赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
36 / 162
第3章 元帝国編

3-4 神の武器、魔澱み

しおりを挟む


「で、魔澱みってなんだっけ?」

そう言葉にしたティダを呆れた目で見る。

「あんたC級冒険者だったわよね?」

「そうだよ、すごいだろ?」

ニヒヒと顔を歪める。

「・・・魔物が湧き出す場所の事よ」

「魔物でてないじゃん」

「それはほら・・・ねえオリハさん」

助けてドラ○もんみたいに聞いてくる。

不思議な事に二人には見えもしない感じる事も出来ないのに、オリハがそう言ったのならそうなのだろう、と確信しているようだ。

そんな二人の信頼に温もりとむず痒さを覚える。


あの後三人はその場を後にした。
正確にはオリハが逃げ去るように、である。

町の北に向かい、あの場所から出来るだけ離れた宿をとった。
荷物を置き宿の裏手にある酒場に入った。

ハルは膝の上だ。
食事を頼むが酒は頼まなかった。

「正確には知らぬのだ・・・専門外でな」

どうしたものか、と溜息をつく。

そして二人はその様子に驚いた。
あのオリハさんが?!と。
特にシャルは一緒に旅をしはじめてから様々な事を教えてもらった。
魂やスキル、魔法や術式、言葉を選んでわかりやすく説いてもらった。
そのオリハが専門外だと言い切ったのだ。

この専門外という意味はこの世界の理、主の関わるものではない、という意味を持つ。

シャルは少しでも役に立ちたい、役に立てるかも、という意味を込めて言葉を出した。

「詳しく聞いてもいいですか?」と。

わかる範囲でだが、と前置きをする。

「魔素、はわかるか?」

シャルは頷く、ティダは間違いなくわかってない。


世界には魔力、魔法という理がある。
魔法を使った時に色濃く煙が上がる。
これは魔力の残滓と呼ぶものだ。
残滓は寄り集まった魔素の事を指す。

そして魔力を持つ生命からは動植物を問わず、魔力の過多を問わず魔素が溢れ出る。

つまり魔素があるから魔法が使えるのではなくて魔法があるから魔素が発生するのだ。

その魔素に残留思念や言霊のようなもの、感情の塊、後悔、慚愧、怨讐、怨恨、嫉妬、などの強い想いが複数混ざり合って出来るのが魔澱みである。

魔澱みが完全に発生すると、溜めたものを吐き終わるまで魔物や魔素が噴出する。

遺跡や洞窟などで発生した魔澱みがその地を変形させてダンジョンと呼ばれるものになる。

この話を出来るだけわかりやすく二人にしてみた。

「あそこにあるのは魔澱みの出来かけ・・・出来る前、だと思う」

「だからオリハさんにはわかるのか」

二人は感情をオリハが読み取る力を持っているのを知っている。
王都で暗殺者と対した時だ。

ティダがシャルにオリハを心配しても不安に思っても作戦が失敗する気がする、と相談してシャルが感情を読めるのではないか?と推察した。
結果、オリハさんを信じる、ティダのスキルを信じる、とその能力を無効化したらしい。

二人はスキルだと思っているようだが、身体に備わったモノなのでまた別である。

「そして歴史上、魔澱みを封印した記述はあっても破壊した記録はないのだ」


神代に巨大な魔澱みが南の大陸、今魔人族が住む地域に発生した。
その時南の大陸に住んでいた人族の中で一番魔力が多く力があった一人の女が神鉄を手にして魔澱みを封印した。

その時点で神鉄は天へと戻った。

封印を施したが、不安定でその場を離れられなかった。
身を呈して封印をする姿に感銘を受けた人々が、その地に女を王とする王国を作った。

だが封印されていても魔素だけは少量漏れ続けていた。
その地に住む人は知らず知らず体内に魔素を溜めそれに順応する身体を得ていた。

女の死後、大地から多量の魔素が噴き出した。
それに耐えられなかった人族が北へと移り住み、残った人達が世代を超え魔素を皮膚へ沈着した色を持つ魔人族となった。

その女は肉体を失った後、魔と力の柱となった。

尚、魔人族が元々人であった伝承は世界には残っていない。
伝承に残るのは魔澱みを神の導きにより封印した女が柱となった、とある。


「・・・例えばですけど、残留思念?ていうのはヒトの強い想いって事ですよね?」

「そういう事だ」

「私達にはわからないですけど・・・それがわかるオリハさんが・・・例えば愚痴を聞いてあげたら解消される、とか・・・ないですかね?」

解消できるかはわからないが、想いを一個の生物として捉えた推論だ。
理の外の物だとしてその考えは思いつかなかった。
がオリハにはその推論は面白く思えた。

放出してからは間に合わないだろうが、集まっている段階なら、と。

「よくわかんないけどオリハさんなら出来そうだよな」

うんうんと頷くティダ。
理由も理屈もないが不思議となんとかなる気がする。
オリハはティダを評じて、世が世ならオリハルコンの所有者足り得た者だと確信している。
その息子が後押ししたのだ。

二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「よし、やってみるか!」

食事を済ませて夜が耽るのを待つ事にした。


魔石で明かりを灯す街灯のみが噴水を照らす。
噴水の周りには誰もいない。
が、少し離れた酒場からはまだ明かりが見える。

三人はオリハが示す場所を囲うように立つ。
ハルは背中で眠っている。

可視化出来ないか「Color」を使ってみたが地面に張り付いた。

「無理か」

シャルが、あっ!と言い掛けなおした。

「なんでピンク」

ピンク色の小さな渦巻きが目の前に現れた。
詠唱で対象を心とか気持ちみたいなのにしてみたらしい。
少し恥ずかしそうにしている。
余程のポエムな詠唱だったのだろう。
飴玉をあげた。

ティダの問いはスルーされた。

「さて、どうするか」

「臭いがあるんなら全部吸ってみるとか?」

正直ないとは思ったが息子が言うのだから試してみよう、と鼻で深呼吸を試みる。

「スーッぐ、グフゥ!ゴホッゴホッ」

むせた、臭いでむせた。

「物理的には多分無理よ」

と言い風属性魔法でピンクの渦巻きを吹いた。

「魔素が揺れるだけだな、臭いは動かぬ」

と魔力そのものを当てたり、魂の修復のように回復魔力を当ててみたが変わらない。

「あ、あれは?魔力の解析だっけ?」

オリハは頷き両手を添えて解析を始めたその瞬間、脳に電撃が走った。

「・・・ぐっ!」

フラつき片膝をついた。
二人が駆け寄るが大丈夫だと手で制す。

「頭の中に百近い意識が急に流れ込んできただけだ、だが・・・」

もう一度手を添えて、上澄みを掬うように一つ一つの臭いを意識しながら解析を再度試みた。

四つ三つと数を絞り一つの感情に対象を絞り解析する。

オリハの脳内に一人の少女が浮かんだ。
しゃがみこみ泣いている。
背中には服が裂け大きな切り傷が見えた。

脳内でオリハは駆け寄り声をかけた。

(痛い、痛い、痛い、痛いよ!)

[大丈夫か?背中が痛いのか?]

(痛いの!ずっと、ずーっと痛いの!)

泣き縋り訴える少女の背に回復魔法をかける。

[どうだ?痛みは取れたか?]

(・・・きえ、た?消えた!痛いのが取れた!お姉さん、ありがとう!)

そう言うとオリハの脳内から少女の姿が消えた。

「あ、オリハさん!渦巻きが少し小さくなりましたよ!」

「・・・いけたか」

オリハは深く息を吐いた。

「シャルの推論で良さそうだな」

ニッと笑いサムズアップする。
ティダは何でピンクなんだよと言い続ける。

そしてまた感情を一つに絞り解析をかける。


中年の膨よかな女性が脳内に現れた。
顔色は悪いが外傷はない。
四つん這いになり地面を殴っている。

[どうかされたか?]

(ちょっとあんた聞いとくれよ!)

[う、うむ]

(うちの亭主がね!余所の女に入れ込んじまってね!)

[う、うむ]

(あ、うちの亭主ってまあ若い時はそりゃかっこよくってね!)

・・・・・・そして二刻が過ぎた。
この間ティダとシャルはうむ、うむと言い続けるオリハを見続けるだけであった。

(ありがとね、なんかすっきりしたよ)

[そ、そうか、それは良かった]

そう言うと脳内からその女性が消えた。

「こ、これをあと百回程やるのか?」

その後今の説明を聞いてドン引きする二人はオリハの頭を撫でた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...