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第3章 元帝国編
3-9 神の武器、王と呼ばれる肉
しおりを挟む「ほかには?まだお話しある?」
目を輝かせ子供達が強請る。
酒場でわしの若い頃は、と強引に若者に語る老人を思い出し恥ずかしい思いがこみ上げる。
だがかわいい子供達の希望だと諦める。
今のは魔人族が悪者側であったな。
次は魔人族側からにするか、と少し乗り気味なオリハであった。
そんな楽しい時間も過ぎ夕刻を迎えた。
今日も皆出迎えてくれた。
「今日は素晴らしいお話しをありがとうございました」
神父であるエストンがそう言った。
い、いやそんな事は、と恥ずかしくなる。
「いえ浅学ですが史実も学んでおります、その史実の物語より今日の物語の方が真実だったような気がしました」
そう笑顔で言ってくれた。
助けられてばかりだな。
ここに来て良かったとそう思えた。
「そしてその物語を彩る美しい声、出来るなら枕元で朝の目覚めをその声でしていたっ!痛い痛い!」
と台無しになる前にアイアンクローを決めてくれたティダに感謝をする。
宿に戻る途中、息急き切って駆け寄る姿があった。
「あ、良かった!」
「フィナ?どうした、トイレか?」
「あんたと一緒にしないで!出たのよ!」
「あー・・・一緒に行ってやろうかっ・・・っ!」
鳩尾にシャルの肘鉄がキレイに入った。
フィナが頭を抱え込んで呻く。
「なんで・・・こんな奴のこと・・・」
「うん、ほんとね・・・そう思う」
と二人は抱きあった。
「お、オリハさ、ん・・・か、回ふ、くを・・・」
流石にティダが全て悪いので母の癒しはあげれない。
せめて別の癒しでもとハルを近づけた。
ハルの半分は癒しで出来ているからだ。
残り半分は可愛さだ。
「ヤー!」
「め、目が!目がぁぁあああ!」
キレイな抜き手が目に刺さった。
あの時の教えは役に立ったんだなぁ、と感心した。
三人が、いやハルも含めて四人が落ち着くのを待ち話を聞い所、西の森にオークキングが部下を引き連れて立ち入ったのが確認されたらしい。
北の町と南の街とこの街の中間に森があるので恐らく、と前置きして北に向かう陣形、オークキングが南側になる形を取っているようだ、と。
北に向かった場合、こちら側は追撃してからの挟撃役になるそうだ。
早朝より会議も兼ねてギルドに集合する事になった。
ティダが孤児院に明日は行けそうもない、と伝えに行ってくれた。
宿に三人揃ってから食事をして早めの就寝とした。
この街のギルドマスターは事務方らしく戦闘の参加は出来ないらしい。
ただバックアップはしっかりやります、と情報を集めてくれていた。
予想通り北へ進軍を始めたらしい。
オークキングの周りにはジェネラルやハイオークなどの上位種で固められているとの事。
追いついた場合、北側で待ち受ける冒険者よりも厳しい戦闘になる事が予測される。
時間を稼ぎ北側から追い上げが来る、もしくは南側の街からの応援を待つのが最善ではないだろうか?と。
殆どの者がこれに同意。
危ない橋をわざわざ渡る必要はないからだ。
「すまぬが・・・一つ良いか?」
「はい、どうされました?」
「作戦指揮とは別に動きたい、単騎でよい、オークキングは我にやらせてもらえぬか?」
この発言にどよめきが起こる。
ドラゴンには劣るとはいえまずお目にかかれない支配級の魔物だ。
二つ名持ちとはいえC級がどうにか出来る相手じゃない。
これに一人の冒険者が食ってかかった。
「おい姉ちゃん、調子のってんじゃねえか?」
「だったら何だ?」
「あんた一人が戦線を離れて、もし被害が出たらどうすんだってんだ!」
「・・・一人離れた所でどうにかなる面子ではないと思ったのだが、我が節穴だったか?」
思った方向の反撃ではなかったので狼狽する。
「い、いや、そう言ってもらえると嬉しいんだけどよ・・・な、なんて言うか万が一?そうだ万が一があるだろ?」
「では一つ聞く・・・オークキングを食いたくないか?」
「・・・は?」
「オークキングを食いたくないかと聞いておる!」
「ま、まあ食えるなら?」
オリハは深い溜息をつき首を振る。
「歴史を遡ってもジェネラルを食べた記録はあってもオークキングを食べた記録はないのだ」
「は、はあ」
「つまりオークキングを食べるという事は世界初の快挙なのだぞ?」
「「「「「「!?」」」」」」
「間違いなく食した感想が歴史書に載るだろう・・・名前付きでな」
「「「「「「!!」」」」」」
「歴史書に載るような冒険者になってみたくはないのか?」
「い、いや、そりゃよ、だが誰も出来なかった事なんだろ?姉ちゃんに出来るのかよ?」
「過去の歴史を鑑みてこれだ、いやこれしかない、という方法は考えておる」
「お、おい本当なのか?」
「もう一度問おう、オークキングを食べたくはないか?」
「・・・ああ!食いてえ!」
その声を皮切りに至る所から声が上がる。
シャルとティダは頭を抱えていた。
「・・・諸君、我はオークキングが大好きだ」
「食べる事が好きだ、肩ロースが好きだ、肩肉が好きだ、ロースが好きだ、ヒレが好きだ、バラが好きだ、モモが好きだ」
「網に並べられた豚肉が炭火の弾ける音と共に肉汁が跳ね飛ぶのが好きだ」
「口の中に放り込まれた肉の旨味が噛み砕くたびにばらばらになった時など心が躍る」
「諸君、母はオークキングの焼肉を望んでいる」
「諸君、母に付き従う冒険者諸君」
「君達は一体何を望んでいる?」
「バラ!」「ロース!」「ヒレ!」
「よろしいならば焼肉だ」
「「「「「「オー!」」」」」」
「征くぞ諸君!」
「「「「「「YES!マム!」」」」」」
「ご 飯 を 創 る ぞ」
宿からギルドに向かう途中の話だ。
ティダとシャルはオリハの単騎を反対した。
オリハが条件付きで認めよ、と言い出した。
もしギルドの冒険者全員が単騎を認めたら構わぬか?と。
舐めていたのだ。
オリハの食に対する執念を。
そして二人は思う。
こんな事になるなら反対なんてしなければ良かった。
そこからの行動は早かった。
武器とフォークとナイフ又は箸を持ち何台かの馬車に別れて乗り込んだ。
それぞれの馬車の隅には既にある物が積み込まれていた。
そう、網と焼肉のタレだ。
途中、馬の為にも休憩は必ずとった。
昼食は空腹は最高のスパイス!を合言葉に乗り切った。
シャルとティダはちゃんと食べた。
他の者の視線など御構い無しに食べた。
ハルはオリハが食べさせた。
トチ狂ってはいないようだ。
そして夕刻を前に眼前にオークの群れが見えた。
敵の先行部隊が北の防衛線に差し掛かり挟撃の形となった。
「マム!敵が見えたぜ!」
「では作戦通りに頼む!」
「「「「「「YES!マム!」」」」」」
と三人の乗る馬車だけ減速する。
「うむ、シャルやってみるか?」
「わ、私ですか!?」
「アレは早々使う機会などないぞ?」
そう言うと悪戯っ子の様にニヤッと笑う。
「・・・じゃあ実験体になってもらいますか」
そう言うと同じ様に微笑んで、浮遊魔法をかけ馬車から飛び降りる。
ふわっと地面に着地し深く息を吐く。
横を駆け抜ける馬車を無視し魔力を練る。
「名も無き歌よ 捧げた罪よ 」
杖の先から七つの魔力玉が連なる。
杖を掲げたまま大きく回す。
弧を描き大空を舞う。
「裁きは嵐に 宿るは激しさ」
徐々に魔力玉は速度を増していく。
そして杖を地面につけた。
上空を大きく舞う魔力玉が輪を縮めていく。
その下には敵の一団だ。
「其が落とせしは無情の羽ばたき」
杖で地面を二度叩く。
魔力玉が激しく回る真下に魔法陣が現れる。
その真横に魔法陣が重なるように現れ、真上に輪が出来た。
「七色よ 抱いて眠れ」
回る魔力玉と魔力の輪が魔法陣目掛けて降り注ぐ。
「Conflict Hurricane!!!」
魔法陣より二つの回転が異なる颶風が巻き起こる。
「ぐぐぐっ、ああもうやっぱり外で組んだ術式の方が弱い!」
颶風の中心にはオークキングとジェネラル達が魔法障壁を張り巡らせている。
だがその周りのハイオークやオーク達は颶風に巻き込まれ身体を裂かれていく。
飛び降りた馬車が止まっており、オリハとティダが横に来ていた。
「だが重ね掛かっている颶風の所は高位魔法の威力を充分超えておるぞ」
「ぐぬぬぬぬっ」
「いやいや、充分すげえって」
シャルが行ったのは詠唱と無詠唱で体外で術式を使い、手を加えた呪文で二つの高位魔法を一つにまとめたあげたものだ。
異なる魔法だと起動が上手くいかなかったので、同じ種類の魔法を重ねて唱えたのだ。
その際に外の術式の颶風の向きを逆回転にして威力を上げようとしたが、まだ修練が足りなかったようだ。
「上出来だ、後は任せよ」
そう言いシャルの頭を撫で残ったオークキングとジェネラル共を見た。
既に先行して、奥の魔物の群れに突入して行った冒険者達の戦闘も始まったようだ。
二人は頷き馬車に乗り込んだ。
「無茶しちゃだめですからね!」
「出来たらでいいからなー焼肉!」
そう言いオリハとハルに手を振った。
「そういう訳にもいかぬのだ」
呟くようにそう言い手を振り返す。
「我がどうしても食べたいのでな」
歴代のオークキングの中でも間違いなく初めてだろう。
純粋な食欲の目で見られるのは。
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