赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
42 / 162
第3章 元帝国編

3-10 神の武器、調理

しおりを挟む


オリハは過去の記憶を思い出す。

オークキングは視たことがあった。
厄介なのは膂力でもなく魔力でもない。
圧倒的な再生能力と生命力だ。

なにせ所有者が幾度切り刻もうとも再生してしまうのだ。
腕を切り飛ばせば腕が生える。
脚を切り飛ばせば脚が生える。
首を飛ばせば首から下が生えてくる。

切り飛ばした部位はすぐに腐敗を始める。
新しく生えた部位は見た目は変わらないが熟成されていない肉の為旨味もない。

なので討伐した頃には不味い肉しか残らないのだ。

だからこそオリハは確信を持っている。
討伐しなければ良いのだ、と。


ティダ達を乗せた馬車がオークキング共を横切る。
だが反応はない。
オリハの発する異様な気配がそれをさせない。
ゆっくりと距離を詰める。


北より冒険者による防衛線、魔物の群れ、ティダ達の一団、オークキングとオークジェネラル、オリハの形となった。

最初に痺れを切らしたのはオークキングだった。
ブヒブヒ鳴くとオークジェネラル四匹のうち二匹が戦斧を振り上げ向かってきた。
残った二匹が「ブ、ブブヒ!」と鳴き、火の魔法を放った。

だがそれが届くことはない。
ボシュゥと音を立てて火が消え去る。
その様子を意に解することなく戦斧がオリハ目掛けて振り下ろされる。

だが当たることはない。
地面に戦斧が突き刺さる頃には既にオークジェネラルを通り過ぎていた。
そして首が二つ落ちた。

その勢いのまま前に駆ける。
ハルは大はしゃぎだ。

「「ブヒブブ、ブブヒ!」」

オークジェネラル共が両の手を前に突き出し、その先に炎が集まる、がその炎を隠れ蓑にして土の槍が二匹の頭を撃ち抜いた。

その間を駆け抜けたオリハに意匠の異なる戦斧が鋭く刺し出される。
剣の柄を戦斧に添え軌道を変えるとそのままの勢いでオークキングの首元に剣閃を放つ。
だがオークジェネラルの時とは違い、首の1/3程の傷しか残せなかった。

血が勢い良く噴き出す。
恐らく頸動脈を捉えたのだろう。
オークキングは牙の見える口を大きく歪ませた。
傷が塞がり血が止まる。
そしてオリハに無駄だ!と言わんばかりに「ブヒ!」と一鳴きした。

嘶く横薙ぎが大気を震わせる。
オリハは更に踏み出し戦斧の柄を叩き落す。
落とされた斧先は地面を抉り取る。
更に踏み出していたオリハは、巻き込まれることなく首元に剣閃を放った。
血が勢い良く噴き出すも首は落ちない。
やはり1/3程の斬り傷を刻むだけだ。

後の先をオリハが取り首元から血が噴き出す、このやり取りがしばらく続く。


オークキングは訝しげに目の前の肉の柔らかそうな餌を背負った雌を睨む。
自分の攻撃は全て去なされる。
魔法を使おうとしても手元で消え去る。
ただ執拗に首元だけを狙ってくる。
その斬撃には敵意も殺意も感じられない。
その雌からもだ。

手加減をされている?
幾百の軍勢を率いた王たる自分が?

そう察すると怒りの威圧の咆哮を上げた。
咆哮は大気を震わせ大地を揺るがす。

オリハは真空の幕で周りを覆いハルを守る。

巫山戯るな!手脚を喰いちぎりその餌を目の前で囓りながら苗床としてくれるわ!
と言いたげに「ブヒ!ブヒ!」と唾を飛ばし鳴き喚いている

だが唾も鳴き声もオリハには届かない。
真空の幕がそれすらも防いだからだ。

憤怒を込めたオークキングの攻撃だったがその全てを後の先で返された。
先程と何も変わることなく。
ただ首元より噴き出す血だけが憤怒の影響にあった。

自分の攻撃が当たること無く何故だ!という苛立ちが、何をされているのか?の疑問に変わりだした頃オークキングはようやく気づく。

首元に向けられた斬撃が一部の違いも無く同じところである事を。

そして膝が覚える違和感で気がつく。
無限のごとく生み出される血液が度重なる出血で終わりを迎えようとしている事を。

怒りや嘆きにより魔物として産まれた。
ある日心の中に飢えを感じた。
飢えが底まで沈んだ時声がした。
気がつけば王者として進化していた。

王として魔物として戦いの果てに骸と化す事に幾許の躊躇いもない。

だがこれは何だ?淡々とこなされる戦いではない不気味な作業により、この命を失おうとしている。

心の底が望む蹂躙をまだ何一つ成していない。

気がつけば後ずさっていた。
戦斧を手放していた。
斬られ続ける部位を手で覆い隠していた。
手が脚が震えていた。

その様子を見てオリハは舌打ちをした。
そして呟いた。


「ストレスが肉を不味くするではないか」


味が落ちるかもしれない。
もう一刻の猶予もなく終わらせなければならない。

覆う手首を半分だけ斬る。
露出した首元を再度斬る。
反対側の腕の手首を半分だけ斬る。
裏に回り両足首を半分だけ斬る。

そして血が噴き出す。
最初のような勢いがない事を確認して、頭に突きを穿ち脳を吹き飛ばす。
そして首を刎ねた。

再生する事なくその美味しいお肉は地に伏した。

そしてオークキングの血抜きと屠殺が終わった。


その影響はティダ達の戦場にも及んだ。

オークキングの統率化にあった魔物達が支配から解き放たれたからだ。
ある魔物は逃げ出した。
ある魔物は現状が理解できず固まっている。
同士討ちを始める魔物まであった。

そこにいた者達が振り返ると、血を吹き出し倒れるオークキングと残心から納刀し笑顔であろうオリハの背中があった。

歓声が湧き起こった。
マムコールが鳴り響く。

北の戦線も魔物の状況と歓声を聞きオークキングが討たれた事を知るだろう。

マムって何?と思いながら。

ティダとシャルだけはオリハがやらかさなかった事に胸を撫で下ろし安堵した。


だが二人はオリハの気配が変わった事に気がついた。
オークキングに対しても飄々としていた気配が緊張感を帯びている事に。
そして見た。
オリハが後方へ大きく飛び退いたのを。


首の無い地に伏したオークキングからこの戦場を覆う程の巨大な薄紫色の魔法陣が展開された。

それによりマムコールは鳴り止む。

素材や食料となった筈の魔物の肉がズリズリと蠢く。
魔法陣の収縮が起こり、それに合わせてオークキングであったモノに素材や食料が重なって一つの肉片となっていく。

そしてオリハが膝をついた。
悔しさが伝わるほどに地面に拳を打ち立てている。

「マムに何かあったんじゃねーか?!」

「いや、多分オークキングが食べられなくなって悔しがってるんだよ」

その発言をしたティダをそんなバカな、と周りの冒険者は言う。

確かに「食べたいか?」とマムは言った。
だがそれは支配者級と呼ばれる魔物を前に俺達を鼓舞する為だったと思っているからだ。
だがシャルだけは禿同だ。


悔しがるオリハを置いて魔法陣が巨大となった肉片に集まる。

収縮が終ると共に肉片の形成も終わっていた。
死肉により形成されたそれは巨大なドラゴンの形を成した。

見上げるそれは北の戦線からも見えただろう。
何処からともなく声がした。

「ドラゴンゾンビだ!」

ドラゴンゾンビは天を仰ぎ口を開いた。
天を揺るがす咆哮をあげた。

「GUGYAAAAAA!!!!!」

冒険者達は動けない、魔物達もだ。
腰を抜かしている。

劈く程の音の中、シャルとティダだけが駆けだした。


オリハは一人ショックを受けていた。

凄く頑張ったのだ。
討伐するなら他に楽な手段はあった。

だが美味しく食べたかったのだ。
調理の際の手間は美味しさに繋がるのだと一斬り一斬り愛情を込めて。

ティダやシャルが食べて喜ぶ所を想像しながら、マムと慕う者共の美味しさに綻ぶ顔が見たかったのだ。
ハルには一番いい所を咀嚼して食べさせよう。
溶けるような肉なら普通に食べられるか?
そんな事を考えながら。


深い溜息をつきながら立ちながら膝を叩く。
色の無い目で薄紫色をした塊を見上げてあの時の言葉を思い出していた。

(他の僕が僕のように判断しない・・・)

警戒し思わず飛び退いたのはあの臭いがしたからだ。

あのオークキングからはその気配も臭いも何もなかった。
恐らく知らぬ間に魂に取り憑かれてしまい、その影響で急激に進化させられたのだろう。

だがオークキング如きで満足する様な狂気ではない。
最初から利用する気だったのだ。


色の無い目に魔力を灯した。
薄紫色の塊が踏みしめていた筈の大地に埋まっていく。
大地は大きな沼と化していた。

抜け出そうともがくが飛び出すのは汚泥のみ。
自重に逆らう事が出来ず深みに嵌っていく。

(だからこそ我が)

オリハは鬱憤を払うように全身に魔力を練る。
再度抜刀し正眼に構え、剣に負荷の無いよう魔力を通した。

眼球が無いのに紅い火を灯す視線が眼前に表れる。

(我がこの手で)

腐竜の足掻く叫びをかき消すように鈴を転がすような音色が響く。

いつの間にか振り抜かれた剣により物理障壁の五芒が二つに裂け、紅い視線は消失した。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...