赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第2章 王都編

2-8 神の武器、教育ママ

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「ねえねえオリハさん」

あのドワーフの老人の店を出てからティダに声を掛けられた。

「その剣ってなんなの?」

「見てわからぬか?ただの鋼の剣だ」

「いやそうなんだけど全然違うじゃん」

「違うのは母の剣だけではないぞ?ティダの剣もだ」

ティダは自分の背の剣を握り「うーん?」と唸っている。
我がここで懇々と説明しても良いがあの老人はまだ早いと言った。
まだ頭で理解しても心からは理解出来ぬのだろう。
そう思えた。

「・・・我もまだまだだな」

呟くオリハの顔は微笑んでいた。
「そうだ」と言わんばかりにハルは後頭部を叩くのだった。


数種のパンと牛乳を買い家に戻る。
シャルは机に突っ伏していた。
顔だけあげて「おかえり~」と言う。
ティダはパンと牛乳を机の上に置き、オリハはキッチンに向かいながら「ただいま」を言う。

「鞘凄いキレイだね」とシャルが言う。
鋼の剣とはいえあの老人が丹精込めた一点物だ。
身を包む鞘には拘ったのだろう。
「あの剣が何かわかんの?」「え?ただの剣じゃないの?」「うーん」とまた唸る。

何も考えず十年なら、悩めば五年くらいにはなるかな?とオリハは微笑んだ。
ただティダは、あースキル出ないかなーとか考えていたのでやはり十年だった。

コップを置きながらシャルに「答えは出たか?」と問う。

「術式・・・ですよね?」

正解だと言わんばかりに頭を撫でる。
しかしまだ顔が暗いので姉を褒めてやれ、とハルに撫でさせた。

「でもどうすればいいのかまでは分かんないんですよぉ」

とシャルがむくれている。
それはオリハは当然だと思っている。

魔法は呪文と詠唱から成る。
呪文は発動と風景の意味を持つ。
詠唱は現象効果と効果範囲、と術式と呼ばれる魔力操作や魔力の指向性を練りこんだものだ。

花咲け 路傍の影「Color」を例にとる。
現象効果は、花咲け、彩りの意味を持つ。
効果範囲は、路傍、影、人や物を問わず影の様に。

ただ詠唱とはイメージだ。
「花咲け」より色を想像しやすければ何でも構わない。
それを研究するのが現代魔法学となる。

術式は魔力操作で影のように薄く、指向性を持たせ貼り付ける。
そして魔法言語による呪文で発動となる。

ハルが遊ぶ為のロバを作るには二通りの方法がある。

魔力そのものを術式のみでロバの形を作る。
通常魔力は透明だ。
これに「Color」を貼る。

もう一つは「Color」そのものを影ではなく魔力操作でロバの形を成す。
これはハルが捕まえると手に色がつくので通常は前者の方で行なっている。

シャルが「分からない」と言っている理由は現代魔法学が影響していた

戦争がなくなり魔物退治程度で魔法自体の有用性が衰退している。
現存している魔法は最適化され術式がおざなりになっていた。

四角四面の枠の中でこの魔法はこういう術式です。
詠唱破棄するなら術式はこうです。
といった具合に。

学術的な分野でいうと術式ではなく詠唱自体や呪文に重きが置かれ、この単語の方が効率が良くなる、といった文系になっていた。

抽象的に言えば術式を重きにおく魔法が学者。
四角四面の詠唱を重きにおく魔法が職人。
つまり物を作る職人に哲学を問う様なものだ。

一度詠唱を聞いただけで「Color」を使えたシャルはそういう意味で確かに優秀だ。
影のようにぺったんぺったんと貼り付けていたのだから。

そんな文系のシャルが二次方程式を解の公式を知らずに解けるわけがない。
むしろ問題が二次方程式だと気づけただけでも大したものだとオリハは感心する。

「後は実践と練習だ」

唸るティダとむくれるシャルを見て思わず微笑む。


昼食後、少し早いが訓練場へ向かう。
そこへ向かいながらシャルに術式のみを行う考えを説き、その方法を教えた。
術式のみと最初は戸惑っていたがオリハが出した透明の馬にシャルが「Color」をかけて認識出来たようだ。

訓練場へ着く頃にはシャルの手の上には透明のまん丸い馬が出来ていた。


訓練場では二組程先客がいた。
模擬戦や魔法の練習のようだ。
少し早いのかマインはまだ来ていない。
隣を見るとニィと笑っているティダがいた。

オリハはシャルにハルを任せた。
さすがに稽古とはいえティダが気にするからだ。
任せるとはいえ見ていてもらうだけだ。
ハルの動きはロバで封印する。

そしてオリハは深く息を吐き気合を込める。
そしてシャルとハルから離れる。

オリハとて遊んでいただけではない。
目に見せない研鑽を積んでいた。
感情を確実に感じ取る距離を十メートルのものと二十メートルのものと二段階に調節出来るようになっていた。

努力の方向性は間違っていたとしてもまだまだ子離れするつもりはない。


剣を抜き身にしてティダは準備運動をする。
そのティダを見ながら思い出したかのように言う。

「ああ、スキルも使って構わんぞ」

「え?ちょっ!あれ?俺言ったっけ?」

とシャルの方を見た。
なにそれ聞いてない的な顔をしている。

「昨日魔力解析したであろう、何のスキルかまではわかるぬがな」

「いや充分でしょ、あーでも使おうと思って使えるもんじゃないよ」

元々妙に鋭い所があるとスキルの可能性を疑っていたが、昨日解析した時にティダの魂の余白部分が常人より多かったので確信した。
その余白部分が多い程そこにスキルが生まれる可能性が高くなる。

尚、オリハルコンの過去の所有者達もこれと同様に余白部分が多い必要があった。
過剰とも言える力を身に宿すための空間ともいえる。

「そうか、身体強化は使えるのであろう?」

「うん簡単なやつだけどね」

「よし、実戦のつもりで全力でこい」

そしてオリハは剣を抜き正眼の構えをとる。
緊張を伴うピリッとした空気が流れた。

オリハは本気だ。
色々な意味で手を抜くつもりはない。
実剣でやる以上何が起こるか分からない。
稽古なのだから回避するつもりはない。
両手剣を下手に受けてこの剣を折るわけにもいかない。
ティダを万が一にも傷つけるわけにもいかない。

ティダも実力差は分かっているつもりだ。
C級冒険者という肩書きに胡座をかくつもりはない。
だからこそ「稽古をつけて」と言ったのだ。
剣術的なもんとか足運びとか技とかその程度だろうと。

だが目の前のオリハが発する空気がそれを許さなかった。
強者からの挑発。
格下が臆せず腕を振るうには充分だった。

脇構えでツヴァイハンダーを握る。
その顔は何時ものお調子者のティダではなかった。

「Strength!!」

詠唱破棄で全身強化魔法をかけ咆吼を伴い真っ直ぐオリハに向かう。
そして横薙ぎを一線。
一合目を交わす。
金属がカチ合う音と火花が散る。

ティダは一旦後方へ飛び下がる。
そして感じたこともない剣の感触に戸惑う。

「今は知らなくても良い、こういうモノもあるのだと感じろ」

オリハにそう言われるとティダは頷き二合目へと身体を動かしていくのだった。


一対の剣音だけが鳴り響いていた。
周りには観戦者が出来ていた。
その輪にいつの間にかマインも来ていた。
真剣に打ち合う熱を前に誰もが目を見張らずにはいられない。

オリハは大きな隙がある度にそこへ剣をスッと添わせていた。
その都度下がり仕切り直す。
それを繰り返していた。

そろそろ限界かと剣を沿わさずに一線の殺気を放つ。
ティダは振り抜くつもりだった剣を止め、身を捩り間合いの外へと転がる。

「よし、ここまで!」

(ふむ、やはり勘も鋭い)

「よく頑張った」と剣をしまい笑みをこぼす。
フッと強化魔法を解き大の字に寝そべる。

「ふぃ~知ってたけどつえ~かなわね~」

シャルとハルは「おーっ」と拍手する。
周りも併せて拍手した。
それに右手を挙げ応えティダに近寄る。
オリハは手を差し出し起こす。

「良い所と悪い所、どちらから聞きたい?」

そう意地悪そうな笑みを浮かべるオリハに言う。

「・・・良い所だけじゃダメ?」

「駄目だ」とティダの口に飴を放り込んだ。


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