赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第2章 王都編

2-17 神の武器、国境へ

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金属と金属がぶつかる音が至る所でする。
既に趨勢は決まった。
いつの間にか冒険者の方が多くなっている。

戦いを意に返さずオリハは歩く。

(・・・ああ血を消さねばな)

返り血を浄化魔法で消す。
だが晴れない心は虚無で満ちている。

灯が見える。
とても暖かい灯が。
あの灯の元はさぞ暖かろう。

だが繰り返される疑問が歩みを遅滞させる。

聴こえるはずのない音がする。
辺りは喧喧囂囂としている。
周りの者には聞こえていないだろうその音は、オリハだけが聴こえていた。

その音に虚ろな視線を向ける。

何故?何故だ?ハルが泣いている。
首が飛ぼうが血が舞おうが寝て笑っていたあの子が泣いている。

手をバタつかせ、何かを求めるように泣いている。
「ハハ」という単語が聴こえる。
鳴き声に混ざって呼ぶ声がする。

良いのか?そう自答する。
「知らぬ」そう言ったではないか。
答えは決まっている。

気がつけばその温もりを胸に抱いていた。


オリハとハルが抱き合い、ティダとシャルがそれをウンウンと見ている傍らでギルマスは空気となっていた。

落ち着いた後ギルマスからオリハに説明があった。

ティダからオリハが良くない事になりそうだ、と相談があった。
調べてみると公爵家から盗賊団絡みの逆恨みによる殺害命令があった事がわかった。

公爵家による王位簒奪の噂があったのでギルマスより宰相に連絡をつけた。

宰相は公爵家に手をつける為の犯罪の証拠として暗殺者の身柄、特に公爵家に繋がる者の身柄を捕獲して欲しい、と依頼を受けた。

ティダがスキルで普通のやり方じゃ上手くいかない気がする、オリハは止まらない気がすると言い出した。

オリハの身近にいるシャルとティダに作戦立案を任せた。

スキルを乱用して作戦を立案したのを知ったのは今日で、あまりに具合が悪そうなので問いただしたら吐いたと。

「あまりに綿密な作戦だったがシャル嬢ちゃんなら、と簡単に考えてしまったすまない」

「私もティダの大丈夫を鵜呑みにしちゃって、ごめんなさい」

「いや我も己の感情に振り回されて迷惑をかけた、本当にすまぬ」

と三者三様に謝る。

「だって伏兵がオリハさんの五百メートル以内にいたら絶対失敗する気がしたとか人間技じゃねえんだもん、仕方ないじゃん」

と横でむくれているティダ。

頬っぺたを引っ張り上げようか悩んだが、こっちの方が効く気がしたので抱擁した。

「ちょっ!や、やめ」

「ティダ」

「な、なんだよ」

「あのようなスキルの使い方はもうするな」

「わ、わかったって」

「間違いなく数年は発動できないだろう」

「え?マジで?」

ギルマスもうんうんと頷く。

「魂に傷がついたら現世じゃもう治らんのだ」

「・・・わかったゴメン」

「わかったら良い、母も悪かった」

辺りは戦闘も終わり既に衛兵も駆り出されていた。
暗殺者の受け渡しも済んでギルドの冒険者達もいつの間にか周りを囲んでいた。

「てめえ!ティダ何羨ましい事してんだ!」

「え?ちょっちが」

「人が懸命に戦ってる時に母親プレイとか何様だ!」

「そんなのして!オリハさん!ちょっ離し」

「・・・呼び方が違うであろう?」

「わかった!後で!ね!後で」

「リア充爆ぜろ!」

「ちがーう!そう言う意味じゃない!」

そうしてティダは屈強な戦士達に神輿で運ばれ休養の意味も込めてギルドの救護室のベッドに括り付けられる事になった。

大怪我を負った者はいなかった。
ギルマスが直接声をかけた三十人というだけあって優秀な者が多かったのだろう。


真っ暗の中静かに家に帰った。
有難い事にハルがタイミング良くお腹を減らしてくれたので母乳をあげてからゆっくりと眠りにつけた。

起きたのは昼前だった。

まだシャルは起きてない。
ティダもまだ帰ってないようだ。

いつもの癖で台所に向かい冷蔵庫を開けて思い出した。

おはようとシャルが起きてきたのでティダを迎えに行くついでに外食を提案する。


家を出てから気がついた事がある。
犬や猫に恐れられなくなった。

むしろ近寄って来てくれたので飼い主に撫でても?と確認してから恐る恐る撫でさせてもらった。

これはこれで可愛い。
ハルとはまた違った可愛さだ。

何で急に?とシャルに聞かれた。
生まれて初めて怒りを発散させたからかもしれないと答えた。

百年以上の怒りですか、と笑っていたが正確には約四千年だ。

ギルドについた。

昨日の協力者に報酬があるとの事。
オリハは囮役らしかった。

昼間なのもあり人も少ないが、昨日いた顔もあったのでお礼の意味で飲みたい者は飲んでくれ、と酒を奢った。

拍手喝采を頂いたのでお礼にと太腿をチラ見せしておいた。

シャルに怒られた。

救護室に行くとまだティダは寝ていた。
仕方ないのでシャルと「Color」で顔にペイントをした。

綺麗な迷彩柄だ。

含み笑いをしているとティダが起きた。
念のため魂を解析したが問題はなかった。
解析のためと抱擁しようとしたが拒否された。

救護室から出ると何人かがティダの顔を見てエールを噴き出した。
鏡を見て顔を洗おうとする。

残念、それは魔法だ。

シャルのは数分で消えたがオリハのはそう消えない。
仕方ないのでギルドの酒場で軽食をとる。

初めて食べたがこれはいける。
だが酒が欲しくなる。

よし飲もう。

新しく来た者がいたら飲ませてやってくれ、と金貨を置いておいた。

出発は明日?異存なし。
どう行く?となって護衛任務を見たが流石になかった。

ああオリハさん馬も行けそうですよね。
なら貸し馬車で行きましょうか?となった。
御者と馬、荷台は選べるらしい。
冒険者以外が借りると護衛費がかかる。
C級以上だと全くかからないとの事。

途中ハルのお食事の時間になった。
救護室は人がいた。
どこ借りようかと話していたら、誰かがギルマスの執務室!と言い出した。
よしそうするか!となった。

酔っ払いの力は偉大だ。

夕方まで飲んでギルドを後にした。
帰り道で追加のアテと酒を買った。
朝食もかっておいた。

家について二次会が始まる。

気がついたらでティダもシャルも寝ていた。
酒は空だ。
部屋から掛け布団だけ持ってきて掛けた。


朝起きて顔を洗う。
ティダは机に突っ伏したままだ。
シャルは部屋に行った模様。

リュックの中から茶葉だけ出した。

茶を淹れていると二人が目を覚ました。
酔い覚ましに浄化魔法をかけると、お腹空いたと朝食をとる。

その後荷物を確認して出発。
ちゃんと家を三人で出れた事に感謝する。


貸し馬車屋へ行く。
あんた四十人斬りの人かい?
そうだ、と言うと若い御者を紹介された。
魔物に慣れていない、安くするからと。

問題はないので有難く了承する。
馬も若いらしい。


荷台は椅子と寝床が別れているタイプだ。
荷物は三人ともリュックだ。
今日は今から出れば夜には公爵領の街まで行けるらしい。

馬は軽やかにパカパカ走る。

ティダに犬猫が近寄れるようになったので、魔物避けの効果が薄くなったと伝えた。

実際確認してみると、知能が高い群れをなす様な魔物は近寄らないが知能の低い魔物は寄ってきた。

単体で出てくるので三人で順番に討伐した。

日が暮れた頃、街についた。
話では領主は王都へ連行されたらしいが、偉い人がいなくなっても街は回る。
宿も普通に開いている。

一晩ゆっくり休んで明日には国境だ。


朝から元気にパカパカ走る。

ああ今日も日差しが心地よい。

そしてもう直ぐ夏がやってくる。

暑いとはどの程度なのだろう?
冷やしたエールが美味いらしい。

そんな事を話していると風の匂いが変わってきた。

「これは何の匂いだ?」

「運河が近いんですよ」

潮の香りというらしい。
そうか、なら今日はお刺身だな。

国が変われば食材が変わる。
目新しい調味料もあるだろう。
メモのページも増えていくかな?

ハルも母乳から離乳食になるのだろうな。
淋しく思うのだろうか?
食事を一緒にとれる事を喜ぶだろうか?

日々成長する我が子を見ながら大きく深呼吸をする。

先が・・・楽しみだ。


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