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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-7 神の武器、名付ける
しおりを挟む馬車を村の広場に運びながら、オリハは抱いている赤子の事を考えていた。
唐突ながら我は良き名を考えたものだ。
ならこの子はどうする?
いつまでも所有者と呼ぶわけにもいくまい。
そうこう思案する間に広場についた。
荷台を覗き込んだ村長が眠っているかのような遺体に驚いていた。
血と切り傷は不憫だったので、魔法で処置をしたと伝えた。
男の方は良く村に来ていた行商人で、村の人達にも愛されていたらしくとても感謝をされた。
ロバが乗っていたのにも驚いたようだが、村のために今まで頑張ってくれていたので、しっかりと供養すると言ってくれた。
修道女は誰も見覚えがなかったので、村の神父が問い合わせてくれる事になった。
神父がオリハの姿を見て「旅の宣教師ですか?」と聞いてきた。
宣教師ではなく修行者で山の小川で水浴びをしていたら置き引きにあい、全裸で山中を彷徨っていたら、襲われた馬車を見つけ、野盗を討伐し修道服を借りたと、前もって考えていた設定を話した。
売り物の女性服に手をつけるのは気がのらなかった、と言い訳を伝えるころには、疑念の感情は感じなくなっていた。
だが驚愕の感情はいつまでも感じられたらしい。
解せなくはない。
商品は村人達で分けて買い求め、売上金は村長が商人の遺族に渡す事になった。
日も暮れてきたので弔うのは明日になり、遺体は教会が預かるようだ。
遺体を運び出す時には、また悲壮感が漂いだした。
この光景を眺めていたら(もう少し早くついていれば・・・)と神の武器は思わずにはいられなかった。
10歳くらいの少女が目に大粒の涙を溜めて、強い悲しみと感謝の感情をオリハにぶつけてきた。
「お姉ちゃんが・・・ロシナンテを連れてきてくれたの?」
(ロシナンテ?・・・ロバの事か)
そう問われたオリハは感謝の感情に戸惑いを感じ、正直に答えざるをえなかった。
「いや違うのだ、我ではない」
ゆっくりと諭すように。
腰を落とし少女の目線に合わせる。
抱いた赤子を見やってさらに言葉を続けた。
「この子がな、どうしても連れてけ、とな」
「だー!」
少女がありがとうと赤子の頭をなでた。
「名はなんという?」
「ミナ・・・です」
「友達だったのか?大好きだったのだな」
柔らかい声でオリハは問いかける。
ミナが首をぶんぶんと縦に降る。
大粒の涙がその都度地面に降り注ぐ。
「愛された魂はな、天へと還って生まれ変わる時、また愛されたいと、愛してくれた者の近くに産まれてくるのだ」
ミナがどういう事?と首を傾げる。
言い方を思案して、神の武器は少し困ったような笑みを浮かべてこう答えた。
「これから出来るかもしれぬ弟や妹か、汝がいつか産む子になるかもしれぬ、という事だ」
「だから明日は、また会おうとしっかりお別れをするのだぞ?」
ミナをそっと抱き寄せる。
「だから明日に残さずにすむよう、今は悲しみをしっかりと吐き出しせ」
オリハの服をぎゅっと掴み、堰を切ったように嗚咽をあげた。
釣られて赤子が合唱を始めた。
(な、なぜ所有者まで!?)
オリハは少し諭してしまった事を後悔した。
だが浮かんでいた表情はそれとは裏腹だった。
辺りが暗くなる頃、落ち着いたのかミナは「ロシナンテに会ってくる!」と手を振って走っていった。
赤子から伝わる感情が少し変化を始めて、お約束の時間が近づいてくる気配を感じた。
「あーすまぬ、村長」
返事がないただの村長のようだ。
「村長?」
「はっ!す、すいません、なにか?」
と、慌てて応える。
「いや、そろそろこの子に乳をあげる時間でな」
「は、はぁ」
「この修道服、頭から被るやつなのだ」
「はぁ」
「先程申したようにこの服だけ頂いたので、脱ぐと全裸「き、気がつきませんで!よろしければ我が家で!あ、嫁と娘も居りますので!」
「い、いや、こちらこそ申し訳ない、お気遣い感謝する」
あまりの勢いに少し気圧されてしまった。
家に案内されながら「後でいいので少しお話しが」と言われたので了承した。
神の武器も聞きたいことがあるからだ。
村は上から見下ろすと四角形になっていた。
外輪から畑が広がり、内に多数の家が中心の広場より放射線状に立っていた。
害獣や魔物が出ても、家々まで被害が及ばぬよう考えられたものなのだろう。
村長の家は広場の前にあった。
村長は数人の村人に声をかけ、一刻後に集まるよう伝えていた。
周りの家よりも少し大きかったが、室内に入った事でその理由がわかった。
10席程の椅子と木製のテーブルがおいてあった。
恐らく村人達の集会所も兼ねているのであろう。
見たところ贅をなしているわけではないが、貧している事もなさそうだ。
村長に奥方と娘を紹介された。
奥方は村長より一回りふとましく、娘は半分といったところ。
もうすぐ16歳になり成人を迎えるらしい。
二階の客室へ案内された。
こじんまりした部屋だが充分な大きさだ。
「あるものは自由に使ってください」「お湯をお待ちします」と部屋を出て行った。
赤子をベッドに寝かせてから剣帯を外し服を脱いだ。
浄化魔法をかけ壁に掛けていたハンガーを使わせてもらった。
「うむ」と腕を組み全裸で仁王立ちする。
オリハは修道服をとても気に入ったようだ。
そして限界に達した赤子が泣きだしたので、急いで赤子の服を脱がせ、オムツも外してやる。
開放感により放射される液体を魔法で受け止め球状にまとめ、別に小さい球状のお湯を出してお尻を綺麗にした。
小窓を開け液体を外に出し、布オムツを魔法できれいにして、赤子を抱き抱え乳をあげた。
外を見ながらオリハは呟いた。
「良き村だ」
少なくともここまでで、オリハに向けられる種族的な嫌悪感は感じられなかった。
見知った人間が不幸にあったので悲壮感は多く感じられる。
不幸を成した者に対しての憎悪も漂っている。
だがオリハはそれ以上に慈しむ優しさを感じていた。
いい意味で肩透かしされた気分でいた。
希少種族が人の村に入ったとして、想像していた向けられる感情と大いに異なっていたからだ。
前に降臨してから幾歳月を経たのだろうか?
この世界の民に変化があったのだろうか?
情報収集の必要性を感じた。
ノックがあり「お湯をお持ちしました」と声がしたので振り返り入室を促す。
ドアを開けた奥方と娘がオリハを見て固まっていた。
オリハは慌て全裸であった事の非礼を詫びた。
だが「いいものを見た」「眼福でした」と感謝を述べられた。
悪い感情はなかったのでホッとする。
設定である修行者で置き引きにあい、荷物が無いこと、その修道服は貰い物だが気に入っている事を伝えた。
奥方は小さな机の上に桶とタオルと肌着、布オムツの替え、下に白い靴を置き、目を輝かせながら「着替えの服を用意する、させてくれ」と強い圧を伴い詰め寄られ、承諾させられた。
娘と無言で頷きあい、ブツブツと何か言いながらドアを閉めた、が又直ぐにドアが開き「落ち着いたら下に降りて来て下さい、食事を用意しています」と伝えて出ていった。
色々考えていたオリハの頭の中は、ちゃんとした御食事というものに染まっていった。
修道服を着て眠りについた赤子を抱き部屋を出る。
階下には先程の神父も含め、十人ほどの村人が集まっていた。
「すまない、世話になる」
「いえ、こちらこそ助かりました」
と挨拶を交わし、着席を促される。
こういう場では礼式があった記憶があったが、あいてる席が一つだったので気兼ねなく座れた。
その後改めて村長よりお礼を告げられる。
どうやら賊の襲撃など滅多にないらしい。
オリハはエルフ種の寿命を鑑みて、100年程、魔導の研究と武芸の研鑽で人里離れたところにいたため、世辞に疎いと伝えた。
「では、赤子が産まれて街に?」
オリハは少し悩んだ。
我が子と誤魔化しても問題はないが、正直に話したとしても些事だ、と考えついて答えた。
「いや、この子は山の中で拾ったのだ」
「山の中で、ですか?」
「ああ、賊に追われたのだろう、近くに母親と思しき亡骸もあったのでな」
悲痛な空気が流れた。
(・・・我が子だと言っておいた方がよかったか?)
母親の横に立って話を聞いていた村長の娘が疑問を呈した。
「出産しなくても母乳って出るものなの?」
オリハはその問いに愕然とした。
心の中で頭を抱えた。
(や、やはり我のスキルは・・・)
その問いに神父が「未出産であっても授乳できた女性の記録は教会にもあるんだよ」と答えてくれた。
(おお神父よ、汝に主の祝福のあらん事を!)
どちらが祈る側なのかよくわからない話である。
そして名前の話になりまだ名付けていない事を伝えた。
この際、決めておいて問題ないだろうと。
「我が決めても良いのか?」
「先程の母乳の話もありますが、むしろ貴女が付けてあげた方がよろしいかと思います」
「そうか、なら・・・ハルと呼ぶか」
オリハルコンの中抜きだった。
やはりセンスは皆無だ。
わいわいとした空気の中、春に拾ったからですか?と言われ苦笑いを浮かべるオリハだった。
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