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第2章 王都編
2-12 神の武器、狸から豚への狂想曲
しおりを挟む「ちょっ!危ないだろ」
「ご、ごめん!」
ティダは人混みを掻き分けて進んだ。
いっそ家の上でも走るか?
そう思ったが衛兵を連れて行くのはマズイ。
何とかその商会のある通りまで出れた。
ここは人通りも少ない。
だが専門でもないティダでもわかる程の魔力を感じる。
(くそ!間に合わなかったか?)
店に駆け込み声を荒げる。
「オリハさん!!!」
そこにはハルを抱き紙袋を持ったオリハが階段を歩いていた。
「ティダか!」
そう言うと階段を駆け降りて抱きしめた。
ハルと胸に埋まって苦しむティダ。
「む・・ぐ・苦しい」
「む、すまぬ」
「・・・殺っちまった?」
「母は愚かではない、手は出しておらぬ」
「なら足出した?」
「威圧しただけだ、魔力で」
「・・・ならいいのか?」
「泡吹いて小便もらして気絶しておるだけだ」
「うへぇ」
ティダは上に行って見る事をやめた。
魔力の威圧とか言われても詳しくないからシャルに聞こうとティダは結論付けた。
考えても無駄な事は考えない主義だ。
家への帰り道、昼食を買った。
「あれ?ハル、服かわいいじゃん」
「あいあいだー」
ほっぺをぷにぷにと突く。
そして紙袋に目をやりオリハを見る。
オリハはプイっと目を逸らす。
「・・・商人の方が手強かった」
そう呟いた。
「・・・大丈夫だと思う、多分」
シャルはそう言い頭を抱えた。
「シャルはできんのか?」
「その流れ前にもあった気が・・・駆け出し冒険者で一人くらいまでなら」
「あー今回はその程度なのか」
「何言ってんの、戦闘経験のあるような男六人は無理よ?」
二人はそう言いオリハをジト目で見る。
「母は手も足も出しておらぬぞ」
「ははーだー!」
オリハとハルはそう言いプイっと目を逸らす。
結論として魔力の威圧で気を失うとか裏社会で恥にしかならないし、複数で一人に威圧するのは問題だけど、女一人で男六人を威圧して気絶させたとしても問題にはならないだろうと。
だがわざと手の平の上に乗った事を認めたオリハは食事中説教を食らう事になる。
オリハは「ぐぬぬ」と「すまぬ」を繰り返した。
昼食後、三人揃って競技場へ向かう。
シャルに目新しい事をやるか聞かれたが、マインの教本からすると、あまり大幅な事は出来ないので復習になるだろう、と伝えた。
「じゃあオリハさん監修で私が教えてもいい?」
昨日からの術式に関する事をレポートに纏めているので、把握している事の言語化をしたいらしい。
まず土魔法で術式をいくつか試行して、付与、火魔法で指向性を、減った魔力で操作の訓練をやる。
新しく「Color」を教えたいとの事だったのでその流れで了承した。
訓練場につくと今日はマインが先に着いていた。
今日はシャルが中心に教える事を伝えた。
納得しなければ出しゃばるつもりだったが、快く了承されてしまい残念に思ったオリハだった。
「見て見てオリハさん!」
そう言ってシャルは杖を地面につけ「Soil」を唱え引き上げた杖先の丸い土の塊に「Thunder」を灯した。
土槍ではなく土玉にして軽量化したとの事。
「あ、ちょっとティダ、ごめん」
そう言い杖をティダに向けるがうぉい!と回避。
避けないでよ、何言ってんの無理、の逃走劇をマインとハルとオリハは笑顔で見ていた。
勝敗はオリハが「土魔法はこんな事も出来るのだ」と「Soil」で作った土ボコで脚を引っ掛けティダを転ばせ、トドメを刺したシャルに上がった。
「うん、捕獲には充分ね」
とビリビリしているティダを見つめていた。
その後は順調に進んだ。
ティダは身体強化からの素振りをしていた。
何も考えずに振り回したいらしい。
最後に魔力操作をティダとマインが座禅を組んで授業はひと段落した。
明日はギルドが貸し切っているので明後日が最後になるが予定はどうだ?と聞いた。
もう一人連れてきてもいいですか?とモジモジしながら聞いてきたので了承して飴玉を口に放り込んだ。
「夕食に魚を揚げてみたい」と二人に要望を出したら喜んだので買い物をして家路へと向かう。
夕食を美味しく頂いている時に、明日の試験どうしようかと話しをしたらオリハさんならいつも通りで問題ないですよ、とティダも頷きその件は終わった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
その男は半月のような笑みをただ一人浮かべていた。
つい数刻前まで眉間に皺を寄せていた。
儘ならない現状を苛立たしく感じていた。
命令を無視し大義名分を翳し故意に盗賊団を逃した奴、中立派に対して圧力をかける奴、其れ等の旗頭に立とうと画策する奴。
問題はない、立ち上がっても潰すだけだ。
だが十四年前に一度潰した第二皇子派が、過分に節操なく限度を逸脱した行為が気にくわないだけだ。
(・・・全て処刑しておけばよいものを)
派閥争いの結果、過度な行為が多数確認された為、現国王によって表だった者は幽閉、領地剥奪となった。
それは現王妃が第二皇子の元婚約者であり御学友も複数いたので配慮した結果だった。
そんな折、兄より緊急の書面が届いた。
兄は本当にいい人間だ。
何故、自分の様な弟にこんな兄がいるのか?
不思議で仕方ない。
ささくれ立った心を癒そう、そう思いながら書面を開いた。
どうせこんな困った人がいるのだ、救いの手を差し伸べたい!いつもそんな書面だ。
含み笑いを零し書面に目を通す。
一人で女性が?盗賊団を?までは笑っていた。
その盗賊団が伯爵領のあの盗賊団だ、の一文より顔が変わった。
そして最後まで読み終えた時は重々しい表情をしていた。
(これを兄に知らせた者は間違いなく伯爵家の横領に気づいている)
机をコツコツと指で叩く。
(絵を描いたのは子爵か?いや優秀な男ではあるがここまでの絵を描ける才はない。)
忌々しく紙を手で弾いた。
声を上げ侍女を呼び文官を呼ぶ様に命じた。
(まだその一報は王都まで来ていない、急ぎの理由は豚が相手だけではない、だろう?)
そして今度は手紙を指でコツコツと叩いた。
(ああ、そうだな、皆まで言わなくていい、豚小屋を漁れば禿鷲の巣もわかる、だろう?)
その手紙の絵を描いた人間に問いかける。
文官が慌てて執務室に飛び込んできた。
本来であればノックすべきだが、宰相が呼んだ時に限り命令内容も決まっているため飛び込んで来いとはいつもの事であった。
「近衛隊隊長に直命を降す!王には私より許可を頂く!豚狩りに応じた装備、隊員を用意する様伝えればわかる!衛兵上がりの文官がいたな?その者を後程ここに呼べ、時間との勝負だ!」
は、はいっ!と飛んで戻る。
(ああ貴方の敵は豚だ、それ以上は望んでいない、それの排除の御礼に巣の地図をくれたんだろう?)
そして顔に半月を浮かべた。
(わかるさ!貴方からは同じ臭いがする、同類よ!)
そうして手紙を持ち部屋を飛び出して、王へ作戦の立案と命令の許可を頂く。
内容は王命による即日での領庫の引き渡しだ。
いくら宰相や王命であっても証拠もなく領庫を漁ることはできない。
だが手元には大義名分がある。
盗賊団の金銀に関してのみ、討伐者からの希望が侯爵からの嘆願書という形で手元にあるのだ。
そして間違いなく使い込んでいる。
豚は逃げるだろう、だが逃さぬ、屠殺だ。
その数日後、衛兵上がりの文官五名が伯爵家へ王命として即日の領庫の受け渡しの命令を伝える。
その場で伯爵は私兵に命じ口封じを企むも返り討ちとなる。
慌てて外へ飛び出した伯爵は私服により変装した近衛隊に捕らえられた。
案の上、領庫にあるべき美術品や金貨の数が足りず横領の罪が加わった。
そして今回の件に関わった者に関する書面が見つかり、捜査の手は伸びる事になる。
残りは本丸のみとなった。
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