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第3章 元帝国編
3-1 神の武器、元帝都へ
しおりを挟む冒険者というのは自国の物であり他国の者だ。
緊急時もあるので国家間の移動は制限が少ない。
大量の魔物が発生する暴走などが起きた場合はむしろ何人いても構わない。
国家間の不可侵条約が結ばれ五百年の月日が経ち条約は守られている、とはいえ間者の可能性も憂慮される。
なので商人や一般市民、低級の冒険者は数日に渡り足止めをされる事になる。
そういう理由でC級冒険者三人は書類一枚で国境を渡る事が出来た。
シャルは国境を越えるのは初めてらしく、大変はしゃいでいた。
オリハは過去の記憶で幾度も渡っているので大人の余裕を見せる事が出来たが、己の脚で直接渡るのはやはりワクワクしていた。
国境といっても隔たるものは大きな運河だ。
崖と崖を大きな橋が繋ぎ国家を紡ぐ。
切り立った崖に人工の階段があり、運河に降りれるようになっている。
運河には漁業権はなく北の国も南の国も隔てなく恩恵を授かっている。
海の大きな魔物は運河までは入ってこないらしい。
むしろ大型の魔物を恐れて小型の魔物や海の幸は運河に好んで群れを作り巣を作るという。
ある時期に国と呼ばれるものは三つ在った。
魔人国、獣王国、人族の国家を支配し属国とし統一を果たした帝国。
約五百年前の惨事で一番の被害を受けたのは帝国であった。
滅んだ帝国があったのがこの国である。
元帝国と言っても差し支えないだろう。
五百年の間に屋台骨のない属国は独立し四つの国となった。
北西と北東と南西と南東に分かれて。
南側の二国間は大地で繋がっているため、複数ある街道を砦と壁が隔てているらしい。
この南西の国を抜け運河を越えれば目的の魔人国だ。
運河という国境を冒険者という肩書きで渡りその日泊まった宿の一室。
三人で旅の順路の話をした。
この国の地図を宿で借りて広げる。
国土の形はハート型というのが近い。
陸地の北側の中心から運河で隔たり国土の中心まで至る。
今オリハ達がいるのはハート型の右上にあたる。
魔人国に行くには真っ直ぐ南へ街道を行けばいい。
が、これにオリハは意を唱える。
まずは食事の面である。
折角海の幸を味わえるのだ。
このまま西に向かい運河沿いを進んでしっかりと食べ尽くしたい、と。
そして運河の終わりの地を示す。
昔、帝国の帝都があった所だ。
ここを経由したい、と。
そのまま南西に進む街道を指差して街道の果てを東に曲がり国境の橋に向かう。
ちなみに各要所で「Color」を用いた人形や運河沿いに魚が並ぶ。
わざわざ魚を並べている辺り食への拘りが垣間見える。
人形が置かれているのは今いる所と元帝都、街道の果てである。
そこを経由する理由はあえて言わなかった。
オリハの旅の目的にも準ずる贖罪に当たるからだ。
二人にしても街道を真っ直ぐ進み最短で旅を終わらせるのは忍びなかったので問題はなかった。
だがシャルがあえて意を唱える。
元帝都の所から西へ向かう街道を示す。
ハートの左側、中央部辺りの街にオリハのものより少し大きめの人形を置き南の人形の所へ行こうと。
「え?いいよ、真っ直ぐ行こうよ」
とティダが言う。
シャル曰くここがティダの生まれ故郷らしい。
ここに育った孤児院があるんでしょ?と。
十五歳までそこで育ち、立ち寄った冒険者に弟子入りして一年かけて北の王都に向かった。
オリハとしても我が子の育った所へ寄る事に異議などなく鼻息荒く了承する。
こうして旅の順路は決められた。
そこからの旅は思い出深いものになった。
主に食事の面で。
まず、ハルの母乳離れに成功した。
まだ柔らかい物だが食事を始めた。
それに合わせて母乳が止まった。
よりオリハのスキルは母乳説が高まった。
街道の道筋によっては運河より離れたりはするものの出される海鮮料理に舌鼓をうった。
漁師町などで「取れ立てじゃなきゃ食べられない」と言うようなものは特に三人を喜ばした。
途中で一人の男の名前をよく聞くようになった。
その者が食の改革を推し進め、より一層の食文化を広めた。
およそ三百年前の人物らしい。
名前を聞いてこの世界の人間ではなく他所の世界の人間だろうとオリハは思った。
そこの世界から来た人間は食に煩く大抵置き土産をしている、だから間違いないと。
それに過去の召喚された所有者と名前の語呂が同じだと感じたからだ。
世界を司る神々には貸しや借りがある。
神による過失、文化の向上、その世界の危機を救う、魂の浄化、様々な理由でごく稀に互いに了承の元、人材のやり取りを行う。
ヒトが勝手に召喚を行い他所の世界の神に貸しを作ってしまった、なんて話もある。
この世界でも時代の転換期に神鉄の所有者が見つからず、主が人材を依頼された事もあった。
それとは別に転生というのもある。
肉体を伴わずに魂のみをやり取りする。
記憶を持たせたままにする事や、なくす事もあるらしい。
文化の優れた世界に魂を留学させ、一生を終えた魂を元の輪廻へ戻したり、傷ついた魂を優しい世界へ送ったりもする。
そういう理がある場合もあれば不運にも時空の隙間に迷い込んで違う世界に飛んでしまうケースもある。
自分達の管理する魂ではない場合、見つける事すら難しい、と柱が話しているのを聞いた事がある。
その男がどの様にしてこの世界に来たのかは分からないがお陰でこの美味いお酒、日本酒というのが飲めるのだから感謝するしかない。
その男はこの世界で穏やかな最後を迎えられた、そう聞いて乾杯をした。
ついでながら現王国の国王の名前を尋ねた。
聞いた名前は聞き覚えのない家名だった。
やはり帝国としては滅んだのだろう、とオリハは結論づけた。
帝国の世であれば他世界の者が現れたら間違いなく動く国だった。
帝国が猛威を奮った時代には魔人の手に神の武器として降臨し帝国を抑えつけた事もあった。
冒険者としては場合によりオリハは留守番となる事もあったが、依頼を受けたり雨の日は休んだり、馬車に乗ったり歩いたり、道すがら撃退したりと実りあるものになった。
この世界にはレベルや経験値はないがもしあったとすればオリハはカンストだ。
成長を促すためにも出来る限り任せるようオリハは心がけた。
流れる景色も彩りがコロコロと変わる。
砂浜や林の中、海岸など。
海に面した崖などは追い詰められた悪徳令嬢と追い詰めた皇太子と伯爵令嬢が良く映えそうだ。
時折ティダが「懐かしい」と冒険者の先輩との思い出を語ってくれた。
装いも変え、着る服は薄い物へと変わった。
天気の良い日はワンピースタイプの修道服を着る事が増えた。
シャルも王都で買った薄手の服に着替えていたが、ティダは何も言わなかったようで杖でグリグリされていた。
ティダは用意すらしていなかったらしく、暑い日は肌着に皮鎧を身につけている。
そんな愉快な旅は馬車で峠を登りきった所でひと段落する。
「わ~凄い!」
とシャルが感嘆の声を上げる。
ティダも口笛を鳴らし目を輝かせる。
「そういやこっちから見るの初めてだー!」
その様子を御者がこの国の自慢の風景ですよ、と嬉しそうに言った。
小高い場所から眼前に広がるのは、海を中心に綺麗な円形状の砂浜。
海の色も透き通ったコバルトブルーを成す。
その一角を漁港や船、並び建つ家々や商店、白い城壁や王城が一望される。
「ああ・・・凄いな」
ただ一人オリハだけが眼前の風景ではないものを見つめていた。
そして国境を超え三ヶ月が過ぎようやく南西の王都へとたどり着いた。
季節は既に夏を迎えていた。
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