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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-15 神の武器、旅立ち
しおりを挟む広場の喧騒が静けさとなり、篝火が色を失いパチパチと音を立てるだけになった頃、オリハはベッドの上で高揚を抑えられずゴロゴロとしていた。
ハルが鬱陶しそうにモゾモゾと動き出し、自粛して動きを止める。
そして酒の味と壁に掛けられた新しい服を見てニヤニヤとしゴロゴロと転げ回る。
そんな事を二度三度繰り返していた。
オリハルコンだった頃に様々な衣服を視てきた。
町娘の服から果ては女王のドレス。
防御力の欠片も無いビキニアーマーや、多種に渡る民族衣装やウェディングドレスまで。
だが神の武器にとっては興味の外であった。
全裸で世に降り立ち興味本位で着た修道服。
恐らく普通の衣服をもらい受けたとして、村から見えなくなったら着替えたかもしれない。
衣服や身につけるアクセサリーにおける女性の執着。
過去の記憶で服選びに時間をかけた者。
どれでも同じだ、と答えられ憤慨した者。
それをなんと無くではあるが理解した。
オリハは受肉してから起きた様々な事を思い出していた。
肉体を得て五感を刺激された。
洞窟の外で悪意の残骸と敬意を。
空腹感と食欲。
身に受けた悪意。
人が他者を慈しみ尊ぶ感情。
自分で編んだ魔法理論の実践。
(ああ、あれは楽しかった)
獣人族の所有者の手に渡った時の記憶だ。
種族全体が人族魔人族により迫害され、一人の獅子族の戦士の腕輪となった。
効果は単純なものだった。
圧倒的速度の上昇。
しかし元々個の戦闘能力の高い獣人がその能力を得て、切り裂く爪は炎を伴った。
火炎獅子の異名をもって、古代獣王国初代獣王となる。
王の座を強者の理論で語った彼が、獣人の守護という存在証明を確定させ、神鉄が天へと戻った後どうなったかは言うまでも無い。
その解放戦線の中で戦略魔法、環境顕現魔法とされた術式。
四人以上で範囲を指定し、その範囲に極寒の地を顕現させる。
本来なら威力を伴わない魔法だ。
だが人族や魔人族と異なり毛皮を着る獣人族にとっては、優位な環境となり得るのは言うまでもない。
犬は喜び庭かけまわる、だ。
猫だって毛皮を着ているのだから人族よりマシである。
ただ寒いのと濡れるのが大嫌いなだけで。
それを魔力で強制的に圧縮して、極寒の地から絶対零度の地に変えたのだ。
尚、これは古代言語ではない。
獣人が編み出したものだ。
強いて言えば古代獣人言語といえるだろう。
オリハルコンとして様々な魔法理論を視てきた。
オリハが感心するものもあれば無駄なものもあった。
そして思いついても口出しも助言もできなかった。
そんなオリハが思いついてその場で実践したのだ。
愉快でないはずかない。
結果としてロストマジック、失われし魔法と呼ばれるものの中で、氷系最強と言われた氷獄魔法を遥かに超える威力となったのはここだけの話だ。
そして味わう事の喜び。
酒を嗜む事の喜び。
母となっ・・・た?・・・
思い出し身悶えるオリハであった。
一頻り身悶えてようやく眠りについたがハルに起こされた。
また眠りにつくが、直ぐに明るさを覚え目を覚ました。
いつもの目覚めより幾許かの気怠さを感じる。
(ふむ、酒の影響か?)
ぼーっとした頭を掻きながらハルを見る。
母乳を必要としなくなれば夜泣きもなくなるのだろうか?
そんな事を考えながら伸びをする。
ノックがあり入室を促した。
「起きてらっしゃいました?おはようございます」
寝過ごしたか?と詫びを入れるが「お父さんもまだ寝てますから毛をむしって起こしてきます」と言うので「程々に」と苦笑いで返した。
お湯を張った桶とタオルと替えの黒い下着を持ってきた。
「お母さんと話し合った結果、オリハさんには黒の下着で決定しました!」
と仁王立ちで宣言された。
尚、この世界にブラジャーはない。
イメージとしては胸部のみの伸縮性の高いタンクトップ、が近いと思う。
「今日は何を着ますか?」と聞かれたので、作ってもらったタイトドレス型の服を選んだ。
「残りの服は荷に入れて起きますね」と服を持ちドアに向かう。
「あの、オリハさん」
「昨日の事・・・私もそう思われてるのかなって思ったら・・・嬉しくなりました」
それだけです、とドアを閉めた。
(昨日?きの・・・!?)
茶化すつもりもない、純粋な気持ちをぶつけられ最大のダメージを受けベッドを転がり回る。
ベッドが揺れ起こされたとグズりかけるハル。
慌てて抱きかかえる。
「ち、違うぞ?母は嫌じゃないのだ、少し恥ずかしかっただけだ」
照れながらもあやして眠らせる。
そして一人称が変化していた。
親バカまっしぐらだ。
着替えて帯剣をし下に降り、この村での最後朝食を頂く。
褒賞金の話になり「領庫の分も含め被害者家族に回してもらう」と村長は言った。
東領家、伯爵らしいがあまり評判は良くないらしい。
「上手いことやりますから」とステキな笑みを浮かべていた。
オリハは受け取りを拒否した経緯もあるので了承する。
(・・・多少懐に入れてもよかろうに)
とは思ったがこの村らしいと納得した。
今後の行き先の話になった。
南にある王都に向かうと伝えた。
旅をするなら冒険者として登録した方がいいと思ったからだ。
南西の子爵領街にも冒険者ギルドはあるが、残党が南にいないか気になるので南の町を経由して王都へ行くと。
奥方が「王都は美味しい食事所が多いわよ」と太鼓判をおしてくれた。
とても楽しみになった。
だがふと心寒くも思えた。
御食事を終え「成功報酬です」というリュックを受け取る。
塩、胡椒、砂糖、替えの肌着、服、タオル、布オムツ、とその予備、日持ちのする食糧、寝袋などだ。
そして金貨の入った袋と銀貨の入った袋、そして銅貨の入った袋を手渡された。
「盗賊達が所持していたお金です」という。
それなら金貨の袋が一番大きい筈はない。
だが何も言わずに受け取った。
勝者のいない争いは終わったのだから。
「この程度しか出来ず申し訳ない」と村長は言う。
そんな事はない、色々してもらったし色々教えてもらった。
・・・そうだ、色々とあったな?
意趣返しに「こんな素敵な服まで頂いた」とシナをつくりスリットから太腿を魅せた。
村長の目が太腿に移ると同時に奥方が跳ね飛ばしゴロゴロと転がっていく。
村長が目の前から消えたので奥方に感謝を述べ握手した。
・・・ああ、この感情は知っている。
村人総出で見送ってくれた。
この先旅をしてこんな村に出逢えるのだろうか?
そう思うと少し不安を感じる。
だが見ると決めた。
我が娘と見て回るのだ。
見送ってくれる村人達から知っている感情を感じる。
自分自身が味わっているのと同じものだ。
淋しい。
オリハは不思議に思った。
そして淋しいのが嬉しく思えた。
同じ思いを他者と同じく感じる事が嬉しかった。
(そういえば・・・ミナにも言ったな)
そして振り返り手を挙げる。
「達者でな!また会おう!」
ある日この村に来た行商人からある噂を聞いた。
その人は凄く強い冒険者らしい。
何でも美しい銀色の髪を靡かせ浅黒い肌をした子連れのエルフらしい。
その名も[子連れの聖母]
そのまんまじゃねーか。
そう笑う村人達の目には涙があった。
だがそれはもう少し先のお話・・・
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