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第3章 元帝国編
3-2 神の武器、歴史
しおりを挟む「オリハさん大丈夫?」
と王都へ入った後ジト目のシャルから問われる。
「今の所変な気配はない、まだ大丈夫だ」
オリハは正直にそう答えた。
下手に隠し事をしてティダが無理にスキルを使う事を怖れているからだ。
それよりもあの時、己の怒りや狂気を理解し発散した事で考え方が変わったのもあるかもしれない。
まだ、というのは滞在していれば変な事を考える者がいないとも限らない。
特に大きな街になれば尚更だ。
「そっか景色見てた時、少し変だったからなんかあるのかと思った」
「・・・心配なら母と呼んでも良いぞ?」
「呼ばねーよ」
「ハハ!ハハ!」
「ああハルだけだ!母を癒してくれるのは」
そう言い誤魔化したオリハだが、あれ以来ティダはかーちゃんとは呼んでくれずやや拗ね気味だ。
夕刻も迫り先に宿を予約する事にした。
ちなみに宿代も旅の費用も全てオリハ持ち、と納得させてある。
シャルは「ぐぬっ」から始まり「ぐぬぬぬぬぬっ」まで理詰めで説いた。
ティダは抱擁して「離して欲しくば了承せよ」で終わった。
荷物を置いた後で宿でお勧めの店を聞いて向かう事にした。
「「うっわぁ~」」
二人揃って口を開けてぽかーんとする。
「ないな、うん、ない」
「この様な店に来た事はないのか?」
「あ、ありませんよ!」
オリハも来たことはない。
いわゆる高級レストランだ。
「ふむ、しばし待て」
と言い残し二人を置いていく。
ドアボーイに声を掛け確認する。
ドレスコードの確認と個室、後は子供用の食事だ。
「冒険者様向けの直通の個室が用意出来ます」「お子様用はご希望があれば伺えます」と答えが来た。
宿屋で冒険者が聞いて入れない店は紹介されないだろうという勝算はあった。
そしていずれ二人ならこういう場も必要になるはずだという親心だ。
オリハが食べたいからだけじゃない・・・はずだ。
二人を手招きして呼ぶ。
「・・・行くぞ」
とニヤッと笑い固まる二人のお尻を叩いた。
キョロキョロとついてくる二人。
部屋へ案内される。
オリハが先頭で奥の椅子の前に立つ。
ティダは「あ、ども」と着座する。
シャルはオリハの真似をする。
着座に合わせて椅子を置かれる。
子供用の椅子を横に置いてくれたのでハルも着座させ両の手を前に置く。
ティダがそれを見て後ろの侍女の顔を見るが「御構いなく」「気軽に召し上がってください」と笑顔で声をかけられる。
メニューを開かれ促される。
お勧めのコースを聞きそれを人数分頼む。
飲み物を聞かれ「コースに合ったものを」「では、これを頼む」と注文する。
子供用に柔らかめのものを先に持ってきてもらう様に注文した。
「お、オリハさんすげえ」
「凄い慣れてますね!」
と、目を輝かせる。
「・・・初めてだ」
「注文はお勧めを頼んどけば何とかなる」
とニヤッと笑う。
神の武器の頃からの憧れの御食事だ。
王族の仕草から客として招かれる所作までしっかりと覚えている。
「今日は二人はマナーは気にせずとも良い、母がやってみせる故見ておけ」
そうして丁寧な御食事が始まった。
店から出て一言。
「ダメだうまかったのに食べた気がしない」
「一口貰ったハルちゃんのオムレツしか思い出せない」
「・・・奇遇だな、母もだ!」
そう言い笑い合った。
宿屋で食べ直し飲み直しとなった。
女将さんに「食事は大変美味だったがワインよりエールの方が合うようだ」とアテとエールを頼んだ。
「逆に申し訳なかったねえ」と言われてティダが「そんな事ないよ、すっごい優しかったしさ」と笑顔で説明した。
女将さんの娘が務めているらしく、裏表のないティダの説明を喜んで、アテがサービスされた。
朝は宿で頂いた。
オリハは図書館で調べものをしたい旨を伝えシャルが同行、ティダは旅支度の買い出しをする事になった。
夜は「そろそろ肉が食べたい」といえば女将さんが「宿で用意するよ」と言ってくれた。
ティダは天然のジゴロである。
二人は国立図書館に向かう。
オリハはこの国の成り立ちが記されている書はないか?と司書に聞きシャルは魔法関連だ。
書は主による創星の物語から始まった。
そして神代と呼ばれる幾人かのヒトが柱に至った時代が始まる。
おおよそ数万年前の出来事だ。
神代の初期に鉄鋼と鍛冶の柱が誕生した。
そして神界でその御手によりオリハルコンが生み出された。
尚、鉄鋼と鍛冶の柱はドワーフ族だった。
ドワーフ族は古来より国を持たなかった。
国を作るより物を作る事を好んだ。
争いが起きた時に敵味方に別れていた事は当たり前だった。
その時代彼よりも優れた鍛治師はいなかった。
作る武器は誰の追随も許さなかった。
彼の生み出した兵器は幾千の命を奪うと共に幾千の命を助けた。
死の間際まで悩みながらも槌を振るった彼は肉体を失った後、柱へと至った。
読み進んでいく歴史の中の事象に間違いなく神鉄が関わったであろうものがある。
中にはオリハルコンの名前がはっきりと書かれた出来事もあった。
記憶にないのに己の関わった事象を知ると何故か恥ずかしく思える。
十二柱最後の旅と商人の柱が生まれ、神代が終わり古代といわれる時代へと変わる。
これが一万年前となる。
尚、旅と商人の柱は魔人族だった。
彼は幼少より飢えていた。
大気中の魔素が濃いせいで作物や家畜に影響を与えるからだ。
彼は丁稚の頃から誰よりも懸命に働いた。
金を得る様になってから更に懸命に働いた。
理由はもう飢えたくなかったからだ。
いつの間にか自分で商店を持ちその才覚で店を大きくし誰もが知る商人となった。
もう飢えなくていい、そう思った時彼は自分の店を他人に任せ行商をやりだした。
飢えてるヒトがいると聞けばその地に赴いた。
困っているヒトがいればそこまで旅をした。
彼が通った路は主な街道を作る為の指針となった。
そして肉体を失った時に彼は柱となっていた。
神の武器に意識が芽生える前までの歴史を流し読みする。
求めている事柄でもないし恥ずかしかったからだ。
オリハがようやく記憶にある事柄が記されていた。
およそ四千五百年前だ。
一つ一つと目を通していく。
懐かしさと苛立ちを覚えながら。
(なんと都合の良き事か・・・)
英雄になったその後の不幸はどの歴史にも記されていなかった。
三千年前、二千年前、千年前と繰り返されていく。
そして五百年前の惨劇の始まりの地がこの場所だったと記されていた。
そして何処にもその惨劇の理由は書かれていなかった。
それを知る者はいないのだから当然だろう。
全て死に絶えたのだから。
大地ごと灰燼と化したのだ。
今ある城は元々あった城ではない。
帝国の城があったのは今は海の中だ。
あの輪のように広がる砂浜の中心点にあったのだから。
「オリハさん!」
怖い顔をしていたのだろうか。
椅子を横に寄せ座らせていたハルとシャルが手を掴んでいた。
「・・・大丈夫だ」
そうシャルに微笑みハルを撫で書へ目を戻した。
そしてその惨劇は無差別に老若男女問わず人族を襲い、獣人族を襲い、エルフ族やドワーフ、魔人族を襲った。
その惨劇を止めたのは人族の青年と獣人と魔人とエルフだった。
過去幾度も争った彼らは共通の敵を経て手を結んだ。
その結果が現在も続いている不可侵条約となる。
そして、ドワーフ達が協力して生み出した武器を持ち熾烈な戦いの末に惨劇を討った。
そして青年は帝国のなくなったこの地に住民より望まれて王国を作った。
人だけがいる土地で彼は王として民を導き、王政だけではなく各街町の代表を評議員として王政と評議制の仕組みを成した。
最後まで目を通しあの時のように天を仰ぎ深い溜息をついた。
(そうか、やはり五百年前のあの出来事で・・・)
そしてその歴史書を手に取りハルを抱いて本棚へ向かう。
(・・・無駄ではなかったのか?)
本棚へ書を直した。
(無駄で、は・・・なかっ、た・・・)
膨れ上がった思いは、堪えきれず声もなく泣き崩れた。
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