49 / 162
第4章 魔人国、前編
4-3 神の武器、鞭
しおりを挟むまだ日も開けぬ頃おねむのハルを抱き宿を出た。
そして徒歩で南東の街に向かう。
車が推奨されているだけで徒歩が駄目とは言われていない。
そして街道は通らず草原を行く。
気配探査魔法を使いながらズンズンと進む。
ボブゴブリンとゴブリンが「ギィギィ」と群れで出てきた。
歩みを止めず土属性の高位魔法「Steep Crag」で全て串刺しにした。
ちゃんと岩山は更地に戻した。
自然破壊は良くない。
キラービーと呼ばれる毒のある魔蟲が群れで出てきた。
「Hurricane」で粉々にして吹き飛ばした。
雨時々蜂の破片だ。
ビッグパイソンと呼ばれる大型の蛇の魔物が出てきた。
ここでようやくオリハの歩みが止まった。
重力魔法「Gravity Arrest」で胴体だけ押さえつけて剣で首を刎ねた。
首がなくても胴体がしばらく跳ねるからだ。
胴体を重力魔法で押さえつけてるので自然と血抜きが出来た。
動きがなくなってから魔法を解除して皮を剥ぎ内臓を取り水で洗う。
適度な大きさに切り、串を刺して火を起こし焼き始めた。
その間に血の匂いで寄ってきたゴブリンは地面に埋めた。
白焼きの状態でまず一口食べた。
次にこれだ!と塩とハーブを振りかけ齧りついた。
(悪くはないが・・・これはスープだ!)
ペロッと平らげ蛇肉のブロックを魔法で冷凍保存して、リュックとは別の大きな巾着袋に入れた。
持てない分と火の始末をしてまた歩き出した。
こうしてオリハの食糧行脚の旅が始まった。
気がつけば町を出て五日が過ぎた。
ハルを抱えリュックを背負い大きな巾着袋は宙に浮かせていた。
その巾着袋も既にパンパンだ。
狩って調理しての日々であまり眠る事は出来なかったがオリハは満足していた。
肉ばかりだがとても満足だった。
足りない栄養素は丸薬で補えたからだ。
ハルも道中の沼で出くわしたサンダーイールという魔物の柔らかい肉が気に入ったようだった。
そうして草原を抜け夕食をとり街道に出て、先にある街に向かった。
流石に眠かったが街道で眠り車に轢かれても大変だ。
一晩歩けば街に着くだろう、街に着いてから宿でゆっくりすれば良いと夜通し歩いた。
ハルは気持ちよさそうにオリハに抱きついて眠っている。
辺りが明るくなる頃には街についた。
人の目があったが巾着袋は浮かせたままだ。
オリハは眠すぎて考える余裕がなかったのだ。
街の門兵に場所を聞き宿に向かった。
「そこの角を曲がれば宿が見えるから」とその角を曲がった。
そこでオリハの目に入ったのは宿ではなく、恰幅のいい魔人の男が少女の手を掴み声を荒げている所だった。
「待ちなさいっ!」
「は、離せよっ!」
その時落ち着いて感情を嗅いだり感じていれば気がついたかもしれない。
周りを見渡せば様子がおかしい事に気がついた筈だ。
だがとても眠かったのだ。
そんなオリハが子供を優先してしまうのは仕方なかった。
駆け寄り男の手首を強目に掴んだ。
「年端もいかぬ子に何をしておる!」
男の顔が苦痛に歪み膝をついた。
手首からギリギリと音がする。
手を離された少女が走って逃げている。
そしてこの時点で違和感を覚えた。
逃げた少女から負の感情を、顔を顰める男からは何故か劣情を感じる気がした。
「も、申し訳ないが・・・私があの子に財布を掏られたんですよ」
「・・・!?」
オリハは慌てて手を離した。
周りには人集りが出来ていた。
男の後ろにいた侍女らしき女が「痛かったですか?」と聞き「凄くな」と男が手首を振りながら苦笑いをしていた。
「も、申し訳ない!てっきり襲っているのだとばかり!」
「いや大したものですね、掴まれただけで手の骨が砕けるかと思いました」
そう和かに言う恰幅の良い男からは害意も悪意も感じなかった。
よりオリハに罪悪感がのしかかる。
あわあわと半泣きだ。
「すまぬっ!なんとお詫びすれば良いか!」
頭を下げるしか思いつかなかった。
そんなオリハに男は声をかける。
「お詫び、ですか・・・なら一つお願いを聞いて頂いてよろしいですか?」
「出来る事なら何でも致す!」
男は侍女の前に手を出し「アレを」と促した。
女は頷き変わった鞭を男に手渡した。
叩かれるのか?だが手の骨を砕きかけたのだ、仕方あるまい、と覚悟を決めたが、男は鞭の柄をオリハに差し出した。
「これを」
訳もわからずその変わった鞭を受け取った。
オリハは多節鞭という武器になった事もあった。
手に取った鞭は皮のハタキの様な物で攻撃力は無さそうに見える。
男は上着のボタンはどうなった?という程の勢いでバッ!と上着とシャツを脱ぎ捨てプルンと脂肪を揺らし四つん這いになった。
「さあ!」
「?!」
何がさあ!なのか全く意味がわからない。
周りの人々は「またか」や「相変わらずだねえ」など止めもせず呆れている。
「出来る事なら何でもと仰ったではありませんか!」
この鞭で叩けと?何故?と、オドオドと助けを求める様に侍女を見た。
助けを請われた事に気がついた侍女は、手を自分の主人に向け首を傾げ笑顔でこう言った。
「この豚めを思いっきり叩いてあげて下さい」
訳が分からないがもうそうするしか思いつかなかった。
「ああ!もうっ!」バチィィィン!!!
鞭を振り上げ勢いよく男の背に振り下ろした。
鞭を扱う時の心得なのか手首のスナップは大変よく効いていた。
音が街の中を駆け抜ける。
「くぅ!!!」
その瞬間に理解した。
男は叩かれた瞬間、劣情を激しく催した。
叩かれて喜んでいるのだと。
「す、素晴らしい、その鞭でこれ程の痛みを・・・さあ!もう一度!」
「も、も、もう良いであろう?」
そういうのを喜ぶ者がいる事をようやく思い出した。
確かドMとかいう者だ。
「何でもと仰ったではありませんか!さあ!」
この者は叩かれて快楽を?だが人前であるぞ?恥ずかしくは・・・そういう趣向を好む者もいると記憶に!だが我はそんな趣味は、それに・・・と完全に狼狽えていた。
「い、いやだが・・・その、だ、な」
男は溜息をつき首を横に振りながら立ち上がった。
「可愛らしい御子もいらっしゃるのにその様な生娘みたいな事を」
侍女からシャツを受け取りながら、男は大きく肩を落とし落胆していた。
「い、いやこの子は我の娘ではあるが拾い子であって・・・」
「なんと!では貴女様は処ぶふぅ!」
脂肪をプルプルさせクルクル回転しながら男は宙を舞った。
地面に落ちてもその回転は止まる事を知らなかった。
オリハは平手打ちをかましていた。
顔は真っ赤になり涙目でプルプルしている。
何故か逃げようと思った。
謝罪より逃げようと思った。
どうでもいいから逃げようと決めた。
そして気がつけば宿の一室にいた。
布団にくるまってプルプルしていた。
ハルがいい子いい子してくれていた。
太陽がお昼を知らせていた。
ハルに朝食を我慢させていた事に気がついて慌てて食事にした。
オリハも昼食を食べてそして寝た。
・・・全てを忘れる様に。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる