赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第3章 元帝国編

3-12 神の武器、五百年前

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ふと遠くで鳴く魔物の鳴き声がしなくなったのに気がついた。

数日前まではよくブラックシケイダやシケイダキャップと呼ばれる夏にしか現れない蟲型の魔物の鳴き声がよくしていた。
シケイダ種と呼ばれる拳大の魔物は見た目よりも鳴き声で種類が判断できる。
単体では害はないが大量に発生すると鳴き声が騒音となり討伐依頼が出たりする。

地域によってはフライにして食べたりするらしい。


そして今オリハは馬車から空を飛んでいる魔物を眺めていた。

真っ赤な細長い身体に細長い四枚の羽根の生えた蟲型の魔物だ。
名はセキソツと言う。
夏から秋に変わる時期にだけ現れる。

「アレー」

とハルが自分と同じ大きさくらいのセキソツに指を差して首を傾げる。

「あれも魔物だ」

「マモノー?」

「そうだ、だから見つけても近寄ってはならぬぞ?」

わかったのかわからないのかわからないがハルは首を縦に振った。
最近ハルは物の名前をよく聞くようになった。

ゴブリンやスライムやらの個別の名前はまだ早いと、魔物はヒトを襲うのだとそう教えていた。
セキソツはヒトを襲う魔物ではないがその違いを覚えるのはまだまだ先だ。

ちなみに野盗も魔物だと教えた。
口から出す大きな汚い音でハルを怖がらせたその魔物はオリハにより首が飛んだ。

そのおかげか魔物は怖い、と理解は出来たようだ。
物心つく前は背中で笑うだけの子だったが変わるものだ、と不思議に思う。

そんなハルを三人と行商の老人が微笑ましく見ていた。


孤児院を出てからはひたすらに南へ向かった。
時に徒歩で、時に馬車で。

一つ前の街では幸運にもギルドで護衛依頼があった。
それが今の馬車だ。
街道の果てにある南の村へ帰るところらしい。

魔物に数度、野盗に一度襲われた程度だったが馬車は問題なく進んだ。

魔獣の類はオリハに近寄ろうとしない。
出てくる魔物はゴブリンやスライムばかり。
夏の日照りが激しい時期は街道でスライム焼きが出来たが、今は飛び出してきても焼けない。
そのかわりに馬や馬車に轢かれて潰れて行く。

その間の食事はオリハが作った。
味が納得いかなかったようだ。
行商の老人は婆さんのより「美味い」と喜んで食べてくれた。

さすがのオリハでも老人に母とは言わなかった。


夜明け前に夜営を引き払い村に向かった馬車は昼前には着くことが出来た。
農村ではあるが宿場もある。
町というには小さいといったところだろうか。

宿場があるのはこの国の観光地に当たるからだそうだ。

だが流行ることはなかったのだろう。
人通りが全くない。
理由としては国家間どころか一般的にも封鎖的なせいだ。

今では冒険者や行商人などの旅の経由地点と化していた。


行商の老人から依頼票にサインを貰う。
ここにギルドはないので報酬は次の町だ。

そして老人から観光地としての場所を聞いた。
オリハが今回の旅の目的地の一つとした場所だ。

そこは村はずれの閑散とした所にあった。
一つの石碑と四人の銅像。
辺りは雑草が生い茂っており人が近寄った様子もない。

その四人の銅像には何の感慨もない。
だが何となく掃除をしたくなった。
片手でハルの手を握りもう片方の手で魔法を操った。
それはオリハにとっては墓参りのようなものだった。

石碑には人、魔人、エルフ、獣人の銅像の説明と惨劇の終わりし地と記されている。

そして跪き深く黙祷を捧げた。

その様子を静かに二人は見守ってくれた。
黙祷を終えた様子のオリハにシャルが口を開いた。

「・・・オリハさん」

ティダは何も言わなかったが真面目な顔でその答えを待った。

(そうだな、あの時の説明をするなら今だろうな)

二人を見て悲しげな笑みを浮かべる。
全てを話す訳にはいかない。
それでもある程度はこの二人だからこそ話したい。

だが何と思うだろうか?
不気味だと思われないだろうか?
離れてしまうだろうか?

深く息を吸い吐くその反動を利用して言葉を出した。

「ギュストという」

「・・・五百年前この地で討たれた者の名だ」

惨劇から世界を救った四種族の勇者の事はシャルやこの国の産まれのティダも知っていた。
何せ昔話にもなっている有名な話だ。

だが惨劇の名前など誰も知らない。
誰も聞いた事がない。

二人はオリハの言葉の続きを待った。


「この地が帝国と呼ばれていた頃の話だ・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~


人の国を征服し属国としてまとめ上げた帝国。
古代と呼ばれる後期の時代から千年以上栄えた。
その支配欲は人族だけに留まらなかった。

だが魔人や獣人、エルフに比べれば人族は力も魔力もなかった。
ドワーフと比べても物作りの才もなかった。

だからなのか様々な研究を行った。
非人道的な物も含めて。

魔物を捕まえ改造した。
人造の魔物を産み出す研究をした。
他世界から力のある者を召喚した。

そして五百年前、身体の強化手術に手を出した。

実験の対象となったのは身寄りのない子供達や、他種族の子供達だった。
その中の一人に魔人と人のハーフの子、ギュストがいた。

実験は過酷を極めた。
過激な痛みや精神を破壊した。
中には手術の反動で死ぬ者もいた。
戦場に配備され帰って来なかった。

そんな彼らに研究員達は優しかった。
時に父の様に母の様に。
食事も上等なものが出された。
苦難を共に乗り越える仲間がいた。

誰も世界を平和にするためだ、という言葉を疑ってはいなかった。

そして成功と評された一期生と呼ばれる者の中にギュストがいた。

彼らは獣人を超える力を持ちエルフや魔人を超える魔力を持った。

戦争に出た一期生達は武功を挙げ続けた。
時に遊撃部隊として、陽動部隊として殿部隊として圧倒的な力を見せた。

だがそれと同時に恐れられた。
彼らが帝国の闇という真実を知ってしまったら、と。


そして極秘裏に第2期生が生み出された。


ある日一期生達は城にある訓練場に集められた。
表向きは武功を挙げた事の表彰だが、待っていたのは新型と呼ばれる二期生達だった。

単純な戦闘力でいえば一期生の方があった。
だが仲間達は血に伏していく。
手も足もまともに出せなかった。

二期生は先日まで弟として妹として可愛がっていた者達だ。
何を問うても返事もなく目も虚ろだ。

優しかった研究員は悪意しかない笑みを浮かべていた。
声をかけても襲ってくる弟妹達。
気がつけば一期生で残っているのはギュストだけになっていた。


・・・そしてギュストの手に神の武器が降臨した。


オリハルコンは大鎌の形を成した。
得たスキルは[全知]というものだった。

それは様々な魔法や戦い方を教えた。
そして何故こうなったのかを全てギュストに教えた。
弟妹達に自我がない事やもう助けられない事。
兄姉や仲間達がどうやって集められたのかを。
拐われそうになった自分を助けようとして両親がどうなったのかを。


その瞬間、帝国ごと大地が消え去った。


その後もギュストには知識が詰め込まれていった。

過去に幾度も非道な実験を繰り返していた帝国の真実。
その度に神の武器が地に降臨していた事を。
そして降臨させる以外の事を神代の頃より何もしなかった神とやらの存在を。
オリハルコンに意識があり苦しみ続けていた事を。

ギュストは大鎌を強く握った。
そして天を仰ぎ睨んだ。

全知を持ったギュストにはやる事もやらずに怠慢しかしていない神の姿が見えた。
可能な範囲でも介入する事でもっと世界を変えられるはずの神の姿が。

・・・全ての元凶は奴等だ!

そして全知は告げる。
神に手は届かないという事を。
そして晴らす事の出来ない怒りは狂気になった。

狂ったギュストは目につくモノ全てを破壊して殺した。
人族の国を回り獣王国へ向かい魔人国で暴れた。

そして戻ってきたこの地で待ち受けていた国家連合と戦う事になる。

戦いは熾烈を極めた。
戦闘は数日に渡った。

そしてあの四人に囲まれた。

彼らから放たれた渾身の一撃を前にして・・・ギュストは全ての力を抜いた。

それは狂気を介して繋がっていたオリハルコンだけが知り得た。
何故彼らを選んだのかはわからない。
疲れただけなのかも知れない。

だがオリハルコンだけは討たれる事を望んだと確信した。

そしてギュストの魂と神の武器は天へと還った。


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