44 / 162
第3章 元帝国編
3-12 神の武器、五百年前
しおりを挟むふと遠くで鳴く魔物の鳴き声がしなくなったのに気がついた。
数日前まではよくブラックシケイダやシケイダキャップと呼ばれる夏にしか現れない蟲型の魔物の鳴き声がよくしていた。
シケイダ種と呼ばれる拳大の魔物は見た目よりも鳴き声で種類が判断できる。
単体では害はないが大量に発生すると鳴き声が騒音となり討伐依頼が出たりする。
地域によってはフライにして食べたりするらしい。
そして今オリハは馬車から空を飛んでいる魔物を眺めていた。
真っ赤な細長い身体に細長い四枚の羽根の生えた蟲型の魔物だ。
名はセキソツと言う。
夏から秋に変わる時期にだけ現れる。
「アレー」
とハルが自分と同じ大きさくらいのセキソツに指を差して首を傾げる。
「あれも魔物だ」
「マモノー?」
「そうだ、だから見つけても近寄ってはならぬぞ?」
わかったのかわからないのかわからないがハルは首を縦に振った。
最近ハルは物の名前をよく聞くようになった。
ゴブリンやスライムやらの個別の名前はまだ早いと、魔物はヒトを襲うのだとそう教えていた。
セキソツはヒトを襲う魔物ではないがその違いを覚えるのはまだまだ先だ。
ちなみに野盗も魔物だと教えた。
口から出す大きな汚い音でハルを怖がらせたその魔物はオリハにより首が飛んだ。
そのおかげか魔物は怖い、と理解は出来たようだ。
物心つく前は背中で笑うだけの子だったが変わるものだ、と不思議に思う。
そんなハルを三人と行商の老人が微笑ましく見ていた。
孤児院を出てからはひたすらに南へ向かった。
時に徒歩で、時に馬車で。
一つ前の街では幸運にもギルドで護衛依頼があった。
それが今の馬車だ。
街道の果てにある南の村へ帰るところらしい。
魔物に数度、野盗に一度襲われた程度だったが馬車は問題なく進んだ。
魔獣の類はオリハに近寄ろうとしない。
出てくる魔物はゴブリンやスライムばかり。
夏の日照りが激しい時期は街道でスライム焼きが出来たが、今は飛び出してきても焼けない。
そのかわりに馬や馬車に轢かれて潰れて行く。
その間の食事はオリハが作った。
味が納得いかなかったようだ。
行商の老人は婆さんのより「美味い」と喜んで食べてくれた。
さすがのオリハでも老人に母とは言わなかった。
夜明け前に夜営を引き払い村に向かった馬車は昼前には着くことが出来た。
農村ではあるが宿場もある。
町というには小さいといったところだろうか。
宿場があるのはこの国の観光地に当たるからだそうだ。
だが流行ることはなかったのだろう。
人通りが全くない。
理由としては国家間どころか一般的にも封鎖的なせいだ。
今では冒険者や行商人などの旅の経由地点と化していた。
行商の老人から依頼票にサインを貰う。
ここにギルドはないので報酬は次の町だ。
そして老人から観光地としての場所を聞いた。
オリハが今回の旅の目的地の一つとした場所だ。
そこは村はずれの閑散とした所にあった。
一つの石碑と四人の銅像。
辺りは雑草が生い茂っており人が近寄った様子もない。
その四人の銅像には何の感慨もない。
だが何となく掃除をしたくなった。
片手でハルの手を握りもう片方の手で魔法を操った。
それはオリハにとっては墓参りのようなものだった。
石碑には人、魔人、エルフ、獣人の銅像の説明と惨劇の終わりし地と記されている。
そして跪き深く黙祷を捧げた。
その様子を静かに二人は見守ってくれた。
黙祷を終えた様子のオリハにシャルが口を開いた。
「・・・オリハさん」
ティダは何も言わなかったが真面目な顔でその答えを待った。
(そうだな、あの時の説明をするなら今だろうな)
二人を見て悲しげな笑みを浮かべる。
全てを話す訳にはいかない。
それでもある程度はこの二人だからこそ話したい。
だが何と思うだろうか?
不気味だと思われないだろうか?
離れてしまうだろうか?
深く息を吸い吐くその反動を利用して言葉を出した。
「ギュストという」
「・・・五百年前この地で討たれた者の名だ」
惨劇から世界を救った四種族の勇者の事はシャルやこの国の産まれのティダも知っていた。
何せ昔話にもなっている有名な話だ。
だが惨劇の名前など誰も知らない。
誰も聞いた事がない。
二人はオリハの言葉の続きを待った。
「この地が帝国と呼ばれていた頃の話だ・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~
人の国を征服し属国としてまとめ上げた帝国。
古代と呼ばれる後期の時代から千年以上栄えた。
その支配欲は人族だけに留まらなかった。
だが魔人や獣人、エルフに比べれば人族は力も魔力もなかった。
ドワーフと比べても物作りの才もなかった。
だからなのか様々な研究を行った。
非人道的な物も含めて。
魔物を捕まえ改造した。
人造の魔物を産み出す研究をした。
他世界から力のある者を召喚した。
そして五百年前、身体の強化手術に手を出した。
実験の対象となったのは身寄りのない子供達や、他種族の子供達だった。
その中の一人に魔人と人のハーフの子、ギュストがいた。
実験は過酷を極めた。
過激な痛みや精神を破壊した。
中には手術の反動で死ぬ者もいた。
戦場に配備され帰って来なかった。
そんな彼らに研究員達は優しかった。
時に父の様に母の様に。
食事も上等なものが出された。
苦難を共に乗り越える仲間がいた。
誰も世界を平和にするためだ、という言葉を疑ってはいなかった。
そして成功と評された一期生と呼ばれる者の中にギュストがいた。
彼らは獣人を超える力を持ちエルフや魔人を超える魔力を持った。
戦争に出た一期生達は武功を挙げ続けた。
時に遊撃部隊として、陽動部隊として殿部隊として圧倒的な力を見せた。
だがそれと同時に恐れられた。
彼らが帝国の闇という真実を知ってしまったら、と。
そして極秘裏に第2期生が生み出された。
ある日一期生達は城にある訓練場に集められた。
表向きは武功を挙げた事の表彰だが、待っていたのは新型と呼ばれる二期生達だった。
単純な戦闘力でいえば一期生の方があった。
だが仲間達は血に伏していく。
手も足もまともに出せなかった。
二期生は先日まで弟として妹として可愛がっていた者達だ。
何を問うても返事もなく目も虚ろだ。
優しかった研究員は悪意しかない笑みを浮かべていた。
声をかけても襲ってくる弟妹達。
気がつけば一期生で残っているのはギュストだけになっていた。
・・・そしてギュストの手に神の武器が降臨した。
オリハルコンは大鎌の形を成した。
得たスキルは[全知]というものだった。
それは様々な魔法や戦い方を教えた。
そして何故こうなったのかを全てギュストに教えた。
弟妹達に自我がない事やもう助けられない事。
兄姉や仲間達がどうやって集められたのかを。
拐われそうになった自分を助けようとして両親がどうなったのかを。
その瞬間、帝国ごと大地が消え去った。
その後もギュストには知識が詰め込まれていった。
過去に幾度も非道な実験を繰り返していた帝国の真実。
その度に神の武器が地に降臨していた事を。
そして降臨させる以外の事を神代の頃より何もしなかった神とやらの存在を。
オリハルコンに意識があり苦しみ続けていた事を。
ギュストは大鎌を強く握った。
そして天を仰ぎ睨んだ。
全知を持ったギュストにはやる事もやらずに怠慢しかしていない神の姿が見えた。
可能な範囲でも介入する事でもっと世界を変えられるはずの神の姿が。
・・・全ての元凶は奴等だ!
そして全知は告げる。
神に手は届かないという事を。
そして晴らす事の出来ない怒りは狂気になった。
狂ったギュストは目につくモノ全てを破壊して殺した。
人族の国を回り獣王国へ向かい魔人国で暴れた。
そして戻ってきたこの地で待ち受けていた国家連合と戦う事になる。
戦いは熾烈を極めた。
戦闘は数日に渡った。
そしてあの四人に囲まれた。
彼らから放たれた渾身の一撃を前にして・・・ギュストは全ての力を抜いた。
それは狂気を介して繋がっていたオリハルコンだけが知り得た。
何故彼らを選んだのかはわからない。
疲れただけなのかも知れない。
だがオリハルコンだけは討たれる事を望んだと確信した。
そしてギュストの魂と神の武器は天へと還った。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる