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第3章 元帝国編
3-5 神の武器、邂逅
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凄く良い顔をして青年は脳内から消えた。
「・・・何か変なこと言ってたけど今の何?」
「女の全裸を見なければ死んでも死に切れなかったらしい」
「見せたの!?」
「脳内の事であれば問題なかろう」
「そうなのか?うーん」
「何だ、母の全裸が見たいのか?」
ニヤッとティダを見る。
「ち、ちげえ、そういう意味じゃないし!」
こんなやり取りも次で最後だ。
まだ時間もある。
今日こそ終わらせるつもりだ。
中年の女性から亭主の愚痴を聞かされた後は一旦宿へ戻った。
さすがにオリハでも堪えたようだ。
翌朝食事を済ませてから部屋で会議を行った。
本来、魔澱みは濃い紫の煙の渦だ。
規模は大体荷馬車程度になる。
出来つつある状況ではオリハですら見る事は出来ない。
シャルが可視化して現時点での大きさが識別出来た。
恐らく一年二年で発生する事はないだろう、と予測する。
だが魔澱みが町で発生した場合、周囲に影響を与え町自体が魔都と化す。
被害はその周辺だけでは済まないだろう。
溢れかえった魔物による暴走も充分起こりうる、とオリハは説明した。
放置するという選択肢を選ぶ気は三人共なかった。
祓うのは日中では人の目もある。
やるのは夜になるが、少し問題もある。
シャルとティダだ。
オリハが一人でやるのは当然反対される。
そして夜通し祓いをするとハルの朝食という問題点もあった。
それでオリハに付き添うのはティダが付き添いシャルには宿でゆっくりしてもらう。
夜明けが近づき人の姿が見られるようになる前に宿へ戻る。
ハルの朝食はシャルに頼む事で話がついた。
残留思念に関しては様々なものがあった。
それこそ愚痴のようなものから種族迫害や殺された怨みなどまで。
だが生者であれば怨みの対象がいない、となれば矛先がその対象の家族や友人、恋人などの別の者へ向けられる可能性は充分にある。
が、思念や言霊のような思慮する事のないモノは既に対象がもう存在しないのだ、と伝えれば消える事が殆どだった。
だが件数が件数だ。
数分で済むものもあれば数刻かかるものまである。
遅々として思うようには進まなかった。
そして日にちも十四日目を迎えとうとう最後の一件だ。
オリハは意図してこの一件を最後に残した。
臭う感情が一番異様、いや異形だった。
間違いなく狂気と呼ばれるものだ。
祓えなければまた三人で相談すれば良い。
己が狂気に飲まれなければ、だ。
当然その危険性はティダにもシャルにも告げてある。
最悪放置する事も検討されたが、解析は一度行う、危なそうならすぐ逃げる、と約束した。
「よし、最後だ」
「・・・無茶しないでよ?」
ティダの頭を撫でてから解析にかかった。
一人の魔人族の青年が脳内に現れた。
青年は真紅の瞳を輝かせ優しげな笑顔でこう言った。
(やあ初めまして、いやお久し振りかな?)
狂気と呼ぶに相応しくない笑顔を見てオリハは危険だと確信する。
この狂気を放置するのが危険だと。
[ああ久し振りだな・・・ギュストよ]
名を呼ばれギュストは顔を綻ばせる。
(オリハルコン・・・いや貴女には感謝しているんだ、お陰で狂う事が出来たのだから)
そう言い顔を歪ませる。
(でもここは居心地が悪いね、狂気はどうしたんだい?)
キョロキョロしながら顔を訝しげる。
[許した、いや、許そうとしておる]
(本気で言ってるのかい?)
[あの時から世界は大きく変わろうとしておるのだ]
(変わったらあの仕打ちが許されるとでも言うのかい?)
[そうだな許されない、だから我がしっかりと責任を持つ]
(身体がある事と何か関係があるのかい?・・・ああそうか、手が届くのか)
[だから・・・もうやめよ]
(やめる?何を?)
[狂気を、だ]
(やめて・・・やめてどうにかなるのか!?戻ってくるのか!?あいつらが!)
[戻っては来ぬ、が少なくとも元凶であった帝国は滅ぼしたではないか]
(だが帝国をのさばらせたのは奴等の怠慢だ!何もしなかった!何もしようとはしなかった!だから狂ったんだろ!?僕達は!)
[そんな事はない!あの時汝は!]
(それは僕であって僕じゃない!・・・僕は貴女を手に取って全知を得て狂った僕だ)
[ああ・・・わかっておる、感化され共鳴し揺り起こされて我も共に狂ったのだから]
(わかっててどうして・・・許すと、許せと言うんだ?)
オリハは胸に手を当てる。
背中にある温もりがくれるモノに手を当てる。
[母に・・・なったからやもしれぬ]
(・・・母に?)
そう言うとギュストは目を閉じて胸に手を置いた。
暫しの時が流れた。
(・・・うん、君に免じて消えてあげる)
そう言うと目を見開き悔し気な表情をオリハに向けた。
(僕は貴女の事を仲間・・・いや家族のように思っていたんだよ?)
自分を理解しながらも認めてくれない。
子がそんな親を見るように彼は問いかけた。
それに沈黙を以って答えとした。
狂気を介し互いの全てを理解し合っていた。
母となったオリハは、親のように子を抱擁しわかっている、とそう言ってしまいたい衝動に駆られる。
だからこそ肯定してはならない。
そう目に決意を宿し我が子を見つめる。
わかり合う者がわかり合う事も出来ず、互いに意思を込めた視線がぶつかる。
先に根をあげたのはギュストだった。
肩を竦め溜息をつき、まあいいさ、と。
(気をつけてね、他の僕が僕のようには判断しない・・・わかるだろ?)
そう言うと脳内から魔人族の青年が消えた。
終わった・・・そう思った瞬間、瞼を開ける間もなく地面にへたり込んだ。
「オリハさん!」
ティダが心配そうに顔を覗き込んでいる。
ハルもへたり込んだ衝撃のせいか目を覚ましていた。
「・・・大丈夫だ、腰を抜かしただけだ」
これが恐怖というものか、そう感じた。
(顔から血の気が引く、とはこのような状態なのだろうな)
不思議と含み笑いが浮かんでくる。
ギュストが中心となった魔澱みなど規模の想像も出来なかった。
脳内、肉体を経ず精神体で狂気に触れて死を感じた。
(あれが狂気を真面に受けた感覚か・・・魔物や犬や猫がああなるわけだ)
含み笑いを禁じる事が出来ずにいた。
「なんで笑ってんのさ、ほんとに大丈夫か?また無茶したんじゃないの?」
「まあ少し疲れた、宿に戻ろう」
そう言いティダと自分自身の口に飴玉を放り込んだ。
宿に向かう徒歩の中、一つの心残りがあった。
思わず片手で頭を抱えてしまった。
(・・・ギュストに我のスキルは母乳なのか聞いておけばよかった)
~~~~~~~~~~~~~~~
情報屋の常連さん視点
あれからもダークエルフの奴隷の噂はなかった。
もし売りに出されたら?
そう思ってポケットの銅貨の枚数を数える。
当然足りない、だから今日も安心して行きつけの店で酒が飲める。
ここにいるのも立派なお仕事だ。
俺を探す手間が省けるからな。
まあ、あっても魔物の生息情報、動くとしても不倫の内定くらいなもんだ。
ある日、噂が流れてきた。
ダークエルフの親子の噂だ。
どうやら国を出たらしい。
それを聞いて安心した。
あの尻は無事だったんだなってな。
ただ出る前に相当やらかしてた。
天然ってレベルじゃなかった。
襲ってきた盗賊四十人を皆殺しにして助けた村から女神様と崇められて、王都で百人近くの暗殺者の囮になって手玉に取ったそうだ。
いやいや彼女何してんの。
まあ無事ならいいさ。
いつかまたあの尻を撫でられるかもしれない。
マスターに話したら奢ってくれた。
酒一杯の情報料としては充分なネタになった。
ついでにマスターには俺から奢ってやった。
気分が良かったんだ。
だから乾杯した。
あの親子の幸せを願って。
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