赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第2章 王都編

2-11 神の武器、武器と少年と老人

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その老人は大きな欠伸をした。
温くなったコーヒーを啜り読みかけの新聞に目を戻す。
顎髭を撫でながら含み笑いをする。

先日あった面白い事を思い出して。

その老人には夢があった。
いや、かつて夢があった。

その夢を求めて旅をした。
神々の作った伝説の武器、オリハルコン。
その武器に勝るとも劣らない、そんな武器を自分の手で作りたかった。

見たこともない鉱石を見つけては火にくべた。
優秀な素材と聞けば魔物相手にでも命を懸けた。
飲まず食わずで槌を振るい続けた。
気がつけば鉄鋼と鍛冶の柱の加護まで受けていた。

そんな男の前には武器を求める列が出来た。

王族の依頼で武器を作った。
名のある戦士の依頼もあった。
ボンクラな貴族のガキにも売った。

いつの間にか夢への情熱は地に落ちていた。

自分の武器を手にして強くなった気がした奴らを見て落胆した。
誰も武器に恥じないよう鍛錬する者などいなかった。

神の武器に勝るとも劣らない、そんな武器を作れたとして誰が持つ?
命を削り打った武器を、置物にされて宝物庫に置かれて何の価値が?

そして夢を捨てた男は表舞台から消えた。

気がつけば王都で武器屋を開いていた。
人通りも少ないちっさな店。

並ぶ武器は手遊びで作ったもんばかりだ。
後は困窮に瀕した知り合いの武器や、貴族の三男坊とやらが打った武器を置いた。

偶に目端の利く奴が偶に買っていく。
金に興味は無い、死ぬまでは保つだろう。
ドワーフ族の平均寿命と言われる歳はとうに過ぎた。
それでも、夢や情熱が消えても武器の側からは離れられなかった。

ある日一人の少年が店に来た。
持っていた武器防具は手入れもしていない。
見栄えばかりの剣を見て唸っていた。

辟易して安くて手頃な店を紹介した。

「この店の武器の方が強そうだ」

目端も効かない少年はそう言った。
老人はクソ生意気なガキだ、そう思うと同時にいずれは使える奴になる、そう感じた。

どの程度使えるようになるかそこまではわからない。
だが使えるか使えないか位は、命を懸け武器を打ち続けた老人には判断できた。

手遊び物の剣と適当な防具を見繕った。
金は多少まけた。
毎月武器を持ってこい、そう言った。


一ヶ月経った。
ガキが屈託な笑み浮かべてやって来た。
剣を見ればどんな使い方をしたかはわかる。
だから老人は怒鳴りあげた。

自分の身内でもない知らないガキだ。
飽きたらそこまで、来なかったら来なかったで別に問題もない。

だが翌月も屈託な笑みを浮かべてやってきた。
そして怒鳴りつけた。

半年が過ぎてもガキは怒鳴られるために店に来た。
人の事を爺さん呼ばわりして。

棺桶に片足を突っ込んだ歳だ。
身体が動く内に、まだまだ先の話だが相棒になる様な剣を打ってやりたくなった。

剣の種類はあのガキがいつも喰い入る様に見ている、馬鹿貴族の三男坊に無理矢理買い取らされたツヴァイハンダーでいいだろう。

真剣に打ったのはいつ振りだったろうか?
そう思いつつ、もう一本剣を打った。
これで最後だと人生最後の槌を振るった。

打ち終えた後、一週間は店を開く事すら出来なかった。

一年が過ぎようやくマシになったと思えた。
まだ早いがいつおっ死ぬかもわからない。
だから渡した。

「飾ってあるやつのがカッコいい」

思わず手が出た。
それから二年経っても相棒には気がつかない。
道理がわかってないガキのままだ。

だが徐々にマシにはなっている。
自分が死ぬまでに一人前になってくれればいいが、そう思う様になった。


「じいさん邪魔するぜー」

(あの姉ちゃんは来てないのか)

「・・・邪魔するなら帰れ」

「あれ?今変な間があった?」

「・・・ふん」

いつもなら見栄えだけの剣の前で張り付くのに、手に取ってもいい武器を握っている。
そんなティダを見て少しは道理が分かるようになったか?
そう思ったが片っ端から握る姿に苛立ちを覚え声をかけた。

「何の用だ!一ヶ月はまだ先だろう」

「あ、忘れてた、オリハさんが剣を研いでもらえって」

(オリハ?あの姉ちゃんか)

剣を見て指で摩り、目を見開いた。

「・・・何した?」

「オリハさんに稽古つけてもらった」

「模擬戦みたいになったけどな」

剣には数え切れない程の鉄汚れの跡がある。
何度も打ちあったのだろう。
だがへこみも傷も殆どない。

「んでじいさんに頼んで研ぎを見せてもらえって」

「・・・他には?」

「・・・え?」

「稽古をつけてもらったんだろ、他には?」

「あー・・・剣を握る時はじいさん思い出せって、剣を振る時は何も考えるなって」

そう言って恥ずかしそうにティダは頭を掻いた。


命を懸けた最後の一振り。

素材も只の鋼、見た目も只の数打ち物。
売るつもりもなかった。
間違って持って来た奴がいたらすり替えるつもりだった。

もし目端が利く奴が頭を下げて頼んできたら売ってやってもいい、がそんな奴が数打ち物を手に取る事はない。

死ぬ前に手紙でも置いとくつもりだった。
あの子も棺に入れてくれ、と。

ガキに打ったのは素材も拘った相棒だった。
あの鋼の剣は我が子だった。

そんな子供を店に入って一番に手に取った。
素材が良いのも山の様にある中で。
嬉しくなった、娘を貰ってくれと言う父親はこんな気分なのかもしれない、そう思った。

その姉ちゃんが研ぎを見せてやってくれ、と言う。
両手剣をガキに握らせようと言った時は甘い姉ちゃんだ、そう思った。

だが教えたのは必要最低限の事だけだ。
最短で自分で道理を理解し一人前に仕上げる為に。

「・・・ついて来い」

あの姉ちゃんが儂に一振りを希望してくれたら・・・その渇望が胸に灯る。
間違いなく槌を振り終えた瞬間に事切れるだろう、と確信する。

だが望まないだろう。
あの子を選んだのだから。

なら、せめて・・・

そう思いながら長い髭を引きずって歩く。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


ティダは走っていた。

ドワーフの老人の研ぎを眺めていた。
不思議と口が開かなかった。

研ぎ終わった後、老人が言った。

「剣を握る時は儂を思い出せよ?」

悪戯っ子のような笑みを浮かべて。

店を飛び出すように出た。
小っ恥ずかしかったからだ。

通りを歩いているとよく会う冒険者に声を掛けられた。
またハーレムがどうとか言われると警戒したが、この間連れてたダークエルフの姉ちゃんが連れて行かれた、と聞かされた。

かなり評判の良くない商店だ。
奴隷商紛いの事をやっているとよく聞く。
裏では伯爵や公爵など貴族との繋がりもあるらしい。

オリハさんと初めてあった時は人攫いとやり合っていた。
この人わざと狙われた?そう思えた。

だからシャルと相談して王都に行くなら一緒に行こうと決めた。

盗賊や人攫いは問題にならない。
だが王都や都心部の連中は別だ。
手口が嫌らしく巧妙だ。

少なくてもC級に上がったばかりだが、そこそこ顔は売れてきた俺達が一緒に居る所を見せれば手は出しにくい筈、そう思っていた。

「くそ!何でこんな時にスキルが!」

オリハとシャルには訓練所を後にした時に説明した。

スキル名は直感力。

いつ発動するかわからいが外れた事もない。
オリハさん曰く、元々勘がいい分スキルの能力として上乗せされているんだろうと言った。

犯罪に関わるような事やシャルが危なかった時など何度か助けられた。

今発動しないのはわかっていて悪態をついた。
危ないのはオリハさんじゃないからだ。

では何故ティダは走るのか?
下手に手を出せば連中が何を言いだすかわからないからだ。

「・・・かーちゃんって面倒くさいもんなんだな」

知らずに呟いた言葉を反芻する事なくティダは走った。


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