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第3章 元帝国編
3-11 神の武器、ハル
しおりを挟む斬り裂かれた首から狂気の臭いが離れるのを感じる。
そして横をすり抜けていく狂気にオリハは誓いと宣言をした。
「我が好きにはさせん」
先程の色の無い目は今は力に溢れていた。
「何度でも何度でも我が立ち塞がろう、汝が諦めるその日・・・まっ?!」
すり抜ける狂気を背にいるハルが掴んだ。
そしてそのまま口に入れモグモグしている。
・・・なっ、何だと?狂気とは食えたのか?いやその前になぜ掴めた?
そんな事を呆然と考えているうちに飲み込んだ。
「なっ!い、いかん!吐き出せ!ぺっ!とするのだ、ぺっ!と」
ゲップを出させるようにハルを抱き背中を叩く。
「やー!やー!やー!」
と拒否し暴れる。
これがイヤイヤ期というやつか?!
とオリハは途方に暮れたのだった。
その後も何とか吐き出させようと四苦八苦する。
慌てて駆け寄ってきた二人にハルが狂気を食った!と涙ばかりに説明をした。
そしてシャルとティダも意味がわからず途方に暮れた。
戦いは終わりを迎え、いつの間にか辺りには人集りが出来た。
ドラゴンなど見た事もなかっただろう。
しかもそのドラゴンを一刀のもとに切り捨てたエルフは跪き子供の背を叩き慌てふためいていた。
「マ、マム?」
様子のおかしいオリハに冒険者が声をかけた。
そして唐突に思い出した。
ご飯を創ろうと言った事を。
馬車に乗せた網と焼肉のタレを。
「すまない、母は約束を違えた」
「・・・」
「共に・・・共に焼肉を食べようと誓ったのに・・・」
そして一筋の涙が頬を伝った。
「・・・!」
その時ようやく冒険者達は気づいた。
この人ガチだったんだ、と。
だがそれと同時に思い出していた。
自分達の母親が懸命に育ててくれた事を。
邪険にして悲しませた事を。
そしていつか贅沢をさせてやろうと親孝行をしようと冒険者になった事を。
「「「「「「・・・マム!!!」」」」」」
涙や鼻水を垂らしながら厳つい冒険者達が跪くオリハに駆け寄ってくる。
「すまなかった」
「そ、そんな事はねえ!」
「あんたは俺たちにっ!俺たちのっ!」
跪くオリハを慈しむ様に群がる冒険者達の姿を焼肉の誓いをしていないシャルとティダが近寄らないように眺めていた。
そしてドラゴンを見に来ていた北の戦線の冒険者達も遠巻きに眺めていた。
そしてその日よりオリハの二つ名が変わることになる。
腐竜殺しの聖母、と。
今回の討伐戦による報酬はかなりの高額になった。
ドラゴンゾンビの皮や肉は素材に向かないが、骨は特級の素材だ。
骨はギルドが買い取り報酬に上乗せされた。
だがオーク共の死骸がドラゴンゾンビになった事は問題視された。
直接対峙したオリハにも質問が相次いだ。
だが知らぬ存ぜぬで押し通した。
狂気が魂に宿って進化したとかその狂気がドラゴンゾンビになったなど、誰が信じるだろうか。
ハルがその狂気を食ったと。
食べた後、解析してみたり異常がないか念入りに調べたが何もなかった。
だが翌朝ハルは熱を出した。
狂気と対峙した直後の二度目の熱だ。
流石に関連性を疑う。
思えば違和感は確かにあった。
あの言葉がオリハにではなくハルに向けられたものだとしたら?
一度目の熱の時はどうだった?
あの時は狂気を感じなかった。
前日に臭いもなかったように思う。
一度目はシャルの言う通りよくあるものだったのか?
二度目の時も食ったのか?
オリハは考えがまとまらないままにハルの看病に追われた。
そして二日後、熱の下がったスースーと寝息を立てるハルを撫でながら思う。
ハルはただのヒトの子だ。
魂を見る限りスキルの発動すらないだろう。
オリハルコンの所有者としては更に足りえない。
魔法に才があるようにも感じない。
だが我にすら出来ない事を目の前で成した。
神の武器としてハルの元に降り立った事には深い意味があるのか?
(・・・まあよい)
深く息を吐き答えの無い思考を自ずとやめた。
(ハルはハルだ、可愛い我が子だ)
結論は可愛い、結果として親バカだった。
熱が引いて更に五日が過ぎた。
ハルが孤児院の子供達をヨタヨタと追いかけている。
天使の共演を目の当たりにして、やはり遊び相手のいる環境の方が育っていくには良いのだろうか?と考えてしまう。
ハルには申し訳なく思わなくもないが、もうしばらく旅に付き合ってもらわなくてはならない。
ギュストに心から世界は変わったのだ、と言えるようにしっかりと見て回らなくてはならないからだ。
いずれは永住の地を見つける事になるだろうが、今はその時ではない。
だからお別れを告げる。
ティダとシャルは溜息をつき微笑んだ。
決心するのが遅いと思われていたのだろうか。
子供達は「いやだー!」と抱きついてくれた。
神父も抱きつこうとしてアイアンクローされた。
その日の夜は泊まる事にした。
何故か網と焼肉のタレが山程あった。
オーク肉ではないが高い肉を用意した。
子供達も喜んでくれた。
神父がワインを出してくれた。
隙を見てティダがオリハと神父のグラスを交換した。
神父はぐっすり寝ていた。
だから安心して朝まで子供達と過ごせた。
翌朝オリハが朝食を用意した。
孤児院を後にする時に「また来てねー!」と見送ってくれた。
約束は出来ない、だから返事も出来ない。
せめて笑顔で手を振ろう。
また会いたい、と心を込めて。
そして神父が起きたのは昼過ぎだった。
そこからまず南の街に向かった。
街道を行く徒歩の旅だ。
オークキングが引き連れた影響だろうか。
魔物が殆ど出なかった。
たが旅は退屈を伴わない。
シャルとティダとハルのおかげだ。
話をしながら歩けば夜を迎えた。
ハルは自分で歩きたがった。
ペースは遅れても誰も文句は言わない。
魔人国という旅の通過点は少しづつ近づいていた。
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