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第3章 元帝国編
3-4 神の武器、魔澱み
しおりを挟む「で、魔澱みってなんだっけ?」
そう言葉にしたティダを呆れた目で見る。
「あんたC級冒険者だったわよね?」
「そうだよ、すごいだろ?」
ニヒヒと顔を歪める。
「・・・魔物が湧き出す場所の事よ」
「魔物でてないじゃん」
「それはほら・・・ねえオリハさん」
助けてドラ○もんみたいに聞いてくる。
不思議な事に二人には見えもしない感じる事も出来ないのに、オリハがそう言ったのならそうなのだろう、と確信しているようだ。
そんな二人の信頼に温もりとむず痒さを覚える。
あの後三人はその場を後にした。
正確にはオリハが逃げ去るように、である。
町の北に向かい、あの場所から出来るだけ離れた宿をとった。
荷物を置き宿の裏手にある酒場に入った。
ハルは膝の上だ。
食事を頼むが酒は頼まなかった。
「正確には知らぬのだ・・・専門外でな」
どうしたものか、と溜息をつく。
そして二人はその様子に驚いた。
あのオリハさんが?!と。
特にシャルは一緒に旅をしはじめてから様々な事を教えてもらった。
魂やスキル、魔法や術式、言葉を選んでわかりやすく説いてもらった。
そのオリハが専門外だと言い切ったのだ。
この専門外という意味はこの世界の理、主の関わるものではない、という意味を持つ。
シャルは少しでも役に立ちたい、役に立てるかも、という意味を込めて言葉を出した。
「詳しく聞いてもいいですか?」と。
わかる範囲でだが、と前置きをする。
「魔素、はわかるか?」
シャルは頷く、ティダは間違いなくわかってない。
世界には魔力、魔法という理がある。
魔法を使った時に色濃く煙が上がる。
これは魔力の残滓と呼ぶものだ。
残滓は寄り集まった魔素の事を指す。
そして魔力を持つ生命からは動植物を問わず、魔力の過多を問わず魔素が溢れ出る。
つまり魔素があるから魔法が使えるのではなくて魔法があるから魔素が発生するのだ。
その魔素に残留思念や言霊のようなもの、感情の塊、後悔、慚愧、怨讐、怨恨、嫉妬、などの強い想いが複数混ざり合って出来るのが魔澱みである。
魔澱みが完全に発生すると、溜めたものを吐き終わるまで魔物や魔素が噴出する。
遺跡や洞窟などで発生した魔澱みがその地を変形させてダンジョンと呼ばれるものになる。
この話を出来るだけわかりやすく二人にしてみた。
「あそこにあるのは魔澱みの出来かけ・・・出来る前、だと思う」
「だからオリハさんにはわかるのか」
二人は感情をオリハが読み取る力を持っているのを知っている。
王都で暗殺者と対した時だ。
ティダがシャルにオリハを心配しても不安に思っても作戦が失敗する気がする、と相談してシャルが感情を読めるのではないか?と推察した。
結果、オリハさんを信じる、ティダのスキルを信じる、とその能力を無効化したらしい。
二人はスキルだと思っているようだが、身体に備わったモノなのでまた別である。
「そして歴史上、魔澱みを封印した記述はあっても破壊した記録はないのだ」
神代に巨大な魔澱みが南の大陸、今魔人族が住む地域に発生した。
その時南の大陸に住んでいた人族の中で一番魔力が多く力があった一人の女が神鉄を手にして魔澱みを封印した。
その時点で神鉄は天へと戻った。
封印を施したが、不安定でその場を離れられなかった。
身を呈して封印をする姿に感銘を受けた人々が、その地に女を王とする王国を作った。
だが封印されていても魔素だけは少量漏れ続けていた。
その地に住む人は知らず知らず体内に魔素を溜めそれに順応する身体を得ていた。
女の死後、大地から多量の魔素が噴き出した。
それに耐えられなかった人族が北へと移り住み、残った人達が世代を超え魔素を皮膚へ沈着した色を持つ魔人族となった。
その女は肉体を失った後、魔と力の柱となった。
尚、魔人族が元々人であった伝承は世界には残っていない。
伝承に残るのは魔澱みを神の導きにより封印した女が柱となった、とある。
「・・・例えばですけど、残留思念?ていうのはヒトの強い想いって事ですよね?」
「そういう事だ」
「私達にはわからないですけど・・・それがわかるオリハさんが・・・例えば愚痴を聞いてあげたら解消される、とか・・・ないですかね?」
解消できるかはわからないが、想いを一個の生物として捉えた推論だ。
理の外の物だとしてその考えは思いつかなかった。
がオリハにはその推論は面白く思えた。
放出してからは間に合わないだろうが、集まっている段階なら、と。
「よくわかんないけどオリハさんなら出来そうだよな」
うんうんと頷くティダ。
理由も理屈もないが不思議となんとかなる気がする。
オリハはティダを評じて、世が世ならオリハルコンの所有者足り得た者だと確信している。
その息子が後押ししたのだ。
二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「よし、やってみるか!」
食事を済ませて夜が耽るのを待つ事にした。
魔石で明かりを灯す街灯のみが噴水を照らす。
噴水の周りには誰もいない。
が、少し離れた酒場からはまだ明かりが見える。
三人はオリハが示す場所を囲うように立つ。
ハルは背中で眠っている。
可視化出来ないか「Color」を使ってみたが地面に張り付いた。
「無理か」
シャルが、あっ!と言い掛けなおした。
「なんでピンク」
ピンク色の小さな渦巻きが目の前に現れた。
詠唱で対象を心とか気持ちみたいなのにしてみたらしい。
少し恥ずかしそうにしている。
余程のポエムな詠唱だったのだろう。
飴玉をあげた。
ティダの問いはスルーされた。
「さて、どうするか」
「臭いがあるんなら全部吸ってみるとか?」
正直ないとは思ったが息子が言うのだから試してみよう、と鼻で深呼吸を試みる。
「スーッぐ、グフゥ!ゴホッゴホッ」
むせた、臭いでむせた。
「物理的には多分無理よ」
と言い風属性魔法でピンクの渦巻きを吹いた。
「魔素が揺れるだけだな、臭いは動かぬ」
と魔力そのものを当てたり、魂の修復のように回復魔力を当ててみたが変わらない。
「あ、あれは?魔力の解析だっけ?」
オリハは頷き両手を添えて解析を始めたその瞬間、脳に電撃が走った。
「・・・ぐっ!」
フラつき片膝をついた。
二人が駆け寄るが大丈夫だと手で制す。
「頭の中に百近い意識が急に流れ込んできただけだ、だが・・・」
もう一度手を添えて、上澄みを掬うように一つ一つの臭いを意識しながら解析を再度試みた。
四つ三つと数を絞り一つの感情に対象を絞り解析する。
オリハの脳内に一人の少女が浮かんだ。
しゃがみこみ泣いている。
背中には服が裂け大きな切り傷が見えた。
脳内でオリハは駆け寄り声をかけた。
(痛い、痛い、痛い、痛いよ!)
[大丈夫か?背中が痛いのか?]
(痛いの!ずっと、ずーっと痛いの!)
泣き縋り訴える少女の背に回復魔法をかける。
[どうだ?痛みは取れたか?]
(・・・きえ、た?消えた!痛いのが取れた!お姉さん、ありがとう!)
そう言うとオリハの脳内から少女の姿が消えた。
「あ、オリハさん!渦巻きが少し小さくなりましたよ!」
「・・・いけたか」
オリハは深く息を吐いた。
「シャルの推論で良さそうだな」
ニッと笑いサムズアップする。
ティダは何でピンクなんだよと言い続ける。
そしてまた感情を一つに絞り解析をかける。
中年の膨よかな女性が脳内に現れた。
顔色は悪いが外傷はない。
四つん這いになり地面を殴っている。
[どうかされたか?]
(ちょっとあんた聞いとくれよ!)
[う、うむ]
(うちの亭主がね!余所の女に入れ込んじまってね!)
[う、うむ]
(あ、うちの亭主ってまあ若い時はそりゃかっこよくってね!)
・・・・・・そして二刻が過ぎた。
この間ティダとシャルはうむ、うむと言い続けるオリハを見続けるだけであった。
(ありがとね、なんかすっきりしたよ)
[そ、そうか、それは良かった]
そう言うと脳内からその女性が消えた。
「こ、これをあと百回程やるのか?」
その後今の説明を聞いてドン引きする二人はオリハの頭を撫でた。
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