分けて一人の小太りの男性が前に出てきた。
「あ、あの、村長をしておりますアーダと申します・・・えー、それでその馬車の人は・・・」
顔を引きつらせ噛み噛みながらも目の前の現状を確認して来た。
「ああ、生きている者はいなかった、残念ながら」
そう答え村人達の感情を探る。
悲壮、驚愕、疑念。
殺意や嫌悪感を感じなかったので神の武器一先ずホッとする。
「後ろに乗せてきた、良ければ弔ってやってくれ」
村長から強い悲壮感が漂う。
顔はまだ見ていないが心当たりがあるのだろう。
「・・・そうですか、すみません、有難う御座います、あの・・・貴女は?」
と、問われてハッとした。
出自の設定は決めていたが名前までは考えていなかった。
「我か?・・・お、オリハという」
センスはなかった。
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